(後編)


『悟空の勉強は僕が見ます!』
 八戒のその言葉は早速、翌日から実行されることとなった。




「さて、悟空。一時間目は習字から始めましょう♪」
「はーいっ!」
 元気に返事をした悟空の前に”漢字の手引き”なるものとノートが置かれている。
 その総ページ数300にも及ばんという”漢字の手引き”には簡単なものから
 難しいものまで1ページに10個ずつの漢字が並んでいる。
 つまり裏表で20個・・全て終了することには6000個もの漢字を学習することに
 なるわけである。・・・・全て覚えられるかどうかはともかくとして。

「いいですか、この本を見てこちらのノートに20回ずつ1つの漢字について練習
 していってください。ノートが済んでも新しいものは幾らでも容易してありますから
 言ってくださいねv」
「うん!」
 そして悟空は『一』の字から練習し始めた。


 ---10分経過。


「もうだめーっ!疲れた!」
「おやおや、まだ10分しか経っていませんよ。まだあと40分はありますから
 頑張って下さいねv」
「えーぇっ!!」
「きちんと出来たら、あつあつの桃まんを用意してありますから」
「オレ、がんばる!」
 げんきんな悟空。それとも八戒の扱いがうまいのか・・・。
 悟空は再び筆を手にとった。

 それから40分経過。
 漸く1時間目が終了した。

 悟空はすでに机に突っ伏している。
 しかし、八戒に容赦という言葉は存在しない。

「さて、悟空。休憩した後は保健体育ですよ」
「・・それって動くの?」
「いいえ、人や生物の体の作りについて理解を深め、万一の時に備えるんです」
「・・・・・・・」
 げんなりした悟空に、八戒はにこにこと授業を始めた。
「大丈夫ですよ、ちゃんと実地でも行いますから」
「・・・実地?」
「ええ、じっくりと♪」
 何がそれほど楽しいのか、八戒はさらに笑みを深くした。








 その後、八戒のいう『実地』を身にしみて体験した悟空はそれから2時間ほど
 部屋から出てこれなかった。









 漸く、起き上がれるようになった悟空に最後の5時間目の授業は『美術』
 が待っていた。
「今回は絵を描いてもらいますが・・・」
 八戒は部屋の隅に目をやる。
 そこにはいつもより早く帰宅した三蔵の姿があった。
「モデルは三蔵にやってもらいましょう♪」
「・・・おい」
「はーいっ!オレ、三蔵の絵、描く!」
 八戒は露骨に不機嫌になった三蔵に・・『悟空のやる気に水をさすつもりですか?』
 と無言の圧力を視線でかける。
「・・・ちっ、勝ってにしろ」
「とお許しも出たことですから張り切って描きましょうね♪」









「・・・で、出来上がったやつがコレなわけ?」
 夕食前に帰宅した悟浄が悟空作の三蔵絵をひくひくと口の端をふるわせながら
 指差す。・・・それは八戒によってリビングに堂々と張られていた。
「うまく出来てるだろ!」
「・・・・」
 確かに鼻と口が一つずつあって、頭は黄色。額には赤のチャクラ。
 二つの目は紫色を強調してか一際、大きく丸でぐりぐりされている。
 シュールと言えばシュール。アートといえばアート・・・と言えなくも無いだろう。
 だが、それはどう見ても五歳児のいたずら描き以上の何ものでも無いと悟浄は
 思わずにはいられない。
「今度は悟浄の絵を描いてやるな!」
「・・・そ、それはありがとよ・・・」
 つーと頬に冷や汗が流れる。
 たぶん、いや・・きっと。自分の絵はあの三蔵の絵の隣に並べられるに違いない。
 嬉しいのか、悲しいのか・・複雑な悟浄だった。

「で、今日の八戒の授業はどうだったわけよ?」
「え・・・う、うん!楽しかったよ」
 悟浄の問いかけに悟空は真っ赤になって堪える。
 何故、そこで赤くなる?
 
「おい、八戒。お前・・・何をした?」
 三蔵が八戒を睨みつけた。
「え、授業ですけど?とっても楽しかったですよね、悟空?」
「え・・・あ・・・う・・・・うんっ」
 ますます真っ赤になる悟空。
 

 チャキっ・・・ッ。
 
 三蔵が銃の安全装置をはずす。

「あ・・ダメですよ、三蔵。銃を乱射するのは外でやって下さいね♪ここは僕の
 家なんですから。もうかつてのボロ屋じゃ無いんですからね♪」
「・・・・・」
 すでに諦めの境地に達していた悟浄に反論の言葉は無い。
 
「・・・おい、悟空。お前よく八戒の授業なんか受けてられるな。町の学校に
 通ってたほうが良かったんじゃねぇのか?」
「え?何で?」
 悟浄の同情に満ちた言葉に全くわからない、と悟空は首を傾げる。
「オレ、町の学校に行くより家で八戒に教えて貰うほうがいい」
「・・・・・・・・」
 悟浄はまじまじと悟空の顔を見つめた。



「だって、そのほうが皆と一緒に居られる時間が多くなるもん!八戒とは
ずっと一緒だし、三蔵にも悟浄にも帰ってきたら真っ先に『お帰りなさい』て
言えるだろ?」




 悟空の言葉に一瞬、騒々しかった家の中が静まる。
 悟浄、八戒、三蔵の視線は悟空に集中していた。

「・・・・ふ、サルにはかなわねーな」
 悟浄は苦笑して、悟空の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「サルじゃねーっ!」
「本当に、悟空には叶いませんね」
 八戒は何の含みもない心からの笑顔を浮かべる。
 それらを見つめる三蔵の視線は、心なしか穏やかだ。













 性格から趣味から何もかもが違う4人。
 それでも一緒に暮らしていけるのは・・・・・・・・・・・

 
 この幸せが傍に在るからだろう。



▲中編▲
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■■■あとがき■■■
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え?八戒の実地の保健体育が気になりますか?(笑)
まぁ、それはアレですよ、アレ(何だそれ/笑)
ご自由にご想像下さいませv



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