〜序幕〜
入学式。 『天竺高校』は満開の桜に覆われていた。 これから起こる騒動も知らず、桜はゆらりゆらりと穏やかだった。 「起立ーっ!!礼っ!!」 号令の元に教師、生徒が一斉に立ち上がり、天竺高校の理事長である観世音 菩薩に礼をした。 「まずは新入生、入学おめでとうよ」 この学園の『面白ければそれでいい』なんていうモットーを掲げた理事長だけ あって祝いの言葉も簡潔、ざっくばらんだった。 「在校生は無事進学おめでとう。まぁ、長々話しても仕方ないからな・・これから 一年、精々励め。以上」 そんな3分間スピーチも真っ青な理事長の挨拶の言葉に新入生は呆気にとら れているが在校生はすでに慣れているのか気にもしていない。 理事長はさっさと舞台から下りると用意されている椅子に座り、部下から給仕を 受けている。 もちろんその間も式はすすむ。 理事長の次は校長の光明の挨拶だった。 こちらは理事長と違い・・・・・・ひたすら長かった。 「ということですから・・・・・・云々・・・・・ですから・・・・・・・・云々・・・・・・・・・・」 長い、とにかく長い。 このまま夕暮れまで続くかと思われた話はきゅぅっとどこからともなく鳴ったよく わからない音により唐突に終了した。 もちろん新入生にはそれが何の音なのかわからない。 だが、教師も2,3年生もそれが何の音なのか十分に理解していた。 「腹へった〜〜」 先ほどの『きゅぅっ』という音は何を隠そう、天竺高校の体育教師である悟空の 腹の音だったのだ。 一応、式の途中であるということを考慮してかささやくような声音だったが傍に 居た金蝉にはばっちりくっきり聞こえた。 金蝉は同じく、国語を担当している。言わば悟空の同僚である。 「お前、朝さんざん食っただろうが・・・」 「だって食いだめはできねーんだもん」 うるうるさせて訴える悟空にそのまた隣りに居る物理担当の天蓬がどこからとも なくクッキーを渡した。 「食べに行くわけにもいきませんから、これでも食べて我慢して下さい」 「ありがとーっ!!だから天ちゃんて好きだっ!!」 「おいおい、餌付けされてんじゃねーよ」 苦笑しながらそう呟いたのは数学担当の捲簾である。 「んぐ、んぐっ・・・ごくんっ・・・ん?捲兄ちゃんもいる?」 捲簾の言葉を誤解した悟空が食べかけのクッキーを差し出す。 それににやにやと笑って手を出そうとした捲簾から掠めるように横から出て来て 食べかけクッキーを手に入れたのは保健医のニィ先生だった。 悟空以外の3人が何かを言う前にぱくり、と口に入れてしまう。 「うん、やはり美味しいですよ。ごちそうさま、悟空くん♪」 「え・・・?う、うん・・・美味しいよな♪」 その時ちっ、と舌打ちする音が聞こえた。 「てめぇら、本当に教師か?」 不機嫌な顔で一同を睨むのは3年の三蔵だった。 私語を生徒に注意されるようでは終っている気がしないでもないが天竺高校では よく見られる光景だけになんとも言えなかった。 「んあ?三蔵も欲しかったのか?」 一人、無邪気に悟空は尋ねる。 「あ・・・でも、もう無いや・・・ごめんな、三蔵・・・」 しゅん・・・と手の中の袋を見つめてしな垂れてしまった悟空を見て三蔵が表情は そのままで内心慌てた。 「ダメだぜ〜、悟空センセイ、イジメちゃ〜」 三蔵の背後からかかったのは2年生の悟浄だった。 「・・・・何でお前がここに居る」 「だってよ〜ちょっと遅れてきちまったらもう式はじまってるし。ここしか席あいてなか ったんだよ」 「入学式早々、遅れてくるなんていい度胸してますよね。悟浄」 横からかかった声に悟浄の笑顔が固まった。 「は・・・八戒・・・い、いつのまに・・・?」 そこにはにこにこと笑顔を浮かべた同学年の八戒が座っていた。 「さきほど、悟浄が入ってくるのを目撃して移動しました。これで遅刻通算10回目 です。トイレ掃除よろしくお願いしますね」 八戒は風紀委員でもあった。 そして、浮かべた笑顔はもしやらなければもっとハイパーなことをさせるぞ、と 無言の圧力をかけていた。 「・・は、はい。誠心誠意やらせていただきマス」 「ええ、よろしくお願いします。悟空先生、お腹がすいてらっしゃるんですよね。僕 ちょうどお弁当を持っていますから良ければ食べて下さい」 「・・・・入学式に弁当持参するか・・・・普通・・・?」 そんな悟浄の呟きは黙殺された。 「え?いいのか?!」 「はい、どうぞ食べて下さい」 「じゃ、遠慮なくっ!!ありがとな、八戒!!」 本当に幸せそうに笑う悟空に、八戒の笑みも深くなる。 「んぐっ・・はぐっ・・・・ごく。・・・そう言えば今日はジープどうしたんだ?いつも肩に 乗ってるのに?」 ジープというのは八戒が飼っている白竜である。 「今日は一応入学式ですから置いてきたんです」 「そっか〜、あいつ可愛いよな〜」 お前のほうがもっと可愛いっ!!!!! その場にいた全員の無言の思いは握りしめられた拳が語る。 「悟空先生、悟空先生っ!!」 盛り上がる一同に水をさすかのように壇上からマイク越しに悟空の名が呼ばれている。 「何?」 