■ 天意、真に非ず ■
第二部
捌
| 更夜を先頭に霊霄殿を奥へと進むと、宮殿の一部をくりぬいたような中庭があった。 そこには巨大な木が生えている。大きな枝の数は13本。これが各国にある里木の元なのか・・・ 天井を見上げた陽子は、そこが吹き抜けでは無くドーム状の硝子で覆われていることに気づいた。 優美な弧を描く一枚ものと思わしき硝子は、あちらの世界の技術を使って作り上げるとしても相当な 困難を極めそうに、一寸の狂いも混じりも無い。 そう、思えば各国の宮殿もその仕組みも・・・・凡そこの世界の『普通』とはかけ離れている。 「ああ、やはり以前見たときより木に生気が無い」 更夜が里木を眺め、ぽつりと落とした。 「更夜、この里木は?」 「この里木は十二国の元となっているもの。各国にある里木は全てこれに繋がっているんだよ」 「だが、それでは数がおかしくないか?枝が13本とは、1本多い」 「そう、1本多い。だから私はそれは蓬山の麒麟のぶんだと思っていた」 「・・・思っていた、ということは違うのか」 陽子を振り返らず、更夜は里木の13番目の枝・・・真っ直ぐと天を貫いている枝を見上げていた。 「あの13番目の枝には、一つの卵果が成っていた」 「・・・・・・・」 「初めてみたのは、300年ほど前だったかな・・・人の拳の半分ほどの大きさだった。それからしばらく 経って・・・100年は経っていたかな・・・そのときは拳大まで大きくなっていて・・・その次にはもうあの 枝には無かった」 「それは随分ゆっくりした成長だな。普通、卵果は十月で熟すと聞いたが・・・」 「つまり普通の卵果では無かったということだ。それだけ成熟する期間が必要とされる・・・恐らく、私の 予想では、あれは天帝の枝だ」 「・・・天帝の、枝・・・」 「里木に人の子が生るのならば、天帝の枝になるのは 天帝の子。 口には出されなかった言葉が、更夜の視線と共に陽子に注がれた。 「卵果が無くなった頃、天麒が蝕を起こした」 「天麒・・・高里君では無い天麒が居たのか・・・」 「ああ、貴方の天麒と同じ黒い髪の麒麟だった。あまり言葉を交わしたことは無かったが、穏やかで聡明そうな麒麟だった。・・・この世界に在る限り、衝動で蝕を起こすことなど考えられない。地に及ぼす被害も半端なものでは無いから。あの天麒がわからなかったはずもない、わかっていたはずだ。それでも天麒は蝕を起こし、そして 「・・・・・・・」 陽子は、里木を見た。 「あの卵果は、 「っ!?・・・ならば・・・」 陽子は僅かに頭を振った。 「ならば、何故私が景麒に選ばれた?・・・景王は慶の民から選ばれるはずだっ!」 「そう、普通ならば・・・だが、貴方が景台輔に見出されたのはあちらの世界でだった」 そう、陽子が慶の民であるかどうかなど誰にもわからない。 陽子はこの世界に来たときすでに『王』だった。 「・・・だが、それならば延王も、そうだろう?」 更夜は視線を伏せた。 「彼は・・・貴方とは違う。貴方は他の誰とも違う・・・それこそわかっているはずでは?」 「・・・・・・・・・。・・・・・・・」 そう、陽子は違う。赤い髪、翡翠の瞳、この世界に来て体の構造全てが陽子は変化した。 それは胎果ならば誰もが生じる現象なのだと思っていた。だが、違うのだ。 延王も、高里も・・・六太さえ。あちらの者が見ればすぐに本人だと見分けがつくだろうが、陽子は恐らく 気づいてもらえない。同じ人物だとは信じてもらえないだろう・・・それほどに変わった。 「天麒は無理やりに蝕を 起こさせられ、そして貴方を守っていたのだろう。朽ちようとする命で必死に、 貴方をあちらの世界で守護していた。そして、朽ちようとしたその瞬間、貴方の前に現れたのが景台輔、 景台輔は焦っていたはずだ。こちらの世界で王気を見つけられずに・・・一刻も早く王を見つけ、死んでいく民を助けたいと思っていた…そんな麒麟に、貴方の天帝の気は王気と勘違いさせるほどに強いものだった・・・」 「景麒が私を選んだのが勘違いだとっ!?それなら端から天勅など受けられなかったはずだ!」 「忘れてはいけない。そのときには、すでに 天帝は歪んでいた」 「・・・・・・っ」 「貴方と最初に出会ったのは、もう十年ほど前になるだろうか・・・私は天仙とはいえ、飛仙に近いはみだし者ゆえ、色々知らぬこと感じれぬことも多い。だが碧霞玄君は違う。あの人は貴方と同じ『もの』だ。 そう、あの人はあの時すでに貴方のことを『自分たちにとって特別な存在だ』と溢していた。玄君はご存知だったのだ。 (・・・これは、何だ・・・全て、・・・全部が定められていたことだったというのか・・・っ!!) |