■ 天意、真に非ず ■
第二部
参
各国の王宮に、泰王崩御、続いて景王崩御の報が届く頃。 慶国金波宮の、王の堂室には主である陽子と延王、陽子の傍らにそっと控えるように経つ泰麒、そして冢宰の浩瀚が固い表情で拱手していた。 「・・・景麒はどうした?」 「・・・白雉の声を聞き、お倒れになり・・・延台輔がお傍に・・・」 「そうか・・・」 白雉が鳴いたか、と陽子は他人事のように言い、苦笑した。 もう自分は景王では無い。景王は死んだ・・・・・そして、今の自分は・・・・・・・・・・? 「いったい・・・いったい何が起こったというのです?主上、主上は未だこうして目の前に在られるのに、白雉が鳴くなど・・・考えられませんっ」 必死で冷静を保っている浩瀚も、人知を超えた出来事に混乱を隠せない。 「浩瀚・・・すまない。私は、もう景王では無いのだ」 「 「余計な混乱を招く前に、一刻も早く私は出て行くべきなのだろうが・・・浩瀚たちには事情を説明しておかなければならないだろうと思い、ここに居る」 バタバタと騒がしい音が堂室に近づき、バタンっと扉が開け放たれる。 「「陽子っ!!」」 真っ青な顔をした、友人二人に・・・陽子は、ただ静かにその名を口にした。 「祥瓊、鈴」 彼等には、王としてではなく、『陽子』として話をしておかなければならない。 それがこれまで三十年苦楽を共にしてきた友、同士に対するけじめだ。 「白雉が鳴いたって聞いて・・・っ」 「でも、陽子は・・・無事だったのだから・・・な、何かの間違いなのよね・・・?」 「・・・・いや、確かに、白雉は鳴いたのだろう。 「でも・・・でもっ」 鈴が泣きそうな顔で、脇に立つ祥瓊の腕にすがる。 「陽子・・・」 「今から説明をしようと、呼ぼうと思っていたんだ。丁度良かった」 陽子の微笑はどこまでも穏やかで、尋常ならざることが起こっているというのに・・・そうは思わせない。その静けさこそが異常で、恐ろしかった。 「私は、景王では無くなった。景王としての私は死んだ・・・・そして、天帝として生まれ直した、らしい」 「てん・・・っ!?」 「天帝・・・?」 驚きに目を見張る三人に、陽子は今までのことをゆっくりと話し始めた。 蒼白な顔で臥牀に横になる景麒の顔を見ながら、延麒も負けず劣らずの鎮痛な顔で溜息を吐き出す。 「こんなの・・・在りえねぇって・・」 こんなに問答無用で、王を・・・自分の王を奪われるなど・・・・想像すらしたくない。 自分ならば何があっても、陽子を手放すなどしなかっただろう。たとえ、十二国が滅ぶと言われても・・・ それがどうしたというのだ。麒麟にとって、民よりも国よりも・・・王は唯一無二の存在なのだ。 だが、景麒はあくまで麒麟として、慈悲をもって・・・一国よりも十二国を選んだ。 その選択がどれほどに負担を強いるものなのか、それは麒麟にしかわからないだろう。 今、目覚めなければ二度と主には会えないだろうに・・・それでも景麒は起き上がることが出来ない。 罵りたい気持ちと、麒麟としての慈悲が、六太の中で荒れ狂う。 会えない。 あの輝かしき、朱炎の女王とは・・・・・・・・・・もう、二度と、会えなくなるのだ。 うつむく、六太の膝に握られた手に、幾粒もの涙が零れ落ちた。 |