【1】 使命







 日吉は、よく磨き抜かれた真っ白い美しい廊下をぱたぱたと走っていた。


 普段ならば、『走るな、廊下』と書かれた張り紙のとおり、短い歩幅ながら日吉は
 決して走ることなどなかったのだが、状況が状況で、日吉はそんなことは頭から
 すっかり抜け落ちていた。
 一体、何で呼び出されたのかはわからないが、一刻も早くと日吉は急いていたのだ。

 そんな日吉の目の前に、一際大きく真っ白な扉が立ちふさがった。
 ごくり、と日吉は唾を飲むと、緊張にいつもより高くなった声で入室の許可を求めた。






















 それは日吉が見習から一人前になるために試験の勉強真っ只中に起こった。
 上司から呼び出しがかかって出かけた先には・・・上司ばかりでなく、この世界を
 治める最高位のお方が居て、いったい何事なのかと日吉は緊張に身体を固くした。

「よく来ましたね、日吉」
「は、はいっ」
 滅多にお顔も見ることが出来ない、そのお方からの直々の言葉にどもってしまう。
 それがまた恥ずかしくて・・・顔が火照ってしまうのがわかった。
 ちらり、と横目で見ると上司がそんな自分をおかしいのだろう・・・笑っている。


「単刀直入に言いましょう。お前に任務を与えます」
「・・・・・え?」
 日吉は上司とそのお方の顔を交互に見返す。
 なぜなら、見習試験中は一切の任務から免除されるはずだから、だ。
「これは特例措置です。この任務を無事に終えれば試験を免除することになるでしょう」
「・・・・・はい」
 試験が免除されるのは嬉しい、嬉しいが・・・何だか嫌な予感がした日吉。
 大抵こういう予感は当たるようにできている。

「何、それほど難しいことではありません。ちょっと下に下りて見張ってもらいたい
 人間が居るだけです」
「っっっ!?下にっ!?」
 驚きで、ついまじまじと麗しい顔を眺めてしまった。
 見習の自分が単独で下に下りることは許可されていない。それが・・・どういうわけ
 なのか。どうして『自分』なのか・・・?
 日吉の頭の中はぐるぐる回る。

「疑問に思うのも無理はありません。しかしこれはそなたにしか出来ぬことなのです」
「・・・俺・・じゃない、私が、ですか?」
「そう、そなただけが。日吉」
「・・・・っ!!」
 うわーうわーうわーっ・・・・っ。

 最高位の方に名前で呼ばれるなんて・・・・ああ、もう幸運を使い果たしてしまった
 かもしれない。
「引き受けてもらえますか?」
「はいっ!」
 幸せにのぼせていた日吉は迷うことなく頷いてしまった。
 上司と最高位の方が日吉にわからないようにそっと笑っていたことにも気づかずに。



 こうして、日吉の不運は始まったのだ。








































「うーっさむっ!下って寒いんだなぁ・・・じゃなくて、確かこのあたりだったと思うん
 だけど・・・」
 緑豊かな木々に囲まれた森。
 日吉は、ここに居れば目的の人物に会えると言われて来たのだが・・・・・・。
 
 人影も・・動物の姿さえない。

「・・・もしかして間違えたかな?」
 だが、間違えないように何度も確認してきたはずなのだけど。
 日吉は唯一持たされた『永楽銭』と呼ばれるお金と一緒に腰にさしていた一切れ
 の紙を見る。
 それは普通の人間にとっては何も書かれてないただの『紙』に過ぎないが、日吉たち
 が見るとはっきりした文字が目に入る。
「やっぱり間違えてないよな・・・どうしよう・・・・あ!もしかして・・・」
 日吉はもう一度紙を手に取る。
「あぁっ〜やっぱり!時間が間違ってる・・・もう少し後だ・・・・・」
 まさか最初からしくじるなんて・・・。
 日吉は溜息をついて、地べたにへたりこんでしまった。
「もぅ・・・俺っていっつもこうなんだからな・・・気をつけなきゃって思ってるんだけど・・・」
 なかなか思うようにはいかない。
「よしっ、まぁとにかく場所は違ってないんだから・・・待ってれば来るよな」
 へたりこんでしまった己を奮い立たせて、日吉は拳を握る。
 この仕事が終われば、晴れて見習いから一人前と認められるのだ。
 頑張らなければ!



 がさっごそごそっ!



「・・・っ!!」
「「・・・っ!!」」
 茂みが動き、目をやった日吉は鎧姿の男たちと目があった。

(・・・確か、こんな格好だって言ってたよな・・・だけど人数多い・・・?この中の誰
 だろう??)
 
「あのー・・・」

「何だ、てめーっ!」
「敵兵かっ!?」
 何やら殺気立っている。
「あ、いや・・敵じゃなくて・・・」
 顔をひきつらせつつ何とかわかってもらうと腕をあげた日吉の腰のあたりが男たちの
 目にとまった。
「おいっこいつ見てみろよっ!」
「ぴかぴかの永楽銭持ってやがるぞっ!」
 色めきたつ男たち。

 ・・・・・あ、もしかしてまずい・・・?(汗)

「へへ、坊主。その腰のものを大人しく渡せば命ぐらいは助けてやるぜ」
「そうだ、俺たちが役に立ててやるかやよ」
 上ではまずお目にかかることの出来ない乱暴な連中に日吉は・・・・しかし、鈍かった。
「いや、でも俺・・・これをあげると困るし」
「がたがた言ってんじゃねぇっ!」
「素直に渡せばいいんだよっ!」
 男たちは血に濡れた刀をふりかざす。
 日吉は顔をひきつらせた。

 どうしよう!
 力を使えば何とか逃げられるけど・・・俺が下界で使える力の回数は・・・3回が
 せいぜい。
 これから何が起こるかわからないのに無駄に使うわけにはいかない。
 
「素直に渡せば命は助けてやるよ」
 思案にくれる日吉を怯えていると勘違いした男たちが下卑た笑いで近寄ってくる。
「だ・・・ダメだっ!」
 しっかりと永楽銭を握り締めて抵抗するが、多勢に無勢。
 日吉はあっさりと捕まり、身包みはがされ、木に吊るされた。












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タイトルの割に明るすぎる壁紙(笑)
でも、そうシリアスでは無い話・・・・たぶん、だと思うので
これで大丈夫です・・・たぶん(おいっ)





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