【Sene \】










「・・・・・いやぁ、金蝉でもたまには素直になることがあるんですねぇ」
 嫌な沈黙に包まれる中、天蓬が口にしたのは火に油を注ぐような言葉だった。
「だ・・・っ!!」


「良かったーーっ!」

 金蝉が怒りをぶち切らせる前に悟空が叫んで金蝉の腕をぎゅっと掴んだ。
「金蝉、オレのこと・・・嫌いなのかと思った・・・」
 輝くような笑顔で見上げられれば、誰だって嫌な気はしない・・・どころかかなり気分はいい。
 腰のあたりまでしかない悟空の頭をなでてやると、ますます喜んで悟空は金蝉にしがみついてくる。

 いい雰囲気だ・・・・・が。


「話を元に戻しますが」
 それを簡単に許す一同ではない。
「とりあえず、どこに向かえばいいんでしょうね?」
 それぞれアピールしたはいいが、結局目的地は変化していない。
「花果山だ!」
「長安だ」
「国へ戻る」

 天蓬がふぅ〜と息を吐き、八戒はにこにこ笑い、紫鴛は黙ってなりゆきを見守る。
 
「では、仕方ありませんね。悟空、どこに行きたいですか?」
「う〜んと・・・」
 三人にまかせていたらいつまで経っても決まらない、ということで悟空に選ばせることにした。
「全部!」
 悟空はにっこりと宣言した。












「では、道順ですが・・」
 悟空の言葉に一行は全てを巡ることになった。
「ここから一番近い花果山にまず寄る、ということでいいですね?」
「ああ」
「それから、長安の寺院、桃源王国、ぐるっとまわって天竺皇国、ということで」
 異議なし、とばかりに一斉に首が頷く。
 それはかなり怖い光景で、いつも人で賑わうはずのカフェテリアは一行以外に人は居ない。

「なぁなぁ、これ旨いな!」
「そうですか、ありがとうございます」
 八戒は厨房を借りて自ら造ったおやつに舌鼓みを打つ悟空に優しい眼差しを向ける。
「まだたくさんありますから、どんどん食べて下さいね」
「うん!サンキュー、八戒!」
 悟空は言われたとおりにテーブルに所狭しとならべられた品々を片端から制覇していく。
「すげぇ食いっぷりだぜ・・・」
 その食いざまを見ているだけでうんざりしてきた悟浄が呆れた眼差しを注ぐ。
 だが、確かに八戒の料理はうまいのだ。
 それだけは評価できる。
 が、しかし。
「・・・・原材料が不明ていうところがな・・・」
「大丈夫ですよ、僕が悟空の体を壊すようなものを出すわけがないじゃありませんか」
「だが、厨房の外にこんなものが落ちていたぞ・・・」
 是音が目の前にかざしたのは一見、何でもない雑草の切れ端。
「それはもしかするってーと・・・」
 倦簾がその雑草の葉にある微妙な黄色の斑を指差す。
「ニママノイ草だ」
「・・・・・やっぱり」
 その草が入った料理を食べた人間を意のままに操ることができるという世にも恐ろしい草である。
 さすがにそんな危険なものがあちらこちらに生えているはずもなく、滅多に人の手の入らない高山など
 に申し訳程度に存在しているのだが・・・
「あはは、嫌ですね〜。いつか使ってみたいと思って用意していたんですが、それほど長持ちするもの
 ではなかったらしくて枯れてしまったんですよ」
「「・・・・・・」」
 誰に使うつもりだったんだよ・・・とは恐ろしくて聞けない三人である。
「そんなことより」
 いや、そんな簡単にすませていいことなのか?
「何か伝令がきたようですが・・・」
 八戒が空を見上げると、つられて悟浄たちも見上げる。
 三蔵たちはすでにその姿を発見していたらしい。
「俺の国の飛竜だな・・・」
 焔が呟いている。
「確かに腹に天竺皇国の紋章があります」
「・・・ていうかさ、もしかしてここに着陸するつもりか・・・・?」
 悟浄が冷や汗を流す。
 ここは街のど真ん中。
 飛竜などが降り立てばその大きさと翼がおこす風圧で被害は甚大なものになるだろう。
「紫鴛、結界を」
「はい」
 焔の言葉に紫鴛がふわりと両手をあげる。
 すると、一行の周囲から一切の気配が消えた。
「・・・・・・?」
「ほぅ、風の力で周囲に結界を張ったんですね・・・」
 天蓬が感心している。
 そういう間に飛竜は飛行体制から降下体制に変わっている。
 一同の頭上が太陽に遮られ、大きな影に覆われた。
「うわっぷ・・・っ」
 風圧に埃が舞い、椅子が飛んだ。
 ・・・何故か悟空が座るテーブルだけは何の影響もなく、悟空は八戒が見守る中食べ続けている。
 おそらく八戒が何かしているのだろう。
 


