・・・ Two fathers ・・・
二人の父親
それはとても恐ろしい光景だった。 まさか、とは思うが・・・もしや、彼は目の前のものに飛び掛り襲いでもするでは無いかと。 「・・・・アレは何?ジェームズ」 「シリウスだが」 「食われそうだよ、君の子」 「いや、本人曰く『見守っている』のだそうだ」 「・・・・・・・・」 ルーピンは信じられないと無言でシリウスを睨みつけた。 さて、ポッター家に新しい家族が一人増えたのは一ヵ月ほど前のこと。 皆に望まれて生まれてきた子供は名付け親によって『ハリー』という名を与えられ、すくすくと健康に 育っていた。彼には至って何も問題は無い。とても可愛い。 月のものでしばらく会えなかったルーピンも、愛らしく育っているだろうハリーに会うことを楽しみにして 本日、ポッター家に意気揚々と訪れたわけなのだが・・・・。 そこには先客が居た。 「シリウス」 「ああ、久しぶり」 そんな簡単な挨拶を済ませると、シリウスはハリーが寝ているベビーベッドに張り付いて(まさにそんな 感じで)離れない。 すやすやと眠るハリーを覗き込む姿は、言い寄る数多の女を袖にしてきた『危ない』男の面影は 一切合切消えうせ、影も形も無い。 目尻は垂れ下がり、口元はふやけ、『ハリーv』と寒気がするような甘い声で名前を呼んでいる。 それはシリウスでは無かった。未知の生物に違いなかった。 「心配するな、リーマス」 「何が」 「そのうち慣れる」 「・・・・・」 それもどうなのだろう・・・浮んだ疑問を押し込めて、ルーピンは再びシリウスを見る。 めろめろにでろでろ。 まさに『溺愛』と言うに相応しい傾倒ぶり。 「僕たちだって、シリウスがまさかあれほど子供好きとは知らなかったさ」 「子供好きっていうか・・・・・」 ハリーが生まれるまでシリウスにそんな気配は全く無かった。断言できる。 それはジェームズだって同じだろうに・・・・・・。 「そういうことにしておいてあげて、リーマス」 横からパイを持って現れたリリーに、ルーピンは首を傾げた。 いい匂いが漂う。リンゴだ。 「ジェームズったら、シリウスがハリーにくっついて離れないものだから、気が気じゃないのよ」 「は?・・・・・・・・・・・・・・ああ」 ジェームズがむっとしたように口をへの字にする。 「ああ。なるほど。・・・・・そうだよね、あの調子だと」 シリウスにちらりと視線をやると、ハリーの柔らかそうな頬を壊れものを扱うように触れている。 相好は、ソフトクリームが流れる寸前のようにでろでろだ。 「・・・・・シリウスのことを、『パパ』とか呼びかねないかもね」 「!?」 ルーピンの言葉に、ジェームズがぎくりと肩を揺らした。 「・・・リーマス」 一段低くなった声に、失言だったと口を押さえても遅い。 「ハリーの『パパ』は僕だ!」 「でも、シリウスも名付け『親』だしね」 「・・・・・ハリー!!」 ジェームズは、ハリーが眠るベビーベッドに駆け寄ると、シリウス同様にでろでろに顔をとろけさえて 『僕がパパだよ〜』とやっている。それに負けじとシリウスも、『シリウスだよ〜vv』とやっている。 はっきり言って・・・・・・・・・馬鹿だ。 「・・・・・・・・・」 あまりの光景に言葉を失っているルーピンに、リリーが切り分けたアップルパイを目の前に差し出した。 「親馬鹿でしょ?」 悪戯っぽく、それでも幸せそうに笑うリリーに、ルーピンもひきつりながら笑いかえす。 「・・・・その域を軽く超えていそうだけどね」 「私たちのハリーは『最強』よ」 「・・・・・・・・・・」 あんたが一番最強だ、とはさすがに言えないルーピンはアップルパイを口に含んだ。 「シリウス、いい加減にあちらに行ったらどうだ!そんなにじっと見られていたらハリーが眠れないだろう!」 「うるさいぞ、ジェームズ。せっかく寝かけたところ起こすつもりか!」 「何だと!」 「何だ!」 ふぎゃ〜っ!!! 「「!!!!」」 「ああ!ハリー、よしよし!」 「ごめんごめん、何も怖いことはないでちゅよ〜」 「おねむしましょうね〜」 「ベロベロ〜バァッ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 あれは一体全体、何なのだろう。 くらり、と強い眩暈に襲われたルーピンは、響いてくる恐ろしい異世界の言葉を遠く感じていた。 |