どちらにも属せず、彷徨い続ける

〔前編〕










 青白い光源がわずかに灯る薄暗い部屋。
 その中央に置かれた寝台に穏やかに呼吸を繰り返して横たわる大地の申し子。
 

 孫悟空

 その傍らに立ち、眺めているのは。
 闘神太子『焔』

 
「孫悟空・・・」
 呟く声は低く、大気へ消えていく。




 何故、悟空がここに居るのか。



 それは――――――――





 『奪って』きたから。









 ずっと焦がれていた。
 その存在に。
 
 人と神の間に生まれた禁忌の存在、焔。
 瞳には吉凶の証である金リ眼。

 人にもなれず、神にもなれず。
 ただ、どちらにも疎まれる。

 
 『己がいったい何をした?』

 そんな問いなどすでに遠い。
 思うだに馬鹿らしい。
 何故ならば、己は何も・・・・何もしてはいないのだから。
 強いて言えば、生まれたことが罪。
 
 
 いつも焔に付き従うのは”孤独”だった。


 それを変えたのは―――――――――


 
 自分一人が有すると思っていた金色の瞳。
 大地の色をした髪の毛。
 太陽のような笑顔。
 底知れぬ強さ。


 それは、もう一人の”自分”だった。
 
 焦がれ
 諦め
 絶望した

 希求した、半身。




「ずっとお前が欲しかった」
 ゆるく閉じられた瞼に触れる。
「目覚めろ、悟空。その瞳で俺を見つめろ」
 




















 ふと、
 強い視線を感じた。
 ”敵意”じゃない。
 でも強くて、何だか懐かしい感じ。

「悟空?」
 八戒が心配そうに名前を呼ぶ。
「どうかしたんですか?」
「うーん・・・何か視線を感じた気が・・・」
「おっ、俺を熱く見つめる美女の視線か!?」
「馬鹿が」
「とんだ自意識過剰ですねぇ〜」
「・・・・何かお前ら最近、妙にきつくねぇ?」
「気のせいですよ。自分にやましいところがあるから、そう思うまでで僕たちは以前と
ちっとも変わるところはありませんよ」
 にこにこ。
 ・・・・・確かに八戒の性格に変わるところはないだろう。
「おい、よそ見せずに前を向いて歩け。迷子になったら置いていくからな」
 まだ懲りずにきょろきょろしている悟空に三蔵の声がかかる。
「ひっでー三蔵っ!」
 三蔵の言葉に悟空は怒ってみるが・・・・・・・やはり視線は感じる。

 何なんだろう・・・・・・・?

「悟空っ」
「ぅあっ・・・・」
 きちんと前を向いていないものだから足元の小石につまずき、三蔵へとダイブして
しまった。
 バシィィンンッ!!
 もちろん悟空の頭にはハリセンの一撃がお見舞いされる。
「いってーっ!!三蔵のばかっ!!」
「馬鹿はお前だ、この馬鹿猿!!」
 来るッ!と思い身構えた悟空に三蔵のハリセンは落ちてこなかった。
「・・・・?」
 そろり、と目を上げれば・・・・・・・・スタスタと先を行く三蔵の姿。
「あ・・・待てよっ!」
 慌ててそれを追う。
「三蔵っ!三蔵て・・・・・三蔵?」
 何だかいつもよりイライラしていて、怒っているような気がする・・・・・どうして?
 不思議そうに見上げる悟空の姿を見て横にいる八戒が苦笑した。
「悟空、三蔵はすねているんですよ」
「????」
 ますますわけがわからない悟空。
 まぁ、それも仕方がないと八戒は思う。
 何しろ当の本人たちに自覚がないのだから。

 悟空の視線は誰のものなのか?

 悟空は遊んでいるときも、戦っているときも、食べているときでさえ、無意識にか意識的
にか三蔵を目で追っている。
 そして、三蔵もその視線を鬱陶しがることなく甘受している・・・かのように見える。

 それが『普通』

 だが、今日はどうしたことか悟空の視線は三蔵へは定まらず、何処ともない方を向く
ばかり。
 それは三蔵ばかりでなく、八戒も悟浄も気がついていた。

 だから八戒も心配で声をかけたのだ。

「悟空、お腹でも空きましたか?」
「え、うーん。今はあんまり・・・・・・」
「「「!!!」」」
 悟空のそんな返事に驚愕する一同。
 口を開けば『腹減った』としか言わない悟空が。
「何だよ〜」
「いえ・・・」
 いつもなら絶妙なフォローを入れる八戒さえ困ってしまう。
「お前・・・どこか調子でも悪いのか?」
 喧嘩ばかりしているはずの悟浄まで心配そうな様子である。
「だからっ!!何か視線感じるんだってっ!!・・・それが気になって・・・・・・・・・」
「でも僕たちは何も感じないんですが・・・・」
「俺も」
「・・・・・・・ふん」
「本当だって!・・・・・・何か・・・・・・嫌、な感じじゃ・・・ないんだけど・・・・・」
 ああ〜もうっ!!と悟空が己の髪をわしゃわしゃと掻き混ぜた。


「何だよっ!!誰か居るんなら姿現せよっ!!!!」
 たまりかねた悟空が何もない場所に向かって叫んだ。







「では、要望にこたえよう」


 瞬く光の中から現れたのは―――――闘神焔太子。

「「「・・・・っ!!!」」」
 悟空をのぞく3人は、一斉に戦闘態勢をとった。
 悟空はただぼんやりと、焔を見つめる。
「悟空っ!」
「っ!」
 はっと我にかえり、焔に向かって如意棒を構える。

「貴様か・・・さんざん趣味の悪いまねをしやがったのは」
 三蔵がS&Wの銃口を向け、乱射する。
 ガウンッ!ガウンッ!!
 だが、やはり弾は焔の前に威力を相殺され、地に落ちる。
「効かないと言ったはずだ。物覚えが悪くなったのか?金蝉?」
「うるさい、俺の名は三蔵だ。お前のほうこそボケが進んでんじゃないのか」
「ふっ、相変わらず口が悪いな」
 シャッ!!!
 悟浄の放った鎖鎌は焔の残影をかするのみ。
「遅い」
「な・・・っ!」
 突然、目の前に現れた焔に驚いた悟浄は次の瞬間背後の壁に叩きつけられていた。
「「「悟浄っ!!」」」
 他の3人の声が重なる。

 八戒の手にこめられた気孔が焔に向けて放たれた。
「甘い」
 だが、それは焔の手の中であっけなく消滅し、返されたのはその倍以上ある光球。
「避けろっ!!」
 三蔵の言葉にそれぞれがばらばらにその場から飛び退った。


「天蓬元帥とは思えぬ戦略ミスだ」
 
 何が?と問うまでもなかった。




 焔の腕の中にはぴくりとも動かない悟空の体があった。

 





 はじめから焔の狙いは悟空ただ一人だったのだ。
 それに気づかず、分裂してしまったのは確かにミスだった。


「「「悟空っ!!!!」」」
 叫びは悟空へと届かない。
「確かに・・・・・」

 焔は勝利者の笑みを浮かべる。





「確かに孫悟空は頂戴した」






 そして二人の姿は忽然とその場から消えうせたのだった。







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