〜第四幕〜







 天気は快晴、気分も快晴。
 今日の悟空はすこぶるご機嫌だった。

「やったーっ!晴れだぁっ!!」
 悟空は自分の部屋の窓を開け、お日様の燦々輝いていることを確認するとだだっ広い
屋敷に響き渡るかのような大声で叫んだ。
 
 もちろん、その声に金蝉・天蓬・捲簾は目を覚ました。

「うるさいっ!!」
「・・・・朝から元気ですねぇ・・・」
「う〜何を雄たけんでんだぁ?」



「いったいあいつは何をやっているんだ?」
 仕方なく起き出した(早朝午前4:30)3人が食堂に集まってくる。
「今日は遠足なんですよ」
「遠足ぅ?・・・あぁ、そういや言ってたな・・・忘れてたぜ」
 高校生にもなった奴らを何が悲しくてぞろぞろと引き連れて歩かなければならない
のかと毎年、教員たちから文句が出るが、そこは理事長。
「何だ、わざわざ理由を作ってまでお前らに一時の休息をやろうという俺のやさしい心
遣いがわからないのか?」
 嘘つけ。
 おそらく理事長=観世音菩薩は教師たちの嫌がるのを見て楽しんでいるだけに
違いないのだ。


 バタンッ!!!
「腹へったーっ!!天ちゃん、ごはーんっ!!」
「はいはい」
 食堂に飛び込んで来た悟空の速攻の要求に天蓬はにこにこ顔で用意を整える。
 が、しかし。

 バシンッ!!
 そんな悟空の頭を金蝉がはたいた。
「いっ・・・てーっっ!!何すんだよっ!!」
「朝っぱらから騒がしいんだっ!!」
「だって・・っ!!すっげーいい天気だったんだもんっ!!」
 おそらく教師の中で唯一遠足を楽しみにしているだろう悟空は嬉しげに金蝉に報告
する。
「・・・・・・ちっ」
 不覚にも悟空の笑顔に見惚れた金蝉は舌打ちして照れを誤魔化す。
「やっぱさぁ・・・」
 天蓬が用意してくれた大量の朝ご飯を胃の中へと収めながら悟空が口を開く。
「焔にテルテル坊主作ってもらったのがきいたのかなぁ♪」

「「「・・・・・・・・・」」」
 悟空のその発言に3人の脳裏に、机の上でこまごまとテルテル坊主づくりに精を出す
焔の様子が浮かぶ。
「「「・・・・・・ぶっ」」」 
 吹き出してしまった。
 似合わない。
 似合わなすぎる!!
 捲簾など机に伏せて腹を抱えてひーひー笑っている。
 金蝉さえ口元が妙な形に歪んでいる。
 そんな3人の様子を少し離れた扉から何時の間にか下りてきた焔が冷たく見下ろして
ふっと馬鹿にしたように鼻をならすと、うって変わった優しい顔で悟空を見つめた。
「悟空、晴れて良かったな」
「うんっ!サンキューな、焔っ!!」
 悟空がタタタッ!と焔に駆け寄る。
「焔のテルテル坊主のおかげだなっvv」
 にぱっと笑って焔に抱きつく。
「いや、悟空の純粋な気持ちが天に通じたんだろう」
「へへっ!」

