第七幕










 海開きもはじまり、暑さのために授業への集中も無くなるころ(何しろ天竺高校は私立の
くせに冷暖房が完備されていない!!)、年中行事である臨海学校のイベントが行われる。
 そして冷暖房はケチるくせに、何故かこういうイベントだけは余計にはりきる理事長の決定
により、その場所は・・・・・・・・・・・・・・・・沖縄となっている。
 飛行機を2機もチャーターしての臨海学校・・・・・断じて修学旅行ではないのである。




「なっなっ、沖縄て美味いもんある〜っ??」
 惜しくも昨年は季節はずれの風邪をひいてしまい、自宅謹慎を余儀なくされた悟空は今年
こそはっ!!とチェックをかかさない。
「さぁ、どうでしょうねぇ」
 そんな悟空に穏やかな微笑みで答える天蓬は、悟空にまかせていては終らない荷造りに
励んでいる。
「あ、そうだっ!紫鴛て確か前に沖縄に居たことがあるって言ってたよなっ!!」
「ええ、ありますが?」
 同じく、荷造りのために通りがかった紫鴛が悟空に捕まった。
「美味いもんてあるっ??」
 悟空が目をきらきらと輝かせて尋ねてくる。
 この瞳を見て『ない』と言える者がいればお目にかかってみたい。
「ええ・・・色々ありますよ」
 本当は食べ物などに興味もない紫鴛であったが、とりあえず無難な返事をかえした。
「色々ってっ!?」
 そう来るか。
「えーと・・・・「ちんすこう」というお菓子が美味しいですよ」
「『ちんすこう』・・・・・?天ちゃん、知ってる??」
「確か・・・クッキーのようなお菓子だったと思いますが・・・・」
「ええ、そうですね」
「そっかーっ、ちんすこう、かぁっ♪♪それから、それから??」
「・・・・・泡盛・・・ですかねぇ」
 顎に手をあて、考えながら。
「・・・・あわもり?」
「あ、それはダメですよ、悟空」
 すかさず天蓬が口を挟んだ。
「どうして??」
「泡盛というのは度数の高いお酒なんです・・・・・・覚えてませんか?以前、悟空はテキーラ
を飲んで・・・・大変だったことがあったでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あったっけ?」
 綺麗さっぱり忘れている。
 ちょっと笑顔を氷つかせてしまった天蓬だった。
「あったんです、だから金蝉もあれからお酒は飲ませてくれないでしょう?」
「・・・・・・そういえば・・・・・いつもダメ、て・・・・」
 夕食などに出る食前酒さえ、悟空のものだけはアルコールのないジュースが並べられて
いる。
「・・・・・でも、美味しいんだろ・・・その泡盛?」
 いつもならば、あっさりと諦めてしまう悟空ではあったが食べ物のこととなると違う。
 ダメと言われても「はい、そうですか」とはいかない。
「まぁ・・・好き好きですからね・・・・悟空にはちょっと苦いかもしれないですよ」
 余計なことを・・・という天蓬の視線を浴びながら紫鴛は何とかフォローする。
 何と言ってもこの家において一番の影の実力者は天蓬なのだ。
 ”さわらぬ神にたたりなし”である。
「ふーん、あっねぇ紫鴛っ!焔は?」
「焔ですか?それなら部屋で仕事をしていましたよ。何か?」
「あのね、この間オレ、焔にお土産もらったから今度はオレが焔にお土産あげようと思って
何がいいかな、て・・・・」
「直接聞いてきたらどうですか?」
「ん・・・そうするっ!!」
 紫鴛の言葉に肯いた悟空はメモ帳を取り出し、部屋を出て行ったのであった。
 ・・・・・・・荷物の準備を放りだしたまま。









「ほむら〜っ♪」
 入り口から顔だけを出して部屋をのぞきこんだ悟空は紫鴛の言ったとおり机で仕事を
している焔の姿を見つけ、声をかけた。
「何だ、悟空?」
「あのね、今いい?」
「ああ」
 悪くても、いい。
 焔が悟空の誘いを断るわけがなかった。
「あのね♪あのね♪」
 焔の目の前に身を乗り出して覗き込む悟空は、食べてしまいたいほど愛らしかった。
「・・・・どうした、悟空?」
 そのまま抱きしめてしまいたいのを我慢して尋ねる。
「明日から臨海学校で沖縄に行くんだけどお土産何がいいっ??」
 ”お前がいい”・・・・と迷わず言いそうになる焔。
「・・・・・・・・悟空が無事に帰ってくればそれでいい」
「え〜〜っ!!でもさっ!!」
 せっかくいつものお返しが出来ると思ったのに。
「いいんだ、悟空。あれは俺がしたいからしているまでのこと。お前が気にすることはない」

