■ 天意、真に非ず ■
肆
動揺する麒麟たちをなだめ、陽子は椅子に座ることを促すと話を切り出した。 「泰麒、教えてくれ。・・いったい、戴では何が起こったというんだ?」 王を見つけ出し、着実に朝を整えつつあった戴は長期の王朝を築きそうだった。 国も安定へと向かい、妖魔の出没もほとんどなくなっていた。 傾く兆候など、何一つ無かったというのに・・・この突然の瓦解。 何が起こったのか、陽子には皆目検討がつかなかった。 「・・・覚悟は、していました」 「!?・・・それは、どういう・・」 「戴は・・驍宗様の朝は期限つきの朝だったのです――― 全ては、僕のせいです」 泰麒は顔をあげ、静かに語り出した。 ****************** 赤楽六年。 泰王驍宗を見つけ出した泰麒に蓬山から使者が訪れた。 「西王母様には、時が来たとの思し召しでございます」 一人、蓬山の使者に対した泰麒はその言葉の意味がよくわからず首を傾げる。 「それはどういう・・・」 「残りの治療を、と仰せです」 「!?・・・それは」 麒麟としての失った本性を取り戻せるということなのか。 潰えたはずの希望が胸に沸く。 「本当・・・なのですか?」 「全ては西王母様の御心のままに」 「・・・・しかし、私は今、ここを離れるわけには・・」 驍宗を見つけ出し、阿選を先頃ようやく倒して朝の建て直しをはじめたばかり。 手はいくらあっても足りないほど忙しい。 「今でなくてはいけませんか?」 「遅れれば、二度と戻らぬと仰せでした」 「!?・・・・驍宗様に・・・王にお許しをいただければ・・・」 「返事はお早いうちにお願い致します」 使者の言葉を泰麒はすぐに驍宗へと報告した。 泰麒が角を失い不自由したことを誰よりも気に病んでいた驍宗は一も二も無く許しを与えた。 こうして、後ろ髪をひかれつつも泰麒は李斎と驍宗に見送られ蓬山へと旅立ったのだ。 「久しいのぅ、泰台輔。元気そうな姿を拝見でき、喜ばしい」 「ありがとうございます、玄君」 蓬山に到着した泰麒は碧霞玄君に迎えられ、ねぎらいの言葉をかけられた。 泰麒は素直に笑顔を礼をのべる。 その笑顔は幼かりし頃の泰麒を彷彿とさせ、玄君は僅かに眉を寄せた。 「台輔もお忙しい。早速にご案内いたそう」 「はい、お願いします」 気絶していた泰麒は知らないが、玄君が泰麒を案内した廟はかつて蓬莱から連れ戻された泰麒が 運びこまれた場所であった。廟の中は、あの頃と全く変わりない。 いや、ただ一つあるとすれば、前の時は壇上にあった天帝と王母の像が、一つだけになっていること。 そこには西王母の像だけが置かれていた。 泰麒はとまどいながら、玄君を見守っている。 玄君は王母の像に一礼し、奥へ向かう。 そこには、以前と同じように白い扉があり、玄君は泰麒へ奥へ進むように促した。 不思議な部屋だった。 いや、部屋というよりは『空間』。 白々とした光が満ちる中、二つの玉座が並び、左の玉座へ女人が座していた。 (・・・西王母、様・・?) 「よう来られた、泰麒」 声かけられ、泰麒の膝は自然と床へついていた。 「・・・西王母様?」 泰麒の呟きに、表情の無い西王母は僅かに首を動かした。 「そなたに麒麟としての角を与え、清めた使令を返そう」 「!?」 驚愕に見開いた泰麒の目が、喜びに輝く。 麒麟の角を与えられるという以上に、使令が返されることが嬉しい。麒麟としての自分は王の隣で 戦い、守ることも出来ないが、使令にならばそれが出来る。 「ありがとうございますっ」 礼を述べる泰麒に、王母は緩やかに首を振った。 「礼はちと早い。そなたは選ばなければならぬ。麒麟となるか・・・・死か」 「!?・・・・仰る意味がわかりません。・・・確かに今の僕は麒麟とは言えないかもしれませんが・・・」 「否。そなたは麒麟に相違いない。戴の麒麟」 「では・・・・」 あまりに抑揚の無い王母に対し、感情豊かな泰麒が不思議に感じられる。 「そなたに与えるのは泰麒としての角では無い」 「!?」 「天の麒麟としての角。それが妾が与えるもの」 ****************** 「・・・・天の麒麟?」 陽子は聞いたことのない単語に、六太を振り向けば、同様なのか難しい顔で首を傾げている。 蓬山育ちの景麒ならば知っているか、ともう一方を見るが、こちらも知らないらしい。 吐き出しそうになった溜息を呑みこみと、陽子は泰麒へ話の続きを促した。 「西王母様は、こう仰いました」 ――――― 天の麒麟、すなわち天麒。これは、天帝を選ぶための麒麟である、と。 |
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だいたい、このあたりで話の流れが予想できたかと。
・・・まぁ、そういうことです。