#]]  別 離











「いったい何が起きているんだ?」
 焔の宮殿を訪ねると、金闕雲宮に出向いていると教えられ・・・こちらにやって来た
 金蝉と悟空だったが。


 天界に人間同士が争い、宮殿を破壊している様子に呆然と足を止めた。
 そして、一際派手に爆音が響いている場所に目を向けると・・・・


「天蓬!?倦簾っ!?」
「おや、金蝉に悟空」
「何の用だ?」
 まるで道端で出会ったかのように気軽に言葉をかえしつつ天蓬と倦簾は近寄る兵士を
 一撃で昏倒させる。
「いったいこれは何事だっ!?」
「見てわかりませんか?反乱だそうですよ♪」
「反乱っ!?」
「ねぇ焔はっ!?焔はどこに居るのっ?」
「悟空・・・・」
 必死に天蓬を見上げる悟空に、天蓬は金蝉に視線をやった。
 それを見つめ返す金蝉の視線は静かだった。
 

 いったい悟空に何が起こったのか天蓬は知らない。
 けれど、今ここに居るのは・・・・天蓬の知っていた”悟空”では無かった。


「天ちゃ・・・っ」
「焔は中です。・・・・反乱軍のトップは焔ですから」
「焔がっ!?・・どうしてっ!??」
「悟空・・・それは本人に会って聞け。・・・先へは行けるのか?」
「・・・・道を作りましょう。少し離れていてください」
 
 天蓬は両手を組み合わせ、力をこめる。
 強い光が収束し・・・・ひしめく兵士たちに向かい放たれた。


「・・・いやぁ、すっきりしましたねぇ♪」
「・・・出来るんなら最初からしてろよな・・・」
 疲れたような倦簾。
 目の前には吹き飛ばされた兵士たちが山になっている。
「命に別状は無い程度に手加減はしましたから♪」


「すまん、礼を言う」
「いえいえ、金蝉にお礼を言われるなんて・・・・心臓が止まるかと思いましたよ」
「・・・・・行くぞ、悟空」
「あ・・・うんっ!」
 金蝉に促されて悟空は走りだす。
「天ちゃんっ倦兄ちゃんっ・・・・ありがとうっ!!」
 後ろを振りかえりながら叫ぶ悟空。
 
「・・・・・何だか寂しいですねぇ。娘をお嫁に出した気分です」
 こちらもにこやかに手を振ってぽつりと呟く。
「・・・・・」
 コメントは避けた倦簾だった。













「金蝉・・っ!」
「ちっ・・」
 日頃の不摂生がたたっているのか・・・走る足がもつれそうになる。
「いいから、走れ!」
「う・・・うんっ!!」
 こんな所で悟空の足をひっぱるわけにはいかない・・・金蝉は自分に渇をいれると
 重くなる足を前へと進めた。
 前を走る悟空の姿。


 後ろを振り返らず。
 前に前に・・・何ものにも囚われず。
 
 それが本来の悟空の姿。


「金蝉っ!!」
「そこの扉をくぐればその先だっ!」
「わかった!」
 


 その先に悟空の自由がある。
 金蝉はそう信じていた。
























「え・・・・・扉・・・」
「見事に真っ二つだな」
 金蝉と悟空の目の前に現れた玉座の扉は斜めにすっぱりと切り取られている。
 かなりの力量と優れた武器がなければこれだけのことは出来ない。

「・・・・焔かな・・・」
 不安そうな悟空の声。
「入ればわかることだ」
「・・・・うん」


 そして、悟空は。
 部屋へ一歩足を踏み入れた。
















「悟空っ!!」

「・・・・っ!?」
 突然の声に悟空はびくりと身を震わせた。


 悲鳴のような声。
 それは悟空が求める唯一の人の声。
 

「ほむ・・・っ」
 ただ、その声を耳にした嬉しさで悟空は焔の姿を一心不乱に探すと玉座の近くに観世音と
 対面するように立っていた。

 その焔の姿へ駆け寄ろうとし・・・・・・・・・・・・悟空は光の塊に包まれた。










「あ・・・・・・あぁ・・・っっ!!」
 悟空が自分の体を抱くようにその場に立ち止まる。










「悟空っ!」
「悟空っ!?」
 焔と金蝉の声が重なる。


 光は悟空を中心に大きくなり、その眩しさに目を開けていられない。

「・・・・・・何が・・・っ!?」
 全く事態を理解できない金蝉は腕で目をかばいながら観世音に目を向ける。
 この場に居るということは多少なりとも何かを知っているはずだ。
 だが、観世音はその甥の視線に気づいているだろうに無視して光の中の悟空を
 注視している。