「だったらオレだって焔にお土産あげたいっ!!」
 そういい返した悟空があまりに可愛くて、愛しくて・・・焔は気づいたら抱きしめていた。
「・・・・焔?」
「悟空・・・それではこうしよう。俺は沖縄にはまだ行ったことがない。だから帰ってきたら
悟空が見て聞いた沖縄について話してくれ・・・・・・俺だけに」
「沖縄の話?・・・・そんなのでいいの?」
「ああ」
 その間は悟空の時間を独占できる。
「うんっ、わかった!しっかり見てくるね♪」
「ああ、楽しんで来い」

















「わーいっ!飛行機だぁっ♪」
 空港の待合室のガラスから飛行機を眺めて悟空が歓声をあげた。
「悟空先生、おはようございます」
「あっ!八戒、おはようっ!!」
「今日はいい天気で予定通り飛行機も飛びそうで良かったですね」
「うんっ!!天気予報当たったみたいだな♪・・・・・・あれ?悟浄は??」
 いつも一緒なのに・・・と?な悟空。
「ああ、悟浄なら・・・・・・」
 と顔を向けた八戒の視線の先にはスチュワーデスのお姉さんたちをくどく姿。
 その横には捲簾もいたりする。
「相変わらずエロ河童だな〜」
「まったくです」
 まぁ、そのおかげで朝から悟空とツーショットで話すことの出来た八戒はご機嫌であるが。
「たまには悟浄も役に立つことがあるんですね・・・」
「・・・・・??」
 八戒の呟きは悟空には謎だった。
「きゅーっ」
「・・・・あっ、今日はジープも一緒なんだ♪」
「きゅーっ♪きゅーっ♪」
 ひょこんと八戒の肩から顔を出したジープに悟空が手をのばし、ジープも嬉しそうにそれに
こたえる。
「チャーターなんで動物も一緒で大丈夫だそうですから」
「そうなんだ〜♪よろしくな〜ジープ♪」
「きゅ〜っ!!」
 ジープは悟空に頬をすりよせる。

「ジープ・・・」
 飼い主=八戒の声に悟空とじゃれていたジープの体が固まった。
 ぎぎぎぃぃと音が出そうな様子で人間ならば”おそるおそる”と八戒を振り向く。
「きゅ・・・・・」
 そこにはとても穏やかな笑顔を浮かべた八戒・・・・・だが発せられるオーラは禍々しいもの
だった。
「きゅ・・・・ぃ・・・・」
 ジープはこの世の終わりを感じた。
 そろそろ〜と悟空の手の中から八戒の肩へと戻る。
「ジープ、どうしたんだ?」
「ああ、きっと眠いんでしょう」
 嘘つけ。
「なんだ、そっか♪ま、これからいくらでも遊べるもんな♪」
「そうですね」
 とにこやかに笑いながら、旅行中は檻からジープを出すまいと決意した八戒である。

「おい、悟空。てめー教師のくせに何を遊んでやがる」
 相変わらず不機嫌な三蔵が二人のもとへと歩いてきた。
「何してるって・・・・飛行機見てた♪すっげーでかいんだぜ♪」

 バシィィンッッ!!

「ってーっ!何すんだよっ!!」
「色々準備することあるだろーがっ!こんなとこで油売ってんじゃねーっ!!」
「だってっ!!金蝉が邪魔になるから向こう行ってろって言ったんだもんっ!!」
「「・・・・・・・・」」
 八戒も三蔵も言葉がない。
「ったく、どいつもこいつも甘やかしやがって・・・だからいつまでたってもこいつに教師の
自覚がねーんだろうが・・・」
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。僕は今の悟空先生が好きですよ」
「え、俺も八戒好き〜っ♪だって八戒が作るもんってすっげー美味いもんっ!!」
「嬉しいですよ」
 だが果たして悟空は本当に”八戒”が好きなのかそれとも”八戒の料理”が好きなのか・・・
複雑な心境の八戒だった。

 バシィィンンッ!!!

