― 紫鴛 ―







ああ・・・・話し方が似ているんだ・・・











 悟空は紫鴛に廊下で話し掛けられた時、ふとそう思った。

「どうかしましたか、悟空?」
「え・・・ううん・・・・・・・・ちょっと・・・・・」
 日頃快活な悟空がこんなふうに口篭もるのが珍しいのか紫鴛は少しばかり心配げ
な顔をして悟空をのぞきこんだ。
「気にかかることがあれば言って御覧なさい」
 閉じられた瞳が悟空の視線と同じ高さにおりてきた。


「あ・・・と・・・・・・・・・・・・・・・・似てる、な・・・と思って・・・・・」
 言い難そうにたどたどしく紫鴛へと告げた悟空の顔には悲しみとも嬉しさともつかぬ
微笑が浮かんでいた。
 紫鴛は「誰に?」とは問わない。
 その答えは知り過ぎるほどに知っているから。


 

 悟空は「自分たち」を選んだ瞬間から、有りえたかもしれないもうひとつの「今」を
捨てたのだ。
 その有り得たかも知れない「今」には・・・・・・・・・紫鴛とよく似た存在がいた。




 常に顔には微笑みがあり、深い緑石の瞳には悟空への「慈しみ」を浮かべていた。
「悟空」・・・と呼ぶ声は穏やかで、悟空はその優しいぬくもりに甘えることがとても
好きだった・・・・。



「悟空」
『悟空』


 紫鴛の声と記憶の中の微笑みを浮かべた人の声が重なる。
 悟空はぎゅっとまぶたに力をいれ・・・・・・・・開いた。

「紫鴛」
 そして目の前にいる人物の名を呼んだ。

「オレ・・・・大丈夫だよ」
 そしていつもの笑顔を浮かべてみせる。
「大丈夫・・・・・・オレ、みんなのこと好きだから!」
 だから心配しないで・・・。

「ええ・・・・・・知っていますよ」
「へへ・・・っ♪」
 照れたように頭をかいた悟空に、もう翳りはなかった。


「もうすぐ是音の食事の支度が整いますから、食堂のほうへ行きましょう」
「・・・是音て意外に料理上手いよな?」
「ああいうのを器用貧乏というんですよ」
「それ、ひどい・・・」
 紫鴛の言葉に、自分たちの雑務をこなす是音の姿が浮かんで・・・・。
「・・・でもホントかも」
 思わず吹き出してしまった。




 似ているようでも・・・全然違う。




「紫鴛」
「何ですか?」
「オレ、紫鴛は紫鴛だから好きなんだ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」
 不意打ちに一瞬言葉をなくした紫鴛。
 しかし、その顔にはゆっくりと暖かい微笑がひろがった。














<是音>へ


† 中がき †

長編投票で中盤から票数を伸ばしていた意外な対抗馬(笑)
紫鴛と悟空の話を書いてみたくてやってしまいました。
でもやはり紫鴛×悟空・・にはならないあたりはやはり本命さんが
いるからでしょう・・・誰とは言いませんが(ニヤリ★)

では、続きは<是音>で。




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