 観世音はいい意味でも悪い意味でも大概のことは笑ってすませるような性格だ。
 その観世音が真剣な表情で悟空を見つめている。
 
 金蝉は眉間の皺を深くした。



「悟空っっ!!!」
 焔は爆発的な光に一瞬、立ち止まったもののその中心へと駆け寄る。
 そこには、焔がずっと、ただひたすらに焦がれた存在が在る。
 手が届くすぐそこに・・・・・。



 各々がそれぞれの行動をとる中、悟空から発せられた光は焔が触れる直前で
 現れたとき同様、唐突にその威力を減じ、消滅した。

 ・・・・いや、消滅したかに見えた。






 悟空が丸めていた体を弛緩させ、ゆっくりと上を向く。
 





 
 カシャン・・・・・ッ







 金錮が額から落ちて床を打つ。








「悟・・・・・っ!?」
 丁度、悟空の目の前にいた焔が名前を呼ぼうとし、息を呑んだ。

「・・・何が・・・・?・・・・・・・なっ!?」
 何が起こったのかと疑問に思い、声を出した金蝉の方を悟空が顔を傾ける。
 焔と同じく、息を呑む金蝉。

 

 焔と金蝉、二人が見たものは。



 







 大きく開いた金色の瞳。
 
 閉じられた両目の上。
 額でまたたく・・・・・・『第三の眼』だった。












「な・・・・・・」
 何故そんなものが額にある?
 焔の疑問は音になる前に口の中で消えた。
 ・・・・・・・変化を続ける悟空の前で。




 大地色をした髪が床につくほどに伸びる。
 15歳という年齢に似合わぬほど幼かった顔が、丸みを消しほっそりとした輪郭に
 変わり、大人びた顔になる。
 手足はすっきりと伸び、絶妙なバランスをみせる。

 今まで、悟空はとても『男らしい』といえる外見ではなかったが、変化を遂げた今の
 姿はまさに『中性的』。
 性別を感じさせない。
 それゆえに、どこか近寄りがたい神聖ささえ感じられる。
 
 そして、その傍で寄り添っていた白虎も成獣に変化していた。
 聖獣の成長は「時間」ではない。
 「時」である。
 必要なときに大人になる。
 



「あ・・・・・オレ・・・・・」
 悟空が呆然と変化した己の体に触れる。
「な・・なんで髪が・・・・???」
 大地色の髪を1房手にとり、悟空は首を傾げた。
 
 焔も金蝉もその質問に答えてやることは出来ない。
 出来るとすれば・・・。

 観世音に目を向ける。







「新たなる天帝陛下、新たなる御位にお祝い申し上げる」






 状況をただ一人傍観していた観世音が、静かに悟空に歩み寄り目前で膝をついた。

「な・・・っ!?」
 金蝉が目を見開く。
 そして、それ以上に状況を理解してなかったのは、当の本人・・・悟空だった。

「・・・・てんてい?観世音のお姉ちゃん何してるの??」
 目の前に膝をつき、頭をたれる観世音に悟空はとまどいを隠せない。
「悟空、お前は・・・いや、あなたは今よりこの霊霄殿の主となられた」
「え?え?」
 


「悟空、そんなものに応える必要は無いっ!」
 悟空の変化を息を呑んで見ていた焔が悟空へと叫ぶ。
「お前が天帝になる必要などない!」
「焔っ!!」
 今度こそ、焔の元へ・・・と悟空が腕をのばす。




 焔と悟空の距離はわずか2歩。
 手をのばせば触れ合うことの出来る距離。




 悟空と焔の指先が触れる。
 ・・・・触れようとした瞬間。


 二人の指先は不可視の障壁にはじかれた。


「「・・・・・・っ!!」」











「天に仇なす者、上帝に触れることならぬ」







 妙なる韻を踏む涼やかな声。
 凛として反論を許さぬ。

 いつの間に現れたのか・・・・

「・・阿弥陀如来・・・っ・・・・・邪魔をするなっ!!」
 怒りにまかせて放った焔の一刀の衝撃波は如来の穏やかに振られた手の平で
 相殺されてしまった。
「落ち着きなさい、焔太子」
「ふざけるなっ!貴様こそこの障壁を消せっ!!俺と悟空の間は誰にも邪魔はさせんっ!」
 再び、力をこめて刀を振り下ろそうとした焔は、烈風に背後の壁に叩きつけられた。
「・・・・・くっ!」
「焔っ!!」
 悟空が駆け寄るのを如来の腕が止めた。
「悟空・・・・いえ、上帝」
 深く静かな瞳が悟空を見据える。
「貴方が天の玉座に座るのは、この天地の理。第三の眼を開眼された貴方は
 悟っているはずです」
「・・・・・・でもっ」
「貴方はすでに天地の要。貴方のみが真なる天地の神。その意味するところは未だ
 幼き貴方にもおわかりでしょう、上帝」
 如来の言葉に悟空を唇を噛み締める。




