第九幕
暑くもなく、寒くもない。 そんな1年で最も過ごしやすい季節、それが秋。 青く澄み渡る空には雲ひとつなかった。 「どうした、悟空?」 廊下で空を見上げていた悟空に、焔が声をかけた。 「あ、焔♪」 悟空が嬉しそうに微笑む。 「休みなのに家に居るとは珍しいな」 活動的な悟空は休みとなると、どこかへ出かけていく。 そうでなくても、必ず誰かが誘いに来るのだ。 「だってさ、今日焔休みじゃん。だからオレも一緒にいようと思ってっ!!」 仕事が忙しい従兄に休みなどあって無きがごとし。 たまの休みでも連絡が入ったりしてのんびりしていたためしがない。 そんな焔が今日は”特別に”家に居るのだ。 「そうか・・・・・それは嬉しいな」 「へへっ♪」 「それならどこかへ遊びに行くか?」 「ううんっ、焔のせっかくの休みだろ。家でのんびりしようよ♪」 「だが、今日は天蓬たちもいないだろう。昼食はどうする?俺はろくなものを作れないし 悟空も作れないだろう?」 天蓬も金蝉も皆、3年の補習のために学校に休日出勤しているのだ。 「大丈夫!!だって天ちゃんがちゃんと用意してくれてるもん♪」 「・・・・・・さすがだな」 まぁ、天蓬が悟空にひもじい思いをさせるとは思えないが。 「それではゆっくり休ませてもらうか・・・・悟空、テラスで日光浴でもしないか?」 「するっ!!」 焔の提案に手をあげて賛成すると、その手をひいて駆け出した。 焔の部屋から悟空は長椅子を引っ張り出すとテラスに置いた。 「はい、焔♪」 どうやらそれは焔のためだったようだ。 「いたれりつくせりだな」 「たまにはね♪」 焔は手をひかれて長椅子に腰をおろした。 そしてその横をぽんぽんと叩く。 「ん?」 「悟空も座れ。ゆっくり話でもしよう」 「うん♪」 笑顔で肯くと、ぱふっと焔の横へ腰をおろした。 「学校は楽しいか?」 「うんっ、すっげー楽しいっ!!金蝉も天ちゃんもいるし・・・三蔵や八戒もいるもんっ!」 捲簾や悟浄は・・・?という問いはしない。 「それに色んな行事があって、色んなとこいけるし・・・・それに・・・・・」 あれもこれも・・・と悟空は指おりあげていく。 焔もそのひとつひとつにゆっくりと肯いてやる。 「でも・・・」 楽しげだった悟空の笑顔が少しばかり翳った。 「何だ?」 「焔が居ないのがちょっと・・・・寂しいかな?」 仕事が違うからしょーがないんだけど、と首をかしげてさみしげに笑う。 焔とは物心ついたころからずっと一緒だった。 小学校の参観日には忙しい両親の代わりに来てくれた。 皆に”かっこいいお兄さんだね”と言われるのが嬉しく誇らしかった。 両親が不慮の事故で亡くなったとき、傍にいて支えてくれた。 無口でちょっと見た目に不遜なところもあるけれど自分にはいつも優しい。 悟空はそんな焔が大好きだった。 色々なことを思い返していた悟空を、ふわりと温もりが包みこんだ。 そのまま悟空は焔の胸に頭をあずける。 「俺は金蝉ようにいつも傍には居られないし、天蓬のようにお前に食事を作ってやれる わけでもない・・・・・・・・だが、いつも誰よりも悟空の近くに居ると思っている」 「・・・・・・うん、わかってる」 焔は自分にとって唯一の血縁だから。 ・・・・・・・・いや、それだけじゃなく・・・・・・・・・・。 「オレね・・・・昔から焔の目が羨ましかったんだ♪」 「そうなのか?」 「うん。だって左の太陽みたいな目に右は空のような青色で・・・・オレもそんな目だったら いいのにな・・・て思ってた」 「そうか、だが俺は悟空の目のほうが好きだが」 「へへっ♪でねでねっ!!今日の空見たら・・・・焔みたいだな〜て思ったんだ。