◆八戒編◆
本当に不思議なことなんですが あなたが笑っていないと 僕も 笑えないみたいなんです・・・ |
「悟浄、代わりましょう。あなたは隣で寝てください」 悟空の寝姿を覗き込むように椅子に座り、うつらとしていた悟浄に声をかけた。 「お、おお・・・じゃぁ、そうさせてもらうわ・・・」 「ご苦労様でした」 八戒のねきらいの言葉に悟浄が手を挙げて答えながら部屋を出て行った。 洗面器をベッドの脇に置き、悟空の額のタオルを冷たいものと取り替えた。 額はまだ・・・・・熱い。 「悟空・・・」 ”保父さん”と言いながら僕はあなたの体調に気づくこともできなかった。 あなたを呼びに来た時・・・倒れている姿を見て心臓が止まりそうになった。 「・・・すみません、悟空・・・」 いくら責めても責めても・・・・・・・・・・・自分を許すことは出来ない。 あと三日・・・あなたはこの熱に耐えないといけない。 一人で・・・。 僕たちはそれを見守ることしか出来ない。 「すみません・・・っ」 この風土病に悟空がかかった可能性があるのはこの街で。 僕と一緒に買い物に出かけたとき・・・。 「・・どうせなら、僕が・・・」 かかれば良かったのに・・・・。 「いつも元気な悟空が・・・」 力なく、ベッドに横たわる様子は痛々しい。 「・・・・・・っ」 「!?・・どうしました、悟空!」 かすれた苦しげなうめき声に八戒は思考の淵から舞い戻った。 悟空の口が僅かに開き、そこからひゅーひゅーと息が漏れる。 「喉が渇くんですか?・・・丁度良かった。宿の方に水差しを借りてきていたんです」 答えぬ相手に八戒は説明し、水差しを悟空の口元へ近づけた。 細い管を通ってそそがれる水。 しかし、その僅かな水も悟空は吸い込むことができず、口の端にこぼれていく。 それほどまでに力を失っているのか・・・・・・。 それでも高熱を発する悟空には水分が必要不可欠で・・・ 八戒は水差しを自分の口に含み、口移しで悟空に飲ませた。 心配に見守る八戒の目の前で悟空の喉がこくりと動いた。 「・・・・良かった」 八戒はそのまま何度も悟空の唇へ水を運んだ。 カサカサになった唇が元の柔らかさを取り戻すように願いながら・・・・。 ほんの少し。 僅かであったが悟空の呼吸が落ち着いたように思えた。 「悟空・・・・」 あなたの笑顔が・・・・元気な声が聞きたいですよ・・・。 僕たちは・・・・僕はあなたが居なければこれほどに弱い。 力なく自分の手の中に収まる手は小さく、熱を持って熱い。 この小さな手で・・・・この小さな体で・・・悟空、あなたは僕を癒してくれた。 『八戒!覚えたからもう変えるなよ!』 二度目の人生。 僕はあなたから祝福を貰った。 ・・・何にも変えがたい最上の・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「・・・・・・・ぃ」 「・・っ!?悟空??」 か細い声。 けれど八戒の耳には届いた。 慌てて目をあげると、ぼんやりと潤んだ眼差しを向ける悟空・・・。 「悟空・・・!」 「・・・いで・・・泣か・・・ぃで・・・はっ・・・かぃ・・・・」 「泣いて・・など・・・」 僕に涙など・・・・・・・。 「だい・・じょぅ・・ぶ・・だから・・・っ・・・・・・だい・・・じょう・・・・ぶ・・・」 「悟空!!もういいですから!!!」 こんなになってまで他人のことなど気遣わなくてもいい!! 「早く・・・・・・早く良くなってください・・・悟空っ・・!」 「・・・・・・・・ん」 手を眼前に組み、祈るような仕草の八戒に悟空は力なく頷き、かすかな微笑を 浮かべた。 |
神よ 自分のことなど何一つ祈らない。 何一つ頼ろうなどと思わない。 けれど。 この。 何にも変えがたく、 尊い一つの命だけは。 どうか どうか 奪わないで下さい |
† あとがき †
ようやく八戒編です。
色々とツッコミどころはあると思われますが・・・(笑)
・・・元の柔らかさ・・とかあたり・・・何でそんなこと
知ってるんだ!?とか・・・ね(笑)
まぁ、それは好きにご想像ください(おい/笑)