
・・・ Bless of you ・・・
君に祝福を
「我が友、シリウス。今日呼び出したのは他でも無い。君に父親になって貰いたいからだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 親友の突拍子も無い言葉に、シリウスはたっぷり五秒間は間をあけて口をぽかんと開けた。 ******************** 念のために確認しておくが、シリウスはバリバリの独身である。 付き合う女性の一人や二人は居るが、もちろん子供が出来るようなヘマはしていないはず。 ――― 心当たりは、絶対に無い。 「―――― いったい今度は何の冗談だ?ジェームズ」 騙されないぞ、とシリウスが睨むとジェームズは前髪をかきわけ、やれやれと大げさに肩を すくめてみせた。 そんな仕草をしてみせても、目は悪戯っぽく輝いており、いつもならばどこよりも居心地がいいと 思うはずのこの家の、シリウス専用の椅子も、妙に居心地が悪い。 「冗談とは酷い。僕はどこまでも本気だ」 「・・・・・・・・・」 シリウスは眉をしかめた。 「ふぅ、君らしく無く察しが悪いな。――― 悪戯ならすぐに思いつくのに」 「うるさい」 ぐるる、と唸り出しかねないシリウスの脇の扉からくすくすと笑い声が響いた。 「リリー」 「いらっしゃい、シリウス」 「お帰り、リリー。どうだった?」 すぐさま席を立った夫であるジェームスは、彼女をいたわるように包み込みソファに座らせる。 「順調よ」 彼女はふふと幸せそうに笑った。 「・・・ジェームズ」 どうやら蚊帳の外に置かれているらしいシリウスは、非難混じりの声で友の名を呼んだ。 「あら、まだ話してなかったの?」 「いや、話したんだが、冗談だろうと言われてしまった」 「そうなの?」 「そうなんだ」 そして二人の視線がシリウスに注がれる。 ――― やはりむずむずして座り心地が悪い。 「――― いい加減に秘密の話はそこまでにして、俺にもわかるように言ってくれ」 すねたようなシリウスに、ポッター夫妻は顔を見合わせてぷっと笑った。 「シリウス、すねないで」 「嬉しくてね、ちょっとした出来心というやつさ」 「・・・・・・・・まぁ、いい。で、いったい何だと言うんだ?」 憮然としたままのシリウスに、リリーは笑うと大切そうに、己の腹部を優しく撫でた。 その仕草は―――・・・。 シリウスは唐突に理解する。 そして、己のとてつもない鈍さも自覚した。 「――― 何ヶ月だ?」 「三ヶ月よ」 リリーは嬉しそうに答えるのに、シリウスは頷くと立ち上がって夫妻に歩み寄った。 「・・・おめでとう」 「「ありがとう」」 **************************** 「で。父親になってくれるかい?」 「だから・・・いったいそれは何の話だ?」 再び切り出されて、シリウスは困惑した。 「もちろん、この子のことさ」 ジェームズはまだ見ぬ我が子が愛しくてたまらないらしく、リリーの腹部に視線を注ぐ。 「君に名づけ親になってもらいたいんだ」 「!?」 シリウスは息を呑んで驚いた。 そんなシリウスの驚きをジェームズとリリーは楽しそうに見ている。 「馬鹿な・・・こんな時にまで冗談はよせ、ジェームズ!」 「冗談?とんでもない。どこまでも本気だと僕は言ったはずだ」 「それなら一層悪い!名前など・・・この子の一生を左右するかもしれないことなんだぞ!」 そうしてシリウスは、まだこの世に生まれてもいないリリーの腹の子を示す。 「だからこそさ」 「・・・・・・・・」 「だから、僕たちは・・・二人で相談して、君にこの子の名前をつけて貰おうと思ったんだ」 「そうよ、シリウス。今こうして私たちが一緒に暮らすとができてこの子を生むことが出来るのは、あなたの おかげなのだから」 「そんなことは・・・・」 「無いとは言わせないぞ、シリウス」 「・・・・・・・・・・」 シリウスは気まずそうな表情になり、リリーとジェームズは顔を見合わせて笑った。 幸せのただ中にある彼等は無敵だった。 「そういう訳で頼んだぞ、シリウス」 「おい・・っ」 「いい名前をつけてあげてね」 「リリー!」 シリウスの抗議は結局受け付けられることは無かった。 家中に生まれたばかりの赤ん坊の声が鳴り響く。 隣室で、生まれるのを今か今かと待っていたシリウスは、その元気そうな声に安堵でへたり込み そうになった。足も手も震えている。 「シリウス」 リリーに付き添っていたジェームズが顔をのぞかせ、シリウスを手招いた。 「とても元気な男の子だよ」 「シリウス・・・」 リリーの横に寝かされている白い産着に包まれた小さな宝。 「・・・・この子に、贈り物をあげて・・・・」 リリーの顔は疲労にやつれていても、誇らしさと喜びに満ち溢れ、輝いていた。 シリウスは、ごくりと喉をならす。 この小さな命に捧げる、初めての贈り物。 「・・・・・・・・・ ハリー。・・・・ハリー・ポッター」 産着の中の小さな命が、あう・・と言葉にならない返事をした・・・・・・・・気がした。 |