「やっぱり最期に残るのはお前らか」
にやりと笑った観世音の視線の先の円卓に残っているのは3人。
「いい加減しつこいな、お前たち」と焔。
「・・・貴様こそな」と三蔵。
「さっさと終われ」と金蝉。
今、おのおのの手元には焔と三蔵が2枚、金蝉は1枚が残っている。
膠着状態に陥ったままなかなか決着がつかない。
はじめこそ興味深げに見守っていた聴衆もだんだん飽きてくる。
何しろばば抜きだ。
じみ〜〜〜なこと極まりない。
そろそろ帰るか・・・・と思いはじめた者がちらほらと出る中、体育館のほうからざわめきが起こった。
「何だ?」
人の波がモーゼの十戒のように両脇にわかれ、その中央を真っ赤な顔をして3人の方へ歩いて
くる人物・・・・・・・・・・・・・・・・・・悟空。
「「「・・・・・・・っ!?」」」
その格好は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・目に痛いほどの純白のウェディングドレス。
「・・・み、見んなよなっ!!!!」
と悟空は恥ずかしさのあまり叫ぶが、そんなもの誰も聞くわけがない。
聴衆はもちろんのこと、ゲーム途中の3人の視線も釘つけになった。
「いかがです、僕の見立てもなかなかのものでしょう」
どうやら天蓬は悟空にこれを着せるために体育館へと消えていたらしい。
「本当は僕が勝って、僕のために着せたかったんですけどねぇ・・・・仕方ありません」
といいつつ目が笑っていない。
まぁ、それもそうだろう。
悟空が着ているウェディングドレスは丈が膝のあたりまでしかなく、すらりと伸びた悟空の足が
剥き出しになっている。また手にもつブーケはピンク色の薔薇でそれに揃えるかのように大地色した髪の毛にはピンクの薔薇を模した髪飾りがちょこんと可愛らしくのっている。
そして、羞恥に染まる頬もばら色で・・・・・・・・。
これで落ちなきゃ男じゃない!!!と言わんばかりに可愛さ大爆発である。
いったいこの悟空を奪うのは誰なのか!?
否が応にも再び場は盛り上がった。
「悟空・・・・とても可愛いぞ」
焔はうっとりと悟空の姿を眺める。
「・・・バカ猿が」
といいつつ三蔵の視線が悟空から離れることはない。
「天蓬の奴・・・・」
「それでは、あらためて悟空。まぁ、ここにでも座れ」
理事の席を立った観世音は悟空をその席へと座らせた。
「そこでゲームを眺めてろ」
「応援しちゃ駄目なのか?」
「いいぜ、別に。だが、応援した奴が勝つとは限らないぞ」
「いいんだって!・・・・・・・焔、三蔵、金蝉、頑張れよっ!!」
・・・・3人応援してどうする?
だが、そこが悟空らしいといえばらしい。
観世音はくっくっくっ・・と笑いを漏らしたのだった。
「おい、さっさと決着をつけるぞ」
「ふっ、望むところだ」
「ああ、俺もな」
その3人の心中は「悟空を自分だけのものにっ!」である。
さて、順番は三蔵から。
手持ちの札は一枚、これで揃えばさようなら、である。
皆が緊張の面持ちで見守る中、焔のカードをひいた三蔵はフッと滅多に見せない笑顔をみせた。
「悪運の強い奴め」
「羨ましければ勝ってみろ」
続いて焔が金蝉の札をひく。
こちらも口元に浮かべた微笑は崩れない。
「ふん・・・・・・・・」
仏頂面を浮かべた金蝉が三蔵の札をひく。
「・・・・・・・・・・ちっ」
舌打ちをした金蝉はその場に札を投げ捨てた。
「これで、二人。一騎打ちというわけだな」
「・・・・・上等だ」
バチバチバチィィィッッッッ!!!と二人の間に火花が散った。
・・・・・・肉眼で見えるあたりその凄まじさがうかがえるだろう。
「焔〜三蔵〜っがんばれ〜っ!!!」
悟空が手を二人に振って応援する・・・・・・・両方を。
「ああ、まかせろ。悟空」
「このバカ猿が!応援するなら片方にしろ!」
「だって・・・・・・・・・・・・・俺、どっちも好きなんだもんっ!!」
だから、悟空にどちらか一方を選んで応援するなんて出来ないのだ。
「勝って俺だけを好きだと言わせてやろう」
「はっ、好きなだけ言ってろ」
三蔵はすばやく焔のカードを引いた。
「・・・しぶとい奴だ」
焔が三蔵のカードを引いた。
「貴様こそな・・・」
どうやら二人の間をばばが行き来しているらしい。
だが、残るは3枚。そして二人。
決着の時はきた。
三蔵が焔のカードを再び手にとった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その瞬間、ばっと立ち上がった焔は、悟空のもとへ近寄るとその体を腕に抱き上げる。
悟空のブーケからピンクの花びらが一枚地に落ちた。
「ほ、焔っ!?」
突然のことに驚いた悟空が思わず、焔の首にしがみつきながら慌てて叫ぶ。
「俺の勝ちだ、悟空!!」
ぎゅっと抱きしめてくる焔の腕の強さ。
それが今の焔の心情を何よりも表している。
いつも傍で悟空の成長を見守ってきた焔。
誰にも愛される悟空にどれほど不安な気持ちを抱いていたことか。
それが今、自分の腕の中に・・・・・・・・・・。
「愛してる、悟空・・・・」
口から突いて出たのはただ、それだけだった。
だが、それだけで十分だった。
「焔・・・・」
ぽわぁと真っ赤に染まった悟空の顔。
白いタキシードに純白のウェディングドレス。
とても似合いではないか?
もう一度、焔は悟空を強く抱きしめると、一同を見渡し・・・・・・・幸せな笑みを浮かべた。
「では、悟空はいただいていく」
その笑顔を一転して不敵なものに変えると焔は片手を腕にあげた。
近づく爆音。
ヘリが急降下してきたのだ。
「ではなっ!!」
投げかけられた縄梯子に登場した時と同じく腕をかけると、悟空もろとも空へと舞い上がった。
「おいっ!!まだ卒業式は済んでないんだぞっ!!」
「勝ち逃げは卑怯ですよっ!!」
ガウンッガウンッガウンッ!!!
「いやはや・・・」
「まぁ、一瞬の幸せですからね♪」
様々な反応を返す一同の頭上に天から何かが降ってきた。
「「「「「「「・・・・・???」」」」」」」」」
ひらひらと風に舞うのは悟空の手にあったブーケ。
・・・・・・・・・落ちた先は三蔵の腕の中だった。
「・・・・ちっ」
そのブーケを覗き込んだ三蔵は盛大に舌打ちした。
だが、三蔵はそのブーケを片手に無造作に持ち直すと歩き出す・・・・・校門に向かって。
ブーケの中にあったカードには書かれていた。
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『卒業おめでとう!三蔵。いつまでも大好きだからな!!』
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「ふっ、バカ猿が・・・・」
三蔵の口元に浮かんでいたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笑みだった。
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