・・・ Small Storm ・・・
小さな嵐
「うわーっ!」 「ちょ・・っうわ・・て」 「危ないっ!・・!!」 「いったぞ・・・っ!」 今日も今日とて、ポッター家は賑やかだった。 ジェームズとリリー、その仲間たちに祝福されて生まれてきた子供。 『ハリー』と名づけられた子供は、元気良く成長中だった。 どれくらい元気かというと・・・。 「シリウス!後ろだ!受け止めろ!間違っても割るなよ!その花瓶はリリーのお気に入りだ!」 「・・っだったら、そんなものをこの部屋に置いておくなっ!!」 必死の形相のジェームズと、それ以上に必死な表情のシリウスは背後から飛んできた花瓶を見事に キャッチする。はぁぁと二人の口から安堵の息が漏れる。 ・・・のも束の間。 今度は哺乳瓶が襲来する。 その次は絵画・・・その次はべビー服。 極めつけに。 「「ハリーっ!!」」 ハリーを積んだ揺り篭まで飛んでいる。 ―――― そう、魔法使いの子供だということを差し引いても、ハリーはちょっとどころでなく元気の 良すぎるお子様だった。 しかも言葉も何もわからない赤ん坊である。 魔法は無闇やたらに使ってはならない、なんてルールがあると言っても無駄。 ハリーは本能の命ずるままそこらじゅうのものを飛ばし、自分まで飛ばし、きゃっきゃっとそれはそれは 可愛らしい声をあげて喜んでいるのだった。 「・・・・今からこれか・・・・先が思いやられる。さすがお前の息子だ・・・」 「何を!きっと名付け親に似たに違いない!べったりお前がはりついているから、悪い癖がハリーに 移ったんだ!」 お互いに責任のなすりあいを始める大の大人二人。 涙を誘わずにはいられない光景である。 「仕方ない。今日という今日こそは・・・ハリーにちゃんと言って聞かせないと」 「そうだぞ。子供の躾は親の責任だからな」 「お前が言うな、お前が」 即席コントを繰り広げる二人は、何とか飛んでいるハリーを捕まえると真面目な顔で覗き込んだ。 「ハリー、いいかい。魔法というのはね・・・」 「ぱぁ〜ぱぁ〜vv」 「・・・・・。・・・・・く・・・・・くそ・・・っ」 まさに天使のごとき愛らしさで笑顔で『ぱぱ』なんて呼ばれて落ちない父親がいようか。いるわけない。 真面目腐った顔はふにゃりととろけて、『はい、ぱぱでちゅよ〜』なんて手を振っている。 「・・・・馬鹿だろ、お前」 「そ、そういうなら、お前がしろ!お前だって、一応『名づけ』親なんだからな!」 「ふん、まかせろ。ハリー、いいかい。魔法というのはそう自由に・・・」 「しりゅーvv」 「・・・・・・・・。・・・・・・・ハリーっ!よちよち、どうしたのかな〜、おなかしゅきましたか〜」 「馬鹿はお前だ!馬鹿!」 あっけなく自分と同じ運命を辿った親友を、ジェームズは容赦なく罵倒する。 「仕方ないだろうっ!ハリーはこんなに可愛いんだぞっ!怒れるわけないだろうっ!!」 「逆切れするな!いや、しかしこの愛らしさは犯罪だ・・・ハリー・・・可愛いハリー、愛しているぞ〜〜っ!!」 感極まったジェームズが、ハリーを抱き上げてぎゅむ〜っ!と頬掏りよせる。 「おいっ!ハリーがつぶれる!ハリーが!!」 「馬鹿が!そんなヘマをするものかっ!ふ、さてはシリウス・・・・羨ましいだんだろ?」 「・・・っ!?」 ジェームズの牽制攻撃に、シリウスは言葉をなくす。 ・・・が、それも一瞬のこと。 「ハリーっ!こっちにおいで〜vv」 シリウスが呼ぶと、ジェームズの腕の中に居たハリーがふよふよとシリウスの元へと飛んでいく。 「しりゅ〜」 「は〜い、シリウスでちゅよ〜」 飛んできたハリーを見事にキャッチして、シリウスはその柔らかい体を存分に堪能する。 「ハリーっ!!大好きだーーっ!!」 「しりゅーしゅき〜〜」 意味がわかっているのかいないのか、天使の声で、ハリーはシリウスを悩殺する。 「こらぁ待てっ!!ハリーは息子だぞっ!!嫁にはやらんからなーーっ!!」 怒声に、きゃらきゃらと笑い声があいの手を打つ。 「・・・・・・・・・・・・親ばかって言うか何て言うか・・・・・・・・・・・・・・・・」 「末期症状ね」 階下で優雅なお茶の時間を過ごしているのは、ルーピンとリリー。 いつもの”馬鹿”騒ぎに動じることなく、リリーは聖女のごとき微笑をたたえ、ルーピンは親友たちの あまりの”馬鹿”ぷりに、言う言葉もみつからずげっそりしている。 「僕もハリーは可愛いけれど・・・・さすがに、あの中には入っていけないよ・・・・・」 「大丈夫よ、リーマス。それで『正常』だから」 「・・・・・・・・・・・・・」 暗に妻に『異常』と言われた男は、未だに二階で親友と言い争っている。 「僕はハリーの行く末が心配だ・・・・・」 「あら。それも大丈夫よ、私がちゃんと目を光らせておくから」 「・・・・・・・・・・・・・」 この家で誰が一番『強い』のか、改めて認識するルーピンだった。 |