それで 気づいた」 悟空の目がきらきらと輝いて焔を見上げる。 「焔はいつもすぐ近くに居るんだって♪」 「・・・・・・・・」 眩しいばかりの笑顔で言われて焔の理性は限界間近である。 しかも、悟空は腕の中。 邪魔者は一人もいない。 こんな絶好の機会は2度とないだろう。 狙うなら今だ!!と焔は思った・・・・・・・・・・・・・・・・かもしれない。 「『お兄ちゃん』」 「・・・・・・っ!?」 「一回呼んでみたかったんだ♪」 焔は椅子にのめりこみそうになった。 「でもやっぱ焔、のほうがいいな。な、焔♪」 「あ・・・ああ・・・・」 遠くなりかけた意識を必死に引き戻す焔。 悟空と血が繋がっていたことをこれほど後悔した時はなかった。 「焔?・・・ほ〜む〜ら〜?」 「いや・・・何でもない・・・・・・」 「やっぱ疲れてるんだろ?寝ててもいいよ、オレ皆が帰ってきたら教えてあげるから♪」 「・・・・・・・・・・・・・・言葉に甘えよう」 「うん♪」 肉体的疲労よりもとどめの精神的ダメージが効いていた焔は目を閉じると気を失うように 深い眠りへとおちていった。 「おやおや」 仲良く重なって眠る二人に天蓬が声を漏らした。 「金蝉、見て下さいよ」 「何だ?」 こっちこっちと天蓬に手招きされて相変わらず仏頂面の金蝉がやって来る。 「これ・・・かわいらしいですねぇ」 もちろん悟空のことだ。 悟空は焔の胸に頭を乗せ、服を掴んで穏やかな寝息をたてていた。 その体には焔の手がまわされていた。 「・・・・ふんっ」 ちょっと眉間の皺が1、2本増える金蝉。 ばしぃぃんんっっ!! 「って〜〜〜〜っっ!!!何すんだよっ・・・・・てあれ、金蝉??いつ帰ってきたんだ?」 「お前がほけほけと寝ているときだ」 「あれ?オレ、寝てた??」 「ええ、ぐっすりと」 天蓬が寝癖ではねてしまっている悟空の髪を直しながら答える。 「そっか〜〜・・・・・あっ!!オレ、焔を起こすって約束したのに・・・・・・」 「もう起きている。こんなに騒がしくて寝ていられるわけがない・・・」 だが、悟空の体にまわされていた焔の手はほどけていない。 金蝉も天蓬もかなりそれにむかついていた。 「悟空、お腹が空いたでしょう?」 「うんっ!!すっげー腹へったーっ!!」 天蓬の言葉にあっさりと焔の腕から飛び上がる悟空である。 「ならとっとと食堂へ下りてこい、メシ抜きにするぞ」 「えぇ〜〜っ!!金蝉のおーぼーっ!!ケチ−っ!!」 ひくひくと金蝉の顔がひきつる。 「うっせーっ!!てめーが寝てるのが悪いんだろうがっ!!」 「眠たかったんだもんっ!!」 「これでこそ、”日常”ですねぇ」 「・・・・・・・」 焔にそそがれる天蓬の瞳は”抜け駆けは禁止ですよ”と不気味な光をたたえていた。 抜け駆けも何も・・・・・・・・・・・・・・。 今日のことを思い出し、はぁと心の中で大きく溜息をついて肩をおとした焔だった。 「いっただっきま〜〜〜すっ♪♪♪」 広い屋敷に悟空の声が木霊した。 |
† あとがき † 2週間以上トップをキープし続けている焔様のために書きました(笑) うん、すごいすごい!! 三蔵との票差はそれほど開いてはおりませんが。 でもやはり何だか悟空との仲はあまり進んでいないというか 「兄弟愛」が育っているような気が・・・・(笑) 苦労しますねぇ、焔さま♪ さて、季節は秋。 次はいよいよ文化祭?体育祭?てところですね。 このペースなら24にクリスマスの話ができるでしょうか・・・? あと7日しかありませんが・・・・ι 3万ヒットも近いし・・・うあぁ忙しいですねぇ・・・ι では、ご拝読ありがとうございましたm(__)m |