〔第五幕〕
「う゛〜〜〜っ」 悟空は職員室の自分の机に臥せってうなっていた。 「どうした、悟空?腹痛か?」 そんな悟空に同じ体育担当の是音が声をかけた。 「ちっが〜うっ!!この次の授業が嫌なんだって!!!」 「次?・・・・・保健体育か?」 「うん・・・・」 そして再びうなって机と仲良くなる。 なるほど、と是音は納得した。 悟空のことだ。体育教師になったのは体を動かすのが好きだからという理由に違い ない。 なのに体育教師になってみれば実は教えるのは実技ばかりでなく保健なんてものも あったというわけだ。 「ま、仕方ねーな。これも仕事だからよ」 「なら是音がかわってくれよ〜」 上目遣いでねだられるがここで肯くわけにはいかない。 「あのなー・・・」 何とか授業に行かせようと説得しはじめた是音の言葉にバコッ!という凄まじい音が かぶさった。 「ごちゃごちゃ言ってないで授業に行け、悟空」 「・・ってー!金蝉おうぼーっ!!」 「うるさいっ!毎度毎度世話をやかせるな。おら、お迎えもあることだしとっとと行け」 金蝉の言葉に出入り口の方を振り向けばそこには次の授業のクラスの生徒。 ―――――八戒と悟浄が立っていた。 悟空が気が付くと八戒は機嫌よくにこにこと笑い、悟浄はニヤリ、と手をあげた。 「う〜〜〜〜」 それを見てかなり嫌そうにうなる悟空。 そんな悟空に八戒と悟浄の二人は近寄ると、両脇から悟空の腕をがしっと掴んだ。 「さぁ、行きましょうね。悟空先生」 その目は笑ってはいたが”逃しませんよ”と語っていた。 「そ。さっさと行くぜ、センセ♪」 「い〜〜や〜〜だ〜〜っ!!!」 悟空は必死に抵抗するが2人がかりではさすがに分が悪かった。 そのままずるずると引きずられるように職員室から連れていかれたのであった。 「・・・・・・・・・・・・・」 それを無言で見送る是音の脳裏では”先生が生徒に連行されて授業に行くか?”と 呆れ半分驚き半分の問いが浮かんでいた。 「やっとこれで静かになる」 隣りの金蝉はあっさりとそう言うと自分の席へと戻っていく。 他の教師たちもそれが日常茶飯事なのか何事も無かったかのように自分の仕事に 専念している。 「・・・・・・・・・・・・・・・奥がふけーぜ・・・・・」 ひとり新任の是音はしみじみと呟いたのだった。 一方、授業に連行された悟空は、さすがに教室まで来るとあきらめてしぶしぶ教壇に 立った。 「・・・・・・・・・自習じゃダメ?」 それでも最後の抵抗とばかりに生徒たちにすがるような眼差しで尋ねる。 ・・・・・・・・が。 目の前の席の八戒が、 「ダメです」 にっこりと、しかしはっきりと最終宣告を下した。 「う〜〜〜え・・・・と・・・・じゃ・・・・・・どこだっけ?」 仕方なくのろのろと教科書を開いた悟空が尋ねる。 「28ページです」 「あ・・・・・そーだっけ?・・・・ま、いいや。んじゃ・・・・・悟浄読んで」 「えー俺かよ?・・・ちっしゃーねーな」 悟浄は悟空のご指名を受けて立ち上がるとそのページから読みはじめた。 「・・・・であるからヒトの」 くーくー 「・・・・・運動能力・・・心拍数は」 くーくー 「・・・・・適度な・・・・云々」 くーっくーっくー 「っておいっ!!寝るなっ!!」 「ぅえ?」 悟浄の声をバックミュージックに教壇で沈没していた悟空がきょろきょろとあたりを 見渡した。 「え?え?もう終った?」 「んなわけねーだろうがっ!!」 ”授業中に教師が寝るな!!!”とのツッコミはもう悟空の授業においてはいつもの ことだ・・・・・・・・・・かなり嫌だが。 「ははは、相変わらずですねぇー」 ほのぼのと笑ってその一言で済ませてしまう八戒。 「笑い事じゃねーし・・・・」 今だに教科書を手に持ち、立っている悟浄。 「んーもう面倒だからいいや、質問はー?」 「おいっ」 さすがに悟浄の額に怒りマークが浮かぶ。 はっきり言って授業のじの字もしていないにも関わらず質問も何もないものだ。 だが、ここは天竺高校。 普通でないことは折り紙つきだ。 「はいはーいっ!」 生徒Aが手をあげた。Aの名前はちなみに三門くん。(フフフ・・) 「先生!前から聞きたかったんですが・・・」 「なに?」 「赤ちゃんはどうやったら出来るんですかー?」 その質問に教室内の生徒たちが一斉に苦笑を漏らした。 「え、知らないのか?」 悟空はそんな三門くんに驚いたように声をあげた。 「はい」 んなわけない。 「そんなの決まってるじゃん!」 おおうっ!!と悟空の言葉に皆がどよめく。 いいのか!?そんな話題!?てなもんだ。 「コウノトリが運んでくるんだって」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」」」 悟浄含む、生徒たちの目が点になった。 