「お前、今度1年の担任する予定だったろうが。その紹介に呼ばれてるんだ」 金蝉が不思議そうな顔をしている悟空に言った。 「あ。そっか。俺、担任するんだった」 本当にそれで勤まるのか? ・・・というのは皆の共通した思いだった。 「はい、はーいっ!!」 腹も多少は満たされた悟空は手をあげて答える。 まるで学生のようだった。 「1−Cの担任は孫悟空先生です」 紹介されると、興味津々に見つめる新入生に向かって悟空は手を振った。 「俺、孫悟空。教えてるのは体育。よろしくな!!」 太陽のような元気いっぱいな笑顔つきの挨拶に1ーCの生徒一同、天から与えられた幸運に祈るほど感謝した。 中でも”中学あがりたてっ!!”といった感じの丸刈りの生徒は涙ぐんでさえいる。 彼の名前は”葉”といい、以後悟空の熱狂的ファンと化す。 そして、何とか入学式も済むと今日の予定はもう無かった。 「悟空先生、今日は美味しいケーキがあるんですが寄っ行きませんか?」 あくびをしながら職員室を出て行こうとした悟空に声をかけたのは2年生の清一色 だった。彼は生物部員でもある。 生物部室は天竺高校の7不思議スポットの一つでもある。 窓際に置かれている巨大水槽には金魚にまじってピラニアが泳いでいる・・とか 日に一度は妙な色した煙が部室から流れている・・・とか・・・夜な夜な部室から妙な 呪文のような低い声が聞こえてくる・・・とか。 「ケーキっ?!・・・・あ、でも今日はだめだぁ」 至極、残念と落胆する悟空に清一色は理由を尋ねる。 「今日は焔が早く帰って来い、て。遅れたら飯抜きだって言ってたから」 「ああ、悟空先生の従兄さんですね」 「そう、だからケーキは食いたいけど・・・・」 未練ありありの顔で悲しげに見つめられては極悪非道との誉れも高い清一色も 無理強いはできない。 「では、また今度。悟空先生のために用意しておきます」 「ホントっ!?サンキューっ!!」 感謝のしるしに清一色に抱きつきそうになった悟空を背後から掴む腕。 「・・・・・邪魔しないでくれませんか、八戒君」 「邪魔だなんてとんでもありません、ちょっと悟空先生に用事があっただけです」 にこりと微笑みながらも殺気が陽炎のごとく立ち上っている。 悟空は知らないがこの2人は犬猿の仲で有名だった。 二人の間には南極もブリザードさえ逃げてしまいそうな冷気が吹き荒れる。 「申し訳ありませんが・・」 それを打ち破ったのは薄く目を閉じ、静かに佇む人物だった。 「あ、そうでした。悟空先生にこちらの方々が用事があるそうです」 「用事・・・て・・・・あれ?・・・・紫鴛・・・に是音?」 「こんにちわ、悟空」 「よぉ、悟空」 驚きに目を見張る悟空に2人はあかるく声をかける。 「どうしたんだよ、二人とも?!」 「実はですね、悟空」 「俺たち、今度からここの先生に採用されたんだわ」 「えーっ!!そうなのかっ!!全然知らなかった!!」 実は食事に夢中で校長の話を聞いてなかっただけなのだが。 「せっかくなんだから家よっていけよ!!今日は焔も居るんだっ!!」 「それではお邪魔させていただきましょうか」 「俺もそうさせてもらうぜ」 悟空は二人の手をとると校舎を後にした。 門まで出る間、悟空には色々な生徒が別れの挨拶を告げてくる。 その中でも赤髪の好青年風の生徒は特に親しげだった。 「紅孩児っ!!」 紅孩児は1年の時に悟空の生徒だったのだ。 「悟空先生、今日も元気ですね」 「うんっ!!今日は授業がないから早く帰れるもんな!!」 まるで生徒のような発言である。 そんな無邪気な様子に紅孩児は笑いを漏らす。 「今年も悟空先生に担任をしてもらいたかったんだが、残念だ」 「俺も!!だって紅孩児すっげーバスケ上手いもんな!!」 「悟空先生には負けるけどな」 「そうかなー?んじゃまた今度勝負しようぜ!!」 「それじゃあ、独角児にも言っておく」 「うん、わかった」 約束を交わした悟空は待たせていた紫鴛と是音に追いつくと家路へ着いた のだった。 |
★あとがき+お知らせ★ さぁ、急遽思いついた学園もの。 序幕はとりあえず悟空争奪戦にエントリーする男たちの立場を 紹介いたしました・・・・18人の立場を紹介するて難しい(T×T) さて、この『疾風怒涛』は皆様の投票によりそれぞれの出演頻度や 悟空とのからみが変化していきます。 もちろん誰が悟空とくっつくかもわかりません(笑) 次回小説がUPするまでに上位にいた人がその小説のメインとなります。 つまり皆様の愛により出張るキャラもいれば忘れられるキャラも いるという・・・まさにサバイバル!!(笑) 葉とか絶対に書くの忘れてそうだし(←ひどい・笑) いったい悟空は誰を選ぶのか!!!? 「おしっ!投票してやろう!!」 というお優しい方は最遊記トップの疾風怒濤の下の★印より 投票に参加してくださいませ!!! ちなみに御華門はすでに焔さまに一票入れました(笑) さぁ、どうぞご参加くださいませ(>_<)/ |
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