「「「・・・・おい」」」
 わけのわからないいちゃいちゃモードに突入しようとした二人に3人のツッコミが入る。

「ところで悟空、遠足はどこへ行くんだ?」
「え・・・・と・・・・・天ちゃん、どこだっけ?」
 バシッ!!!!!
 再び金蝉の愛の鞭?が悟空の頭に振り下ろされた。
「そんだけ騒いでおいて知らないのか、お前はっ!!」
「知ってるもんっ!!聞いたけど忘れただけなんだっっ!!」
「・・・・この馬鹿猿」
 余計悪い。
「ははははは、悟空、1年生は蓬莱山へ行くんですよ」
「あ、そうそうっ!!ほらいさん!!」
「・・・・・・・蓬莱山だ」
 金蝉が頭痛をこらえるかのようにテーブルに手をついて訂正を加えた。
「やはり足腰を鍛えることも遠足の一つの目的ですからね」
「へぇ、そうなんだっ!!・・・・でも蓬莱山へ行くだけで足腰が鍛えられるのか?」
「いえ、まぁ・・・悟空にしたらちょっとした運動程度でしょうが」
 あなどるなかれ。
 蓬莱山は標高1万メートル(!?)
 それを日帰りで登って帰って来なければいけないのだ。
 その過酷さときたら・・・・毎年脱落者が半数以上、その半数のうち半分が病院送りと
なるほどだ。
 思わず、”遠足ちゃうわいっ!!”と手刀に飛び蹴りまで食らわせたくなるほどだ。
 ただ救いは岩山ではなく、それそれは美しい山だということ。
「だってさ、焔!」
「そうか、わかった」
「・・??」
 何がわかったのかわからないが焔は含みある笑いを残して食堂を後にした。
「悟空、はい」
「うん?」
「お弁当です」
「食いもんっ!!♪」
「あれ?いつもは天蓬が持って行ってるんじゃねーの?」
 捲簾がその光景に尋ねる。
「嫌ですねぇ。残念ながら各学年で遠足に行く場所が違うんですよ。僕は3年の副担任
ですから今日は悟空のぶんは持っていけないんです」
「なるほど」
「・・・て納得してますけど捲簾も3年の副担任ですよ」
「なにっ!!?知らねーぞ、俺は!!」
「ええ、教えてませんでしたから」
 にこにこ。
「・・・・・・・・・」
「それから金蝉は3年の主任ですからね」
「そっかー、金蝉たちと違う場所なのか・・・・ちょっと寂しいけど今日だけだもんな♪
我慢しなくちゃな!俺も一応先生だしっ♪」
 健気な悟空に天蓬は抱きしめたくなったがそれをすると後ろの二人がうるさいので
とりあえず微笑みに留めたのだった。











 遠足へ行く前に一応全校生徒が運動場に集合した。
 ここから各学年ごとに別れるのだ。

「悟空先生、皆揃いました!」
 点呼をとった学級委員の葉が悟空に報告する。
「おしっ!!んじゃ、みんな行くぞっ!!」
「「「「は〜いっ!!!」」」」
 さすがは一年生。
 まだまだ中学生気分が抜けないのかとても素直に返事がかえってくる。
 そして歩き出そうとした悟空の視界に見慣れた金色が飛び込んで来た。
「あれ・・・?」
 地底湖(3年の遠足場所)へと行ったはずの三蔵が木の陰で煙草をふかしていた。
 よく見ると隣に八戒と悟浄もいる。
 2年は地獄谷だったはずだ。そこで決死のスカイダイビングをやるとか聞いた。
「何してんだ?」
「遠足なんてたりーことに付き合えるかよ、この悟浄さまがよ」
「僕はちょっと体調が悪くて休憩しているんです」
 ・・・・・・どこも悪いようには見えないが。
「・・・・・馬鹿馬鹿しい」
 三蔵が煙草を捨て、足でげしげしっと踏みつけた。
「ダメじゃんっ!!遠足すっげー楽しいんだからなっ!!」
 そりゃー体調悪い八戒は無理だろうけどさ、と悟空。
「何が楽しいんだよ?」
「だってさ、遠足行くだろ。そしたら弁当広げて・・・・腹いっぱい食べられるんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・いっつも食ってるだろうが」
 さすがに三蔵、呆れた顔になった。
「それだけじゃねーって!みんなと一緒に食べられるもんっ!!」
 本当に悟空が嬉しそうに笑う。
「・・・・・・ふん」
 みんなと一緒?
 自分が一緒に過ごしたいと思うのは・・・・・・・・・・・・と考えて八戒の言葉に三蔵の
思考が中止された。
「それじゃあ、もう今からだと追いつきませんし・・・悟空先生と一緒に行っても構いませ
んか?」
「え、俺と?でも八戒、体調が悪いんじゃ・・・?」
「おかげさまでもう治りました」
 笑顔で、しかしはっきりくっきりと告げる八戒。
「んじゃ、俺も一年と一緒に行くかなー」
 木に寄りかかっていた悟浄が身を起こした。
「うーん、まいっか♪多いほうが楽しいもんな♪」
「三蔵はどうします?」
「・・・・・・・」
 無言の三蔵。
 だが3人が見る中、三蔵はすたすたと校門のほうへと歩き出した。
「何ぼやぼやしてやがる。早く行かねーと日が暮れるだろうがっ」
「・・・・・ホントに素直じゃありませんねぇ」
「まったくだ」
 ガウンッ!!
「っと!!危ねーなっ!!」
「そりゃあ悪かったな」
「ちっとも悪いと思ってない口調で言われましてもねぇ」
 4人の白熱したやりとりに待機していた1年生の顔がひきつっていた。