「えーと、悟空センセ・・・・それマジ?」 「マジ・・て悟浄も知らなかったのか?」 どうやら本気らしいと気づいて悟浄は間違った知識をただそうと口を開き・・・・・・・・ 八戒の殺気のこもった眼差しに慌てて口をふさいだ。 「ええ、その通りです。子供は愛し合った夫婦が心から欲しいと思ったときにコウノトリ が運んでくるんですよね」 「あ、やっぱり八戒は知ってるんだ♪天ちゃんも同じこと言ってたもん♪」 ”どういう教育してんだーっ”と生徒たちは心の中で叫ばずにはいられなかった。 ようやく退屈な授業も終わり、10時のおやつでも食べに行くかなー♪と思っていた 悟空は視界の先に見覚えのある人物を見つけた。 「あっ!」 悟空はその人物に向かって駆け出す。 その横の壁には『危険!廊下は走らない!』という張り紙があったりしたが。 悟空の目にそんなものは映らないらしく、タタタッ!トスッ!とその人物にタックルを かました。 「さーんぞっ♪」 「・・・・・・・怒」 ご機嫌な悟空とはうって変わって不機嫌な三蔵。 さもありなん。 三蔵が今まさに向かおうとしていたのは――――――――お手洗い。 「な、な三蔵♪」 そんなことお構いなしな悟空は、にこにこと笑顔で三蔵に呼びかける。 「・・・・・・・」 「三蔵って!」 「・・・・・・いい加減、放せっ!!」 「だってー三蔵に今日はじめて会ったから嬉しいんだもんっ♪」 それは三蔵だって場所がこんな所ではなく、差し迫った用事がなければ・・・・まぁ多少 相手にしてやらないでもなかった・・・・・・・・・・がここはトイレなのだっ!!! 「『嬉しいんだもんっ♪』じゃねぇっ!!俺は忙しいんだ、とっとと離れろっ!」 「いーやーっ!!三蔵が相手してくれるまで離れねーもん!」 とても教師とは思えない、いやそれどころか幼児のわがままかっ!?とさえ思える悟空 の様子に三蔵の背後におどろおどろしたオーラが立ち上る。 「・・・・・・・・・」 短気な三蔵は、普段以上に短気になっていた。 怒りゲージは満タンをあっさり振り切った。 バシィィィンッッッッ!!!!! ドガッッ!!!! いつものハリセンの一撃にくわえ、蹴りまで入った。 「うぐっ」 さすがの悟空もその場にうずくまる。 「さ・・・三蔵のばかーっ!!!」 それでも負け惜しみは忘れない。 「馬鹿はお前だ、この馬鹿っ!!」 教師と生徒の会話ではなかった。 「ったく!!」 用をたして戻ってみればそこに悟空の姿はすでに無かった。 「さんざん絡んできやがったくせに・・・・」 ぶつぶつ、と文句を云う三蔵はかなり不気味である。 「さーんぞっ!!」 上から降ってきた声に反射的に見上げれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ゴキッ。 嫌な音がした。 「あ・・・・・」 悟空は三蔵の肩に捕まりながら・・・・・・・固まった。 三蔵の首がちょっと変な方向に曲がっている・・・・・かもしれない。 さすがに上からのダイブはまずかったか・・・・・・・・? 「まずいに決まっているだろうがっ!!!!」 スパァァァンッッ!!! 「ったくお前はいつもいつも・・・・狙ってやがるのか?!」 「え・・・そんな・・・・誤解だって、三蔵〜」 「なら、どうして俺はこんなに生傷が絶えないんだ?!」 「え、う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 考えることしばし。 ぽんっと悟空が手を打った。 「運が悪い」 「・・・・・・・・・(怒)」 「な?そうだろ?」 「・・・・・・・・・・てめーのせいだろうがっ!!!!!このクソ猿っ!!!!!」 「あー猿って云うな〜っ!三蔵のタレ目〜」 「誰がタレ目だっ!!この馬鹿猿っ!!」 「あ、またっ!!う〜三蔵のオタンコナス〜っ!!」 「誰がナスだ、このボケっ!!」 こうして三蔵VS悟空の言い争いはトイレの前で延々と続いたのだった。 そして悟空の一日は終る。 ・・・・・・・・・・ていいんだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・? |
☆あとがき☆ 何とか今週も無事更新・・・(ほっ) しかし・・・全然誰ともイイ雰囲気になってくれない悟空(笑) 本当に誰かとくっついてくれるんだろうか・・・・不安です(おいおい) そして何気に登場な三門くん(笑) 御華門でそのまま出すのは何なのでちょっと字を変えました♪ もし、『自分も名前を出してもらいたいっ!!』という奇特な方 いらっしゃいましたら掲示板かメールでおしらせを♪ ・・・・でも通行人とか生徒Bとか被害者(?!)とか端役ですが(笑) では、また次回お会いできることを祈って。 ごきげんよう(^^)/~~~ |