「いーから、とっとと手伝って来いっ!!!」
「うー三蔵のオーボーっ!!」
 憎まれ口を叩きながらも悟空は三蔵の言葉通り皆の集まっているあたりに走って行く。


「三蔵てあれですよね・・・”厳格な父親”」
「・・・・・・・・・・・誰がだ」
 さりげに父親のあたりを強調した八戒に三蔵の殺気が向けられる。
「もちろん、あなたですよ♪三蔵センパイ
「・・・・・・・・・・コロスぞ」
「はははは、嫌ですね〜後輩いじめはしないで下さいね♪」
「・・・・・・お前だけはそれはない」
「そうですよ、八戒君がいじめなんて受けるわけがありませんよ」
 振り向けば、天敵清一色くん。
「おや、ごあいさつですね。あなたこそ暗すぎるを飛び越えて危なすぎて誰も近づかないじゃ
ありませんか」
「失礼な、これでも人望はありますよ」
「冗談がきついですね〜」
 はっはっはっは。
 渇いた笑いをBGMに毒舌バトルは続く。
「何しろ、我が頼めば大概の人は快く引き受けてくれますからね」
 いや、それはあんたが恐いからだって。
「僕だって、大概どころかほとんどの人が無条件で助けてくれますよ」
 頼む笑顔が最恐だと有名な八戒くん。


 そんな二人を全ての人が”関わるまい”と近寄らないでいるなんてことは念頭にない二人
であった。








「な〜捲兄ちゃん」
「ん?どうした、悟空?」
「何か手伝うことある〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・珍しいこともあるもんだな、お前から手伝うなんて言葉が聞け
るなんて・・・・・・・・・何か悪いもんでも食ったか?」
「食ってないっ!!・・・・・だって三蔵が手伝って来い、て言うから・・・・・」
「ほぅ、それで来たわけ」
「でも、金蝉とこ行っても邪魔だって殴られるし・・・天ちゃんも待ってて下さいね、て言って
手伝わせてくれないし・・・・」
 相変わらず、甘い?二人である。
「それで俺んとこ来たわけね。そうだな・・・じゃ、手伝ってもらいましょう〜♪」
「ホントっ!?」









「いいか、悟空ここに笑って立ってるんだ」
「・・・・・?こう?」
 にこぉっ。
「う・・・・ま、OKだ」
 あやうく堕ちてしまいそうだったのを何とか気をひきしめる。
「それで色んな奴が来るけど笑ってるだけで、おごるって言ってもついて行くんじゃねーぞ」
「どうして?」
「後で俺が死ぬほど奢ってやるから」
「ほんとっ!?やったー♪」
 悟空が頭の中であれもこれも・・・と早くもメニューを思い浮かべる。
 そんな悟空にちょっと冷や汗を浮かべながら捲簾は早速計画にとりかかった。



「彼女〜ぉ、俺とお茶しね〜?」
「えぇ、どうしよっかな〜?」
 女性はきょろきょろとあたりを見回す・・・・・・・が捲簾の他に男の影はなし。
「・・・・それじゃあ、ちょっと付き合うわ♪」
 おっしゃっ!!12人目ゲットっ!!
 捲簾は心の中でガッツポーズをとった。

(これも悟空効果のおかげだな♪)


 その悟空はいったいどこにいるのかと言えば、待合室の入り口あたりで捲簾に言われた
ように笑顔で立っている・・・・・・・それだけだ。
 が、しかし。
 その周りには10分もしないうちに人だかりが出来ていた・・・・・・・・の。

「ねぇ、君・・・今からどこ行くの?」
「ちょっとそこでお茶しない?」
「俺、今からフランス行くんだけど一緒に・・・・」

 くどかれまくっている悟空だった。
 だが、悟空は捲簾の言葉を守り笑っているだけ。

 その笑顔に男どもが悩殺されているなんてことには爪の垢ほども気づかない悟空。
 頭の中では捲簾に奢ってもらう予定の品々が駆け巡っていた。
 



「悟空、悪かったな。もういいぜ♪」
 思う存分にナンパに興じた捲簾が人だかりをかきわけて悟空に歩み寄った。
「え、ホントっ!んじゃ食いもん〜♪」
「ああ、約束だからな」

「「「「おい、あんたこっちが先に・・・」」」」

 文句を言おうとするナンパご一行を睨みつけて大人しくさせると捲簾は悟空の腰に
手をまわして近くの喫茶店へ・・・・・・・・・・・・


「・・・捲簾」
「捲簾?」
「捲簾先生・・・」
「せん公・・・・」


 金蝉、天蓬、八戒、三蔵に挟まれ行くことは出来なかった。


「何をやっているんですか、あなたは」
 天蓬がにこやか〜に聞いてくる。
「てめー死にたいのか・・・?」
 ひくひくと顔をひきつらせているのは金蝉である。
「捲簾先生・・・・楽しいことをされてますね」
 毒舌、八戒くん。
「・・・・・コロス」
 一番直截でわかりやすい三蔵だった。