「メシ♪メシ♪メシ〜♪」
 悟空はるんるんで蓬莱山を登っていく。
 足取りも軽く、ホップステップジャーンプッ!てなものだ。
 ただし掛け声はひたすら”メシ”だったが。
「・・・・おい」
「メシ♪メシッ♪」
「おい・・・・・って呼んでるだろーがっ!!!!」
 悟空の後頭部に三蔵のハリセンが炸裂した。
「〜〜っってぇっ!!!」
 勢いあまって目の前の木にぶつかってしまった悟空が目に涙をたたえて三蔵を上目
遣いで睨んできた。
 かなり凶悪に可愛い。
 だが、ここで負けてはいけない三蔵!!
「馬鹿がっ!ぽんぽん登って行くんじゃねーっ!!」
「えぇーっ何でっ??」
 三蔵の言葉に?マークが悟空の頭のまわりを飛び交った。
「てめーのクラスの連中が誰一人として来てねーだろうがっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「おや、本当ですねぇ」
「・・・・・・ていうかあそこの米粒みてーなのがそうじゃないんですかーセンセ?」
「・・・・・・・・・・・・何であんなとこに居んのかな?戻ったのか?」
「違うだろ、馬鹿!!お前のペースが速すぎて連中はついてこれねーんだよ!!」
「え?だって三蔵たちは居るじゃん」

「「「・・・・・・・・・はぁぁぁ」」」
 深くふか〜くため息をついた3人だった。


「とにかく皆さんが追いつくまでこのあたりで休憩しましょう」
「そうだな」
「な?な?メシ食ってもいい??」
「・・・・・・・・勝手に食え」
 すでにツッコミ入れる気力を根こそぎ奪われた三蔵だった。
「それじゃ、いっただっきま〜すっ!!」
 お昼にと用意された天蓬のお弁当は悟空の10時の間食となって次々と消えていく。
「あ、これも〜らいっ!」
「あっ!!後で食べよーと思ってとっといたのにっ!!返せよっ!!」
 しかし骨つきチキンは悟浄の口の中へ。
「あ〜〜っ!!!」
「へへ。食っちまったから返せませんね〜」
「く〜〜〜っ!!悟浄のばかっ!!」
「残しとくのが悪いんだよっ」
「悟浄が勝手に食べるのが悪いんだっ!!!」
 お前が、お前が・・・というまるで小学生の喧嘩レベルになってきた言い争いに三蔵の
眉間のしわが深くなる。

