-美しきもの-
・・・・3
一般兵には、基本的に剣を用いての訓練は行われない。 剣の使い方を覚えさせるよりも銃の扱いを覚えさせるほうが早いし、簡単だからだ。 しかし教官がこれは、と見込んだ者については特別扱いで剣の訓練を課されることがある。それでも、最低入隊3年以上経過してからだ。 だからクラウドは、入隊してから剣の手ほどきなど受けていないはず。ザックスもクラウドが剣を手にしているところなど目にしたことは無かった。 だが。 ロングソードを正眼に構えたクラウドの姿は見事なほどに型に嵌まっている。 我流で型なんて面倒なことをやってられるか、と教官をキレさせていたザックスだが、わかる。 ザックスとて正宗を持ったセフィロスなどと相対すれば力が入る。緊張だってする。 でもクラウドの立ち姿には緊張は見受けられず、じっとセフィロスの動きを睨みつけている。 前々から並外れた度胸だとは思っていたが、それどころでは無い。 いや、知らないわけは無い。その強弱こそあれ、クラウドはちゃんと知っているはずだ。 恐怖を知らない・・・理解しない人間は、最早人間とは言えない。 「どうした?かかって来ないのか?」 なかなか動こうとしないクラウドをセフィロスが挑発する。 それに、クラウドが愁眉を顰めた。 動かないのではない。動けないのだ。 全く隙が無い。 「なら、こちらから行くぞ」 「・・・っ!!」 言った瞬間、セフィロスの剣が目前に迫っていた。 ソルジャーの人知を超えた高速移動。それをクラウドは受け止め、流した。 セフィロスが満足げに笑い、クラウドがくっと呻き声を洩らす。手加減されているとはいえ、受け止めたセフィロスの剣は、成長しきっていないクラウドの手に余る。 ( 力を受け止め流す、というのはそう簡単に行えるものでは無い。 クラウドの痺れた手の感覚がが、戻るか戻らないかのぎりぎりの間合いで再び打ちかかる。 ロングソードがセフィロスの剣を受けて、キンキンと高い音を奏でた。 さすがに訓練用の剣では正宗の相手にならないために、魔術で補強してあるが長くはもたないだろう。必死にセフィロスについてくるクラウドの目はきらきらと輝き、静かな海のように波立たない碧眼に青白い陽炎が揺らいでいるようだ。 その目に、煽られる。 惹きつけらえる。 引き裂いてやりたい気もするし、このまま延々と楽しんでいたい気もする。 不思議な子供。 セフィロスは強かった。 最初の一撃。剣を取り落としそうな衝撃を何とか耐えて、クラウドは防御に徹する。 クラウドが目で追うことが出来るスピード、クラウドが受け止めることが出来る程度の力。手加減されているのは、言われるまでもなく明らかだった。 それでも、セフィロスは小手先の遊戯などではなく、彼なりにクラウドと『真剣に』戦ってくれているのは、打ち合う剣から伝わってくる。 英雄。鬼神。最強のソルジャー。 この世の最強を具現した男が、クラウドのような子供と『真剣に』戦ってくれる。 嬉しい。 未だ嘗て、剣を交えてこれほどに気分が高揚したことはクラウドには無かった。 クラウドに剣を教えてくれた者は、ウータイ出身の傭兵崩れだった。元々は僧兵だったらしく、武術も心得ていて、手ほどきされるそれに、必死でついていくだけで『楽しむ』余裕なんて無かった。 ミッドガルに出てくるまでに出会った、盗賊や山賊は楽しむなんて論外。奴らに剣の腕など望むべくもなく、クラウドの容姿を傷つけないように舐めてかかり、返り討ちにされた。 もっと。 もっと強くなりたい・・・・っ!! 楽しそうに輝く、セフィロスの碧眼を睨みつける。 振り下ろされた剣を避けて、防御一遍だったクラウドがセフィロスに斬りかかった。 キィーンッ・・・ッ!! 正宗に切断されたロングソードの刃が、クルクルと宙を舞いながら、はらはらと見物していたザックスの足元に、ざくりと突き刺さった。 うぉっと声をあげて、ザックスが飛びのく。 クラウドの喉元に、正宗が突きつけられた。 「勝負、あったな」 「・・・・・っ」 それでもクラウドの目は戦意を喪失していなかった。 |
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