「陛下!」
 飛竜の背から誰かが焔に呼びかけた。
「・・・ナタク、か?」
「ご健勝そうで何よりです」
 身軽に地におりたナタク・・・天竺皇国皇太子、は焔の前に膝をついた。
「お前もな、それよりどうした?」
「は、それが・・・」



「あーーーーっ!!」



 焔とナタクのやりとりを見守っていた一同はいきなり発せられた悟空の叫びにぎょっとして
 その発信源を振り向いた。
 そこには・・・フォークを口にくわえたまま、ナタクを指差す悟空。

「・・・いったい何なんだ?」
 三蔵が眉根を寄せる。




「えーと・・・誰だっけ?」




 いきなり叫んだと思えば、はてな、と首をかしげた悟空に一同はずっこけそうになる。
「何だ、それは!」
「ご・・悟空は会ったことがあるんですか?」
「う〜ん・・・・ん?」
 再び首をかしげる。

「・・・ナタク、悟空を知っているのか?」
「い、いえ・・・初めて会いましたが・・・」
 焔に問われ、ナタクも首をかしげる。
 しかし、その内心で・・・何かが引っかかっていた。
 ・・・・初めて会ったはずなのに・・・・・なつかしい?

「・・・・まぁ、いいが。それよりどうしたんだ?」
「そうでした。留守をお預かりした身でありながら恥ずかしいことながら・・・謀反が起こりまして
 ございます」
 焔の目がしかめられる。
「主犯は李塔天。密かに傭兵を集め私軍を構成して都に攻め入っております」
 ナタクは冷静に告げる。
「・・・やはり、早々に処理しておくべきでしたね。ナタク太子にはお気の毒ながら」
 焔の横から紫鴛が口を出す。
「いえ、俺もそうしておくべきだったと思っています。あいつを野放しになど・・・」
「・・・それは俺のミスだな。人望の少なさに油断していたが、一応は前王だったということだろう」
 ふぅと焔は息を吐いた後、紫鴛と是音に告げた。
「ナタクと共に国へ戻れ。俺もすぐに追う」
「わかりました」
「了解」
「陛下は?」
「俺はな・・・・することがある」
 そして焔はちらりと悟空に視線を向けた。


「ふん、一緒に帰りやがれ」
 三蔵が毒づく。
 他国のお家騒動など知ったことではないが焔が居なくなれば清々するのは、三蔵ばかりではない。

「では、陛下」
「まぁ、大将が帰るまでには片付けておいてやるよ」
「お気をつけて、焔」
 それぞれの辞去の言葉に手をあげて焔がこたえると、飛竜は再び空に舞った。




 大きな影は次第に小さくなり、消えた。











ようやく、ナタクを登場させることができました!!(涙)
ついでに李塔天はナタクの父親、て設定です(・・忘れられてると思いますが)
そして、紫鴛と是音、二人ともにさようなら、です。
投票数が同票で下位の場合は、”死なば諸共”原理というわけで(笑)
敗者復活投票があるんで、気になった方は生き返らせてあげて下さい。
・・・他にもさよならした方々も(笑)


  Sene [   Sene ]



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