-美しきもの-

・・・・2






 ザックスの頭はパンク寸前だった。
 数字やら文字やらが脳みそいっぱいに広がり、体中の穴という穴から噴出しそうなほどに。

「…お前、大丈夫か…?」
「…もうダメだ、死ぬ…俺は死ぬ…」

 バタッと打ち込んでいたキーボードの上に顔を打ち付けたザックス。
 途端にビービーッ!と警告音が流れ出す。
 妙なところを押してしまっのだろう。

「うぉっくそっ!機械まで俺を馬鹿にしやがるっ!!」
「「…………」」
 セカンド・ソルジャーたちは、壊れる一歩手前のザックスに多大な哀れみの視線を注いだ。
 しかし彼らは誰もザックスを手伝おうとはしない。
 自業自得であることは明白だからだ。

「…あ?」
 だが、そのざんばらな髪を振り乱してわめいていたザックスの動きが急停止する。
 ……ついに壊れたのか。

「……何か、外が騒がしくね?」
「は?」
 神羅本社ビル30階以上は、セキュリティのため各部屋に防音設備が完備している。
 だが、ソルジャーの聴覚はそんなものなど関係ないほど鋭敏だった。
 ザックスに促された彼らは、同じように聞き耳を立てる。
「……足音だな」
「駆け足だ…軍靴もあるし、ハイヒールもある」
「お前…魔法と機械はてんでダメだが、そういうところは妙に優秀だな」
「うるせ」
 からかう同僚を軽く睨みつけて立ち上がったザックスは扉を開けて、通りがかった誰かを捕獲した。
「なぁ、いったい何事?」
「え?え?」
 いきなり首ねっこを捕まれた事務官らしき人間が目を白黒させている。
「だから、何の騒ぎ?」
「は!…あの、サー・セフィロスが模擬戦を…」
「はぁ?旦那が模擬戦〜〜??」
 解放された事務官が一目散に逃げていった。
 背後に居たソルジャーたちが色めきたった。
 ソルジャーといっても性格は千差万別であるが、共通項もいくつかある。
 その一つが皆揃って『好戦的』ということだ。
 ……もっとも平和主義なソルジャーなんて使いものにならないが。
「サーが模擬戦なんて、久しぶりじゃねーか、おい」
「ああ、ホント。誰だよ相手は」
「どこの演習場だ?見物行こうぜ、見物!」
「なぁ、ザックスお前…も、てあれ?」
 ザックスの姿は部屋から消えていた。












(………やっぱり……)

 人の流れに乗ってたどり着いた第六演習場で、ザックスは向いあう対にかくり、と頭を落とした。
 その対とは、もちろんセフィロスとクラウドだ。

「つーか…人を働かせといて、お前ら何遊んでんの?」
 疲れたようなザックスの声に、セフィロスが振り向いた。
「遊びではない。模擬戦だ」
「…て、正宗持ってんなよ!相手クラウドだぞ!ソルジャーじゃ無いだろっ!!」
 知る人ぞ知るセフィロスが操る妖刀正宗は、馬鹿げたほどに刀身が長くその切れ味ときたらコンクリートも蒟蒻も一緒くたにすぱすぱと切って捨てる。
 ソルジャーといえど、正宗を持ったセフィロスには迂闊に近寄らないというのに……
「心配するな、手加減はする」
「当たり前だ!」
 セフィロスが本気で掛かれば、いくらクラウドでもあの世行きは決定だ。

 とんとん。
「だいたいなぁ・・」
 とんとん。
「旦那はって・・・何だよ!」
 振り向いたザックスは、無表情のクラウドを発見して凍結した。

「ザックス。仕事は?」

「ザックス」
「え、とう・・あ・・・」
 セフィロスに正宗を突きつけられても適当にかわして誤魔化すというのに、何故かクラウドのアイスブルーの瞳で見つめられると、どうしようも無くなる。
 言い訳の一つも出来ないとは悲しくなるが、深遠の青はザックス程度の言い訳など一刀両断してくれそうだ。嘘だって簡単に見破られてしまいそうだし。
「…ごめんなさい」
 という訳で、ザックスは素直に謝ってみた。
 そんなザックスに、全く…と大きな溜息をついてみせたクラウドは「さぼっても期限は延期しないからな」と厳しいお言葉をくれた。
 ひでーよクラウド・・・・
「クラウド・ストライフ。いつまでキキキアチョとじゃれている」
「…キキキアチョ?」
「てオレのことかよっ!」
「ザックス。モンスターだったのか?」
「んなわけねーだろっ!!」
 たぶん冗談で言っていると思うのだが、無表情で問われると本気そうで嫌だ。
 
「さて、そろそろ行くぞ」
 セフィロスが正宗を構えた。
 本気で、その剣でやるつもりらしい。
 対するクラウドは、どこにでもあるロングソードだ。それでも華奢なクラウドには大きく見える。
 どう考えても無理だ。

 ―――― 仕方ねぇっ危なくなったら助成するか。

 二人の間から退いたザックスは、演習場の武器庫からバスターソードを引っ張り出すと、いつでも飛び出せるように気合を入れた。













  



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