第八幕
乗り込んだ飛行機の中。 天蓬と八戒の差し入れのおやつやらお弁当やらを食べ尽くした悟空はそのまま 睡眠に突入した。 そして目を覚ませば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あっ、海だよっ!!三蔵っ海っ!!」 バシバシと隣りにいる三蔵を叩きながら悟空が眼下を指差している。 「・・・ああ」 ちょっと額に怒りマークを浮かべてそれに素っ気無く答える。 だが悟空は気にせず窓にはりついている。 「おや、綺麗ですね〜」 代わりに八戒が相槌をうつ。 「ね、ね、泳げるかな!?」 「ええ、沖縄はもう真夏だそうですから、大丈夫だと思います」 「やった〜♪」 これが臨海学校―――――――――つまり授業の一環であることなどすっかり 頭にない悟空である・・・・・・・・・もしかすると最初から無かったかもしれないが。 ひとまず、空港に降り立った天竺高校ご一行はバスでホテルに行き、そこでこれから の予定の確認を行うことになっている。 「おい、悟空。お前きちんと生徒たちを連れて来いよ。寄り道なんかするんじゃないぞ」 ここからはクラスごとに別れて行くため金蝉が悟空に念を押している。 「うんっ!わかった」 返事はいいのだ、いつも。 ただそれが達成される率が30パーセントに満たないというところが悩みの種 だった。 「大丈夫です。悟空先生は僕が責任を持ってホテルまで送らせていただきます」 と八戒。 「・・・・・・・お前は別のクラスでしかも学年も違うだろうが」 「いえいえ、ご遠慮なく」 ・・・・・・・・・遠慮とかそういう問題ではない。 「えーだったら俺も八戒と行くかぁ?」 悟浄が乱入する。 「八戒も悟浄も一緒なのかっ?」 わくわく、と問い掛ける悟空。 やはり何もわかっていない。 それらの会話を聞いていた他の者も俺も俺も・・・・と参戦してくる。 「・・・・ったく、どいつもこいつも・・・・・・きちんと自分のところへ行けっ!!!!」 いつもより数倍ぶちキレた金蝉が叫んだ。 ホテルにも着いていないのにこの騒ぎ。 先が思いやられる金蝉だった。 「へ〜〜っおっきぃホテルだなっ!!」 何とかかんとか寄り道をしそうになる悟空を生徒一同で気をそらし、到着したホテル の入り口。 そこからホテルを見上げて悟空が叫んだ。 同様に皆も呆れたようにその建物を見上げる。 ”・・・・ホテル?城の間違いじゃないのか?” 心の中で突っ込んでいた。 そこかしこにある尖塔には旗が掲げられ、・・・・・・・・・・・よくよく見るとそれは。 天竺高校の校章。 「なかなか快適そうだな。俺の設計はばっちりだ」 皆がぽかんと見あげる中、一人ロールスから降り立った理事=観世音は上から下 まで”リゾート満喫するぜ!!”といわんばかりの格好だった。 「無駄金使いやがって」 いとこである金蝉が苦々しくつぶやく。 「俺の金だ。文句あるか?」 「山ほど」 「聞いてやらん」 はっはっは・・・と笑いながらロビーに入っていく観世音の後を部下の二郎神が両手 に荷物を持って追う。 ・・・・・・・・・・・・・・・相変わらず苦労してそうだ。 そんな光景にちょっと毒気を抜かれた一同だったが、はっと我にかえって動きはじ める。 生徒は事前に決めたとおり、4人一組で1部屋の割り当てで移動する。 「なぁ、オレは?」 「悟空は私たちと一緒ですよ」 「おい、ベッドなんだろうな?悟空と布団を並べて寝るなんて勘弁してくれよ〜」 「はははは、大丈夫です。ベッドですから」 悟空の寝相の悪さときたら・・・・翌日あざ程度ではすまないのだ。 「何だよ、捲簾だってオレと変わんないくせしてっ!」 「お前よりは数倍ましたぜ」 「はいはい、こんなところで喧嘩していないで行きましょうね、金蝉は先に行きましたよ」 手のかかる大人二人であった。 「なぁ、腹減った!!」 「・・・てお前機内であれだけ食っといて言うか?」 「だってもう1時間も前のことじゃんっ!」 「「・・・・・・・・・・」」 凄まじく新陳代謝の良い体である。 「夕食まではまだ少し時間がありますからね」 「ったく、世話のやける小猿だな」 「猿じゃないっ!!」 がうがうっと捲簾にかみつく悟空。 「おい、悟空。行くぞ」 「ん・・・?」 「腹が減っているんだろう?」 金蝉の言葉に悟空の目がきらん★と光った。 「行くっ!!!!」 その二人の後姿を見ながら・・・・・・ 「甘いんだよな〜」 「甘いんですよね〜」 翌日。 空は美しく澄み渡っていた。 予定表には朝食の後に 「遠泳」 と二文字大きく書かれていた。 「遠泳ですか・・・・・・・」 その予定表を見ながら八戒がぽつ、と漏らした。 「なに?苦手なわけ?」 