■ 天意、真に非ず ■
第二部
陸
雲梯宮に辿りついた陽子を待っていたのは、平伏した碧霞玄君と数人の女仙だった。 「お待ち申し上げておりました、玉帝陛下」 「・・・まだ、完全にそうなったわけでは無い。頭を上げてくれ」 以前景王として訪れたときには、碧霞玄君は拱手はしても頭までは下げなかった。彼女たちは天に仕える 者・・・『天の一部だよ。少なくとも、俺はそう思ってる』と延麒の言葉を思い出した。 陽子の言葉に、碧霞玄君だけは顔を上げ立ち上がった。 「ご案内致します。こちらへ」 陽子は30年前を思い出す。 この玻璃の階段は、天勅を受けるために景麒と共に昇った場所だ。 まさかこんな風に陽子の朝が終わると、誰が予想しただろう。未だに夢を見ているようだった。 「主上」 数段下に居る高里が心配そうな顔で見上げている。 それに笑顔を返して、顔を戻す。 玻璃の階段は、天勅を受けたときに昇ったより確実に長く上へと伸びている。 先は瑞雲に隠されて見えない。 「この階段はどこへ続いているんだろう?」 「陛下の宮がございます、崇山に通じております」 「玉京・・とやらか」 「左様にございます」 それからは、誰も口を開くことなく階段を昇った。 ここにも何かの仕掛けがあるのか、かなりの距離を昇っているはずなのに疲労感が無い。 ふと見上げると、白塗りの聳え立つように高い門があった。 階段を上りきった門前には、白畳が敷き詰められた広場があり、誰かが、立っていた。 「・・・更夜」 「お迎えにあがりました、玉帝陛下」 「お珍しいこともある。真君が玉京にお戻りとは」 玄君の言葉に、拱手を解いて苦笑した顔を上げた。 「私が役目は黄海に生きる者を見守ること。ただ、玉京に使えている身であることを忘れているわけでは ありません。・・・・此度の玉帝陛下には多少のご縁がありますゆえ」 いつも纏っている被りものを脱いだ姿は、この世界と同じく白一色だった。 「久しぶりだ、更夜。まさかこんな場所で再会するとは思ってもみなかった」 「私もです、と申し上げたいところですが・・・」 「何」 「あの折に陛下が得られた騎獣は、尋常ではありませんでした。妖すらもあなたを恐れて姿を現さなかった。 きっと何か大きな役目を持っておられる方なのだろうと、思っておりました」 「そうなのか?・・・そんなこと一言も言っていなかったような気がするが・・・」 「ただの勘です。申し上げるほどではございませんでした」 改めて、食えない人柄だと陽子は認識した。 「ろくた、は元気にしているか?」 「お気遣いいただきありがとうございます。変わらず」 一通りの挨拶がすむと、玄君が一同を促した。 白塗りの門が、音一つなくゆっくりと内側へ開いていく。 この先が、玉京。 ぎゅっと思わず握り締めた手に、ためらいがちに冷たい手が乗った。 高里の手だった。 |
更夜と陽子は知り合いです。
そのあたりの話は、夏頃に出す予定の新刊にて・・(おそらく)