「う・・・いや・・・その・・・・ちょっとした手伝いを・・・・・ι」
 捲簾の額からつーと汗が流れ落ちる。
「うん、手伝ってた〜♪」
 一人事態のわかっていない悟空はご機嫌である。

「悟空、こういうのは手伝い、とは言わないんですよ」
「そうなの?」
「・・・・馬鹿猿が」
「猿って言うな〜っ!」
「悟空先生が無事で何よりです」
「・・・・??」

 皆が悟空に構っている間に・・・・と逃げ出そうとした捲簾は天蓬にがしっと服の裾を
つかまれ、つんのめる。

「それ相応の覚悟があってのことですよね」
 にこり。
「・・・・・・ι」
「覚悟できてんだろーな」
 キレてる金蝉。
「や、ちょ・・・・待て、て・・・・」
「待ちません。あなたには特別に特等席を設けさせていただきましたから」
「沖縄までそこに居ろ」
「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・一応、どこか聞いていいですか?」
 嫌な予感をひしひしと感じながら捲簾は聞いた。
 その問いに天蓬はそれは嬉しげに外を指差した。


「あそこです」

 指された方向には・・・・・・・・・・・・飛行機の翼・・・・・・・・・・・・・・・の上に・・・・・・・・・・・


「椅子っ!?」
「はい、あそこで薄い空気を満喫していただきます」
「ちょ、待て!!死ぬぞ、絶対っ!!」
 さすがに焦る捲簾。
「大丈夫です。安全ベルトは一番強いのにしていただきましたし・・・あ、そうそう念のために
酸素ボンベもつけました・・・・・・あとそれから時々鳥が飛んでくるそうなんでこの棒で追い
払って下さい」
 そして捲簾の手にはい、とにこやかに木の棒が渡される。
「・・・・・・・・・・・」
 どうやら本気らしい・・・・・・・。


 

 捲簾は天蓬に土下座して謝り倒した。






「悟空先生、もうあんなことしないで下さいね。最近は変な人間が多いんですから」
「・・・・?うん」
 よくわからなかったが悟空は一応肯いておく。
「ったく、馬鹿猿が手伝いの一つもまともに出来んのか・・・」
 三蔵が苦々しく呟く。
「出来たもんっ!!」
「出来てねーんだよ」
「う〜〜っ!!」
「まぁまぁ、悟空先生。三蔵センパイは自分の言い出したことでこんなことになって後悔
してるんですよ、それでちょっとすねてるだけです」
「・・・・・・・・・コロスぞ」
「嫌ですね、照れなくてもいいじゃないですか」
「三蔵・・・・・怒ってない?」
 一応、三蔵の言葉の通り手伝いをしたのにダメだったらしい、と・・・・・・と目をうるませて
悟空が三蔵を見上げてくる。
「・・・・・・怒ってない」
「本当に?」
「・・・・・ああ」
「良かった〜♪・・・・・あのね、今度はちゃんと手伝うからっ・・・・・」
 重ねて言う悟空の言葉はぽんと頭の上に乗せられた三蔵の手により途切れる。

「・・・・もう、いいからここに居ろ」

「・・・・・うん♪」

 それが一番被害が少ないことに今更ながら思いたった三蔵であった。















★あとがき★

疾風怒濤・・・・何故か他の小説に比べて1本がひたすら長いι
しかも今回のテーマは『臨海学校』
・・・のはずなのに全然行ってないし(T×T)
ま、いいか。(良くないわい)

さて、現在(12/10)投票は焔様が巻き返しをはかりましてトップを独走中!
続くは三蔵、まだまだ負けません!!
そしてこちらも接戦な八戒と金蝉。
一時は八戒が独走状態だった3位でしたが金蝉頑張りました!!
3位もまだまだわかりませんっ!!
その後を続く、天蓬、清一色、・・・・何故か紫鴛(笑)
どうしたんだろう・・・最初は下位に居たのに・・・・不思議です(ホントに)
だから今回、出演♪

そして御華門は気づきました。
・・・・・もしかしてナタク、て一回も出てない?(笑)
設定としては悟空の幼馴染、てことにしているんですが・・・・・
学園に関係ない方なために・・・・出演なし。
終るまでには1回・・・・・・くらいは出てくださるでしょう・・・・(おい)

といったところで長くなりました。
御付き合いありがとうございましたっ(^^)




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