「・・・・・悟空が次期天帝?ふざけんなよ」
 金蝉が観世音菩薩に向かって言った。
「ああ、確かにふざけんなよていう感じだな。まぁ、次期じゃなくて、もうすでにあいつは
 ・・・悟空は天帝なんだがな」
「何でそんなことになるっ!?いったい・・・・・悟空は何なんだっ!」
 いったい何が起きているのか。
 自分一人が蚊帳の外に放り出されて寸劇を見る・・・そんな状態に金蝉は
 我慢ならなかった。
 ・・・・それが悟空に会う前の金蝉ならさしたる思いも持たず横目で見て通りすぎて
 いただろうに。
 今まで誰にもなしえなかったこの甥への影響。
 



「・・・・悟空は、大地が生んだ唯一人の精霊。大地の全てを受け継ぐ存在(もの)。
 そして、天を・・・そら(天)を悟(み)るもの。天と地・・・すべてを支えるためにその
 存在はある」
「・・・・・・」
「まぁ、些か予定よりは早くなったがな・・・焔がクソおやじをヤッちまったからな」
「では・・何だ・・・悟空は・・・悟空は・・・こんな天と地に拘束するために・・・それだけに
 あるっていうのかっ!?」
 
 
 変化のない世界。
 漂う倦怠感。
 くだらない上下関係。
 ・・・・全てが膿んでいる、この世界。

 
 そんな世界のために悟空があるだと?







「「ふざけるなっっ!!」」
 空気を奮わせる大音声。
 焔と金蝉の声が重なった。



「悟空、お前はそんなものに拘束されることはない!・・・・・・・・・帰って来い、悟空」
 焔が悟空に右手を差し出す。
「ほむ、ら・・・・」
 その手を呆然と見つめる悟空。

「悟空!お前は何のためにここまで来たんだ!」
「オ、レは・・・・・」
 金蝉の叱咤に悟空は己の頭を抱え・・・・・・・・・力なく落とした。


「悟空っ!!」
 何をしている!?
 諦めるつもりかっ!?
 そんな金蝉の叫びが聞こえる。
 金蝉は自由になることのできぬ自分を悟空に重ねていたのかもしれない。
 




「そなたたちは何もわかってはおらぬ」
 如来のまなざしが金蝉と焔を貫いた。

「なっ・・・!」
「悟空は天地の要と言った意味がわかってはおらぬ」



「天地の要・・・・すなわち、この天地を形づくるそのもの。この天地は悟空のためにあり
 悟空は天地のためにある。どちらが欠けようとこの世界は存在することが出来ぬ」
 
「「・・・・っ!?」」
 如来の言葉であらためて二人は『天帝』の重さを知った。
 だが・・・。

「だったら何故・・・・何故、今までこの世界は存在していたっ!?」
「真なる天帝は悟空一人のみ。したが・・・今までの天帝は皆、悟空が生まれ成長する
 までの『代わり』」
「・・・反吐が出るやり方だがな」
 神にあるまじき台詞をはいたのは観世音菩薩。


「では、また『代わり』を立てればいいだろうっ!」
「無理だ。言っただろう?お前が天帝を滅ぼした瞬間に契約はすでに成されたんだ。
 そうでなければ悟空は変化したりはしない」

 ぎりりっと焔の歯軋りの音が聞こえた。
 悟空を解放するつもりが、更に強い枷をつけることになってしまった。
 どうしようも無い憤りと自分自身への罵倒。
 


「・・・焔」
 今まで沈黙していた悟空が呼んだ。
「オレは・・・大丈夫だよ。天帝になっても・・・・」
「悟空・・・」
「だって・・・オレが天帝になったら、皆・・・金蝉も焔も・・・・もう、つらい思いをしなくて
 いいだろう?世界がある限り・・・ずっと焔と一緒に居られる」
「・・・・」
「だから、自分を責めるなよ・・・焔」
「悟空っ!!」
 

 その強さに惹かれた。
 その笑顔に魅了された。
 その存在に焦がれた。



 

「焔・・・っ!」
 悟空が焔に駆け寄る。
 誰も邪魔するものは居なかった。





 ひるがえる大地色の髪。
 輝く黄金の瞳。
 何も・・・何も変わらない。







「悟空・・・っ」
 ずっと求めていたものが腕の中へ帰ってきた。
 


























 けれど。
 そのぬくもりは長くは無かった。
 












† あとがき †

お待たせしただけあって長いです(笑)
ああ、でもこれで一応、第一部は完了。
ちょっとだけ最後は焔さまに幸せになってもらいました♪
・・・でもすぐに突き落とされる予定だけど(笑←酷い)

では、とりあえず第一部完・・・ということで。
ご拝読ありがとうございました。



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