<後編>
皆が大広間に集まっていたころ。 日吉はその部屋に用意された水屋で息をひそめていた。 (はうぅっどうか見つかりませんようにぃっっ!!) そう神仏に祈りながら。 もちろん。 無信心論者の信長にそんな祈りなどきくはずもないのだが・・・。 ******************** 「おお、大分集まったな」 わらわらと集まってきた部下たちに信長は声をかけた。 その信長の姿ときたら、黒いスーツに黒のマント(緋の裏地)である。 まさに現代(?)のドラキュラ。 「はっ、だいたい集まりましてございます」 一益が几帳面に答える。 その一益は・・・・熊の毛皮を被り頭だけを出している。 短い手と膝をつき、真面目に答える姿は妙に笑いを誘う。 「ところで、サルはどうした?」 「そういえば・・」 「見ておりませんね」 横に居た犬千代が参加する。 その犬千代は軽技師の格好をして、ご苦労にも南京玉簾まで手に持っている。 「どこに行きやがった・・」 「何か、あんたの奥さんの侍女に連れてかれたの見たぜ〜」 信長姿の五右衛門が口を挟む。 「帰蝶に?」 「あら、まだ来てないの?籐吉朗さん」 「帰蝶!」 グッドタイミングに現れた濃姫は・・・仮装などしていない、もちろん。 「ちょっと前に送り出してあげたのだけど・・・・どこに行ったのかしら?」 せっかく用意したのに・・・と濃姫の髪の毛がメデューサのように蠢き始める。 ・・・あまりに怖すぎるその光景。 夫であるはずの信長まで顔をひきつらせる。 もちろん、その光景をそっと覗いていた日吉も内心叫ぶ。 (うわぁぁっっ怒ってるぅぅぅぅっっっ!!!!) あたふたあたふた・・。 日吉は慣れない衣装で腕を上下させ、何とか対策に頭を悩ませる。 ガシャーーンッッ!!! そして日吉は石になった。 そう、割った。割ってしまったのだ。 いったいいくらするのか考えるだに恐ろしい茶碗の一つを。 もちろんその盛大な音は外にも響いているに違いない。 「・・・何だ、今の音は?」 「さぁ、水屋のほうからでしたが・・・」 「「「「・・・・・・・。」」」」 (怪しいな・・・) 一同は互いに目配せし、水屋の入り口を固める。 もちろん、ネズミ(サル)一匹逃さぬために。 「・・・・・サル」 そして、信長が声をかけた。 しーーーん・・・・・・。 「おいこらっっ!サルっ!!てめぇっさっさと出て来いっ!!!」 ドガバキィィッッ!! キレた信長の蹴りがきまる。 水屋の板戸が悲しい最後を迎えた。 そして、扉の向こうには半泣きで立ち尽くす日吉の・・・・・姿。 「お・・・お前・・・・っ!?」 「な・・・っ!?」 「それは・・・っ!?」 「おいおい・・・っ!?」 そんな声しか出せない一同。 まるで日吉のその姿は・・・・・・・・・・・・・・ セー○ームーン。 太ももから下、二の腕も剥き出しに、細い手足がのぞき・・・・地毛で頑張って作った お団子は少々長さが足りずにぴぴんっと元気よく跳ねている。 もちろん、スカートはブルーでプリーツが入っている。 胸元には大きなリボン。 これで『○に代わってお仕置きよ★』・・なんて言われたひには、反対にお仕置きして やりたくなること請け合いである。 「ほほほほっ、改心の出来でしてよv」 濃姫はただ一人、満足げだった。 呆然とした殿以下、男たちの視線は日吉の足元から上にながれ・・・再び下にもどる。 「な・・な・・・ど、どこ見てんですかっ!!!」 ぎゅっぎゅっと前かがみになり、必死に顔を真っ赤にしてスカートを引っ張る日吉。 後ろががら空きである。 ・・・・かなり凶悪な眺めだ・・・あらゆる意味で。 その姿に、退場者続出。 犬千代も顔を上にあげ、首筋を叩きながら厠へ駆け込んだ。 「この勝負、籐吉朗さんの勝ちですわよね?」 濃姫は未だに呆然と眺めるだけの夫君ににこりと笑い、 「とうわけで、賭けの賞品は私がいただきますわね♪」 と爆弾発言をかました。 「・・・・・・・・・は?」 「だって、籐吉朗さんが勝負に勝ったのは私の侍女が優秀なゆえ。ひいては命じた 私の手柄でございましょう?」 ふふふ・・・と笑う濃姫に誰が逆らうことができるだろう(・・いや、できはしない/反語) 「ですから、籐吉朗さんは私がいただいていきますね♪」 「・・・はぁっ!?」 「えぇっ!?な、何で俺が賞品なんですかっ!?」 「だって・・・」 「「「『だって』・・???」」」 「色々、楽しめるでしょう・・・色々」 その『色々』とはいったい・・・・・・? 「色々ってなんですかぁっ!!!いやぁぁっ!!誰か助けて下さいいぃぃっっ!!!」 泣き喚く日吉の肩を信長がぽんと叩いた。 日吉は『ああ、やはり信長さまっ!助けてくれるんですねっ!!』と希望を抱く。 「・・・・頑張ってこい」 すぐに打ち砕かれたが。 「うわぁぁっっっっっ!!ひどいですぅぅぅっっっっ!!!!」 じたばたする日吉の姿は非常に目の保・・いやいや、目の毒で、濃姫の気がすんだら 自分の元に呼ぶか・・・なんて考える信長さま。 ・・・・似たモノ夫婦なのかもしれない。 「五右衛門も見てないで助けてよぉぉぉぉっっ!!!」 「俺は姫さんを敵にするほど馬鹿じゃないんでな。ま、きばれよ、日吉♪」 「馬鹿ぁぁぁっっっっ!!!!」 ずるずると女華に引かれつつ広間を後にする日吉。 そんな日吉の哀れな姿を見ながら一同は誓ったという。 『女だけは敵に回さない』 賢明である。 |
<前編>
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++ あとがき ++
ちょっと間が置いてしまいましたが無事(?)後編終了!
最後まで日吉にどんな変装をさせるか悩み・・
突然浮かんだのが、セー○ームーン・・・
御華門の頭っていったい・・・(+_+)