もしや弱点かっ!?と悟浄の心はうきうきである。 「いえ・・・・・悟空先生と一緒なんでしょうか・・・・?」 「そりゃあ、一緒なんじゃねぇ?あれでも一応体育のセンセイだし」 「それは困りました・・・」 「・・・・・何が?」 悟空と一緒で八戒が喜びこそすれ困るなんて事態など悟浄には思いつかなかった。 「理性が・・・・・・・・・あ、いえ・・・何でもありません」 「はぁ?」 にっこりと笑顔で誤魔化す八戒に悟浄はわけがわからない。 理性・・・て・・・・・・八戒に理性なんてあったのか? 「悟浄・・・・・後ろから刺しますよ?」 「うぇっ!?」 何故、思っていることが八戒に筒抜けなのかっ!? ・・・・というより、八戒なら本気で行動に移しそうで怖かった。 「まぁ、いいですよね。このくらいの楽しみがあっても・・・・」 普段の笑顔でふふふふ・・・と含み笑いを漏らす八戒を涙目で遠巻きにする悟浄 と生徒たちだった。 ホテルの備え付けのプライベートビーチ。 そこにおよそ700に及ぶ人数の生徒が集結していた。 これだけの人数が集まると”広め”なビーチも狭くみえる。 しかも、皆・・・海パン姿である。 ・・・・・・・・・かなり鬱陶しかったりする奴もいる。 八戒は、見ためひょろっとしていそうだったが白いながらもついてるとこはついていて なかなかしっかりした体つきをしていた。 悟浄は”体が資本!”というだけあって、日焼けしたたくましい体である。 三蔵は、食が細いせいか八戒よりもまだ細く、しかし筋肉の発達した様子は悟浄 並で・・・・・・・こう、ボクサーを思い起こさせる。 清一色は、骨っぽい体で・・・・・・・・いや、そんなことはどうでもいい。 ざくっとナナメに入る腹部の傷。 それが嫌でも目に入る。 「ああ、例の傷ですね」 「ええ、例のやつです」 八戒と清一色は腹の中はどうあれにこやかに言葉をかわす。 ”例の傷とはいったい何っ!?” 皆が心の中で思ったが口に出す勇気のある者は残念ながら居なかった。 「みんな、そろってるなっ♪」 その時、悟空の声がした。 700人が一斉にその方向へ振り向き・・・・・・・・・『ああぁぁぁぁ〜』と悲嘆の声を 漏らしたのだった。 特に八戒の落ち込み度は地の底まで辿りつきそうだった。 悟空の何がそこまで生徒を悲嘆させたのか。 それは、『水着』である。 皆、恐れおののきながらも『悟空センセイの上半身裸の生足剥き出し♪』・・・・を 楽しみにしていたのだ。(おいおい) その夢が・・・・・・・・・・・・っ!! 確かにそれも水着だろう。 だが。 だが、しかしっ!! 黒白ボーダーの柄。 上半身どころか二の腕までも隠されたそれは。 ちょっとどころじゃなく時代錯誤な水着!! 「・・・?どうしたんだ?」 「・・・・悟空先生・・・・その格好は・・・・・?」 「ああ、これ?オレ、面倒で嫌だって言ったんだけど金蝉とか焔がこれでないと泳がせないって言うから・・・・仕方ねーじゃん・・・・・・・変?」 傍に居た三蔵をすねたように見上げる。 「・・・・・・・・・・いや」 悟空の裸を他人に見せるよりは余ほどいい。 それに、この格好の悟空もこれはこれでいいのではないか・・・・と思ってしまう 三蔵、高校生の春(・・・夏だけど) 「良かった♪んじゃ・・・・・これからまずは1本目、50キロ遠泳な〜〜っ!!」 バシィィンンッ!!! 明るくあっさりと無理難題を言い放った悟空に三蔵のハリセンの一撃が落ちた。 「った〜っ!!何すんだよっ、三蔵っ!!」 「馬鹿がっ!!俺はお前と違って普通の人間なんだ!!そんなに泳げるかっ!!」 「三蔵が普通、というのはどうかと思いますが、さすがに50キロはきついですね〜」 「俺たちデリケートだから〜」 誰がだ? 「うう〜しょうがねーなー、皆、体力なさすぎだぞ」 「お前が規格外なだけだ」 三蔵が皆の気持ちを代弁した。 「じゃ、10キロからな。それならいいだろ?」 それでも”普通”というのはどうかと思うがとりあえず納得した一同は海へと飛び込んだのだった。 「ぷは〜っ、沖縄の海て泳ぎやすくていいな♪」 「そうですね〜。透明度が高いですし、あの特有の匂いがありませんから」 「うんっ、臭くないっ!それに泳いでる魚もすっげー美味そうっ!!」 そう言うと、ざぶんと潜り・・・・・ 「これとか美味そうじゃねぇ?」 手に持ってあがってきたのは黄と黒のストライプ柄の観賞用としか思えない魚。 「・・・・・・え、ええι」 さすがの八戒もひきつりながら、同意する。 悟空の感性、侮りがたし。 「おい・・・」 「ん?何、三蔵?」 「お前、10キロと言ったがいったいどこまでが10キロなんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・。