「悟浄が・・・っ」
「悟空センセが・・・っ」


「あぁ〜〜〜もうっ、うるせぇっっっ!!!!」
  ガウンッガウンッ
        ガウンッガウンッ
              ガウンッガウンッ

 谷間に木霊となって銃声が響き渡った。



 そうこうしているうちに一年生たちが追いついた。
 毎年このあたりで3分の一あたりは脱落していくのだが今年は全員揃っている。
 なかなか優秀なのかもしれない。







 結局。
 全員は頂上へとたどり着けなかったが脱落者は中腹あたりでへばった6,7人をのぞ
いて皆、登頂に成功したのだった。









「今日は楽しかったなっ!!」
 一人相変わらず元気な悟空にさすがの3人も動作で返事を返すのみ。
 生徒たちなど半分意識が朦朧としていた。
「明日も遠足だったら良かったのに」


 『それだけはいくら悟空の言葉でも絶対に嫌だ』

 それが皆の共通した思いだった。



「悟空っ!!」
「あれ、焔?」
 麓へと下りてきた一行を出迎えたのは、本日はリムジンでお越しの焔だった。
「どうしたんだ?」
「そろそろ下りてくる頃だろうと思ってな。待っていた」
「そっか♪」
「お腹が空いただろう、中に用意してあるから帰りながら食べるといい」
「ホントっ!!やった♪焔、大スキーっ!!」
「俺も悟空が好きだ」
 焔の言葉に背後に殺気がうまれた。
「・・・おい」
「何だ?」
「そいつは一応センセイなんでな、連れて帰ってもらっちゃ困るんだよ」
「悟空一人いなくても大丈夫だろう。小学生では無いだろうし?」
「・・・・・・っ」
 焔と三蔵の視線が交錯し火花が散った。
 
「ん?どうしたんだ焔?三蔵?」
 ほけほけと一人わけのわかっていない悟空。
「さっさと帰ろーぜ、俺もう腹へって腹へって・・・・な、八戒」
「はい、そうですねぇ」
「・・・・・・・て何故お前が俺の車に乗っている?」
 悟空の隣りに座り、ワインのコルクに手をかけている八戒に焔の視線が向く。
「いえ、悟空先生が僕も誘ってくださったものですから」
「うん、こん中広いからな♪悟浄も三蔵も乗れよvv」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
 ずうずうしく悟浄が乗り込む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっかくのセンセイの誘いだからな」
 と焔にざまーみろ、と皮肉げに笑いながら悟空の隣りに乗り込んだ。

「貴様ら・・・・」
 怒れる焔を放置して盛り上がる一行。
 未成年じゃないのか?とか
 学校に戻らなくていいのか?とか
 
 彼らの頭には1ミクロンたりとも残っていなかった。









「「「「「・・・・悟空先生・・・・」」」」」
 しかし最も哀れだったのは忘れられた悟空の生徒たちだった。


 ひゅるる〜と蓬莱山からの吹き降ろしの風が冷たかった。












† あとがき †

はぁ・・・書き終わらないかと思いました、マジで・・・(汗)
さてお待たせいたしました第四幕UPです♪
今回は御華門が確認した時点では焔さまが単独1位でしたので
これはメインにしなくちゃ・・・と思ったはずなのに・・・・・(T×T)
前回の三蔵と同様これじゃあちっともイイ目じゃない・・・(T×T)
まぁ、先は長いんだし・・・くじけず頑張れ御華門!(←自分で励ます・爆)
忘れ去られると思っていた葉も登場です♪でも今回限りかも(笑)
そして悟浄もまぁまぁ、出ましたね(笑)
八戒と天蓬は相変わらずです(笑)
今回は別行動だった清一色君はお休みです。
もしかすると遠足なんて参加しないで生物室で怪しい植物を栽培中かも
しれません・・・・(笑)ほら、体力無さそうだし(笑)
天竺高校の遠足はハードなのさっ♪
次回は、紅孩児とか出したいなと計画中♪
下位のほうに居たと思っていた彼ですが予想外の健闘をみせて
いらっしゃいますので(笑)

では
今回も御付き合いくださりありがとうございました(^^)


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