あ――わり。考えてなかった♪」 バシィィィィィンンンッッッ!!!!! 「って〜〜〜〜っっっ!!」 「いー加減にしろっ!!」 「うーどっから出すんだよ〜そのハリセン」 「いや〜防水加工まで施してあるなんて本格的ですね〜」 そんなことに感心してどうする。 「ま、こうなったらきりのいいとこまで泳ぐしかありませんね」 「賛成〜っ♪」 どこまでも軽い悟空だった。 だが、三蔵はのらない。 「俺は帰るぞ、付き合ってられるか」 「えぇ〜っ、帰っちゃうのか〜三蔵っ!!」 「俺はお前みたちな体力馬鹿とは違うんでな」 「うぅ〜っ馬鹿じゃないもんっ!! 悟空が行かせてなるものかっ!!と三蔵の腕にしがみつく。 「おいっ、放せっ!!」 「い〜や〜っ!!」 「嫌じゃねぇっ・・・・っ放せっ!!」 「いやぁっ!!」 水の中での攻防は熾烈を極める。 ぶっ叩いてでも引き離そうとする三蔵にムキになった悟空がますます強くしがみつく。 「・・・・・っの、馬鹿が・・・・・っ」 堪忍袋の緒がきれた三蔵が渾身の力をこめて、拳骨をふりおろそうとしたその時。 事故は起こった。 三蔵に踊りかかろうとした悟空が―――――――――― 手を滑らせ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ちゅっ 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 三蔵と悟空は唇を触れさせたまましばし固まる。 最初にはなれたのは悟空だった。 「・・・・さんぞ?」 大人しくなった三蔵に、その腕の中で首をかしげる悟空。 「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・馬鹿が」 言葉は乱暴だったが何気に悟空の背中にまわされた腕が、言葉以上に三蔵の 気持ちを物語っていた。 「はいはい、そこまでにして下さいね〜♪」 すっかり存在を忘れられていた八戒が二人の間に割り込む。 「・・・・八戒」 「どうしたんですか、三蔵?」 にこにこにこ〜〜〜っ。 八戒スマイル全開である。 この笑顔に逆らって日の目を見た人間はいない・・・・・・・・・・と言われている(笑) 「悟空先生、どうやら他の生徒はついてきていないようですし、今日のところは 帰ることにしませんか?」 「え・・・?あ―ほんとだ〜・・・・あの豆つぶみたいなの・・・?」 「そうです」 本当ならば悟浄もこちらにいるはずなのだが、ライバルを蹴落とすために八戒が 体中に鎖をまいて鉄柱とともに地面に突き刺してきたのだ。 ・・・・・もちろん後で解放するつもりではいる・・・・・・・・・・・・覚えていれば。 「そっか〜、じゃ今日のところは戻るか・・・三蔵も戻るって言うし♪」 すでに話題転換で先ほどのあま〜い雰囲気は跡形もなく消えうせていた。 「・・・・・・・・・・ち」 三蔵の舌打ちも今回ばかりは覇気の欠片も無かったのだった。 その後の臨海学校といえば。 遠泳は日ごとに距離をのばし・・・・・・・・・・最高80キロ。 金蝉・天蓬・捲簾により行われる勉強会は寝る間も与えてもらえず・・・・・・・・・ 生徒たちは沖縄の「お」の字も満喫することが出来ず、帰途についたのだった。 「また来年も沖縄来ような〜っ♪」 そんな悟空の提案に同意してくれる人間はいたのやら・・・・・・・・? 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† あとがき † ご拝読ありがとうございましたm(__)m 何とか水曜日にはUPできるようです(^^ゞ 今回、三蔵さまは本当にはじめて(笑)「いい思い」を 一瞬だけですがみました(^^ゞ そして相変わらず八戒は最強です♪ 投票は1位は焔さまが突っ走っていらっしゃいます。 今回は残念ながら焔さま学校行事には参加できず、登場されて おりませんがその代わり次回には!! そして2位は僅差で三蔵!! 3位は・・・おおっ!!金蝉が巻き返しをはかり八戒を抜き返しました!! おめでとうっ!金蝉っ!! そして続くは5位には天蓬。これは不動ですね〜♪ そして、な・な・な〜んとっっ!!!! 6位に紫鴛が浮上!! いったい何故こんなに人気が・・・・・っ!? ・・・でもお陰で次回の登場枠を確保(笑) いや〜わからないものですね〜。 その後を清一色、ニィ博士が追います!! この辺でもう上位は変わらないでしょうね〜。 というところで 次回『第九幕』でお会いしましょう(^^)/~~~ 順調にいけば・・・土曜日か日曜日・・・・ では 御付き合いありがとうございました!! 第九幕へ |