<後編>




 皆が大広間に集まっていたころ。
 日吉はその部屋に用意された水屋で息をひそめていた。

(はうぅっどうか見つかりませんようにぃっっ!!)
 そう神仏に祈りながら。
 もちろん。
 無信心論者の信長にそんな祈りなどきくはずもないのだが・・・。





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「おお、大分集まったな」
 わらわらと集まってきた部下たちに信長は声をかけた。
 その信長の姿ときたら、黒いスーツに黒のマント(緋の裏地)である。
 まさに現代(?)のドラキュラ。
「はっ、だいたい集まりましてございます」
 一益が几帳面に答える。
 その一益は・・・・熊の毛皮を被り頭だけを出している。
 短い手と膝をつき、真面目に答える姿は妙に笑いを誘う。
「ところで、サルはどうした?」
「そういえば・・」
「見ておりませんね」
 横に居た犬千代が参加する。
 その犬千代は軽技師の格好をして、ご苦労にも南京玉簾まで手に持っている。
「どこに行きやがった・・」
「何か、あんたの奥さんの侍女に連れてかれたの見たぜ〜」
 信長姿の五右衛門が口を挟む。
「帰蝶に?」

「あら、まだ来てないの?籐吉朗さん」
「帰蝶!」
 グッドタイミングに現れた濃姫は・・・仮装などしていない、もちろん。
「ちょっと前に送り出してあげたのだけど・・・・どこに行ったのかしら?」
 せっかく用意したのに・・・と濃姫の髪の毛がメデューサのように蠢き始める。
 ・・・あまりに怖すぎるその光景。
 夫であるはずの信長まで顔をひきつらせる。

 もちろん、その光景をそっと覗いていた日吉も内心叫ぶ。

(うわぁぁっっ怒ってるぅぅぅぅっっっ!!!!)
 あたふたあたふた・・。
 日吉は慣れない衣装で腕を上下させ、何とか対策に頭を悩ませる。



 ガシャーーンッッ!!!



 そして日吉は石になった。
 
 そう、割った。割ってしまったのだ。
 いったいいくらするのか考えるだに恐ろしい茶碗の一つを。
 もちろんその盛大な音は外にも響いているに違いない。


「・・・何だ、今の音は?」
「さぁ、水屋のほうからでしたが・・・」

「「「「・・・・・・・。」」」」
 (怪しいな・・・)

 一同は互いに目配せし、水屋の入り口を固める。
 もちろん、ネズミ(サル)一匹逃さぬために。



「・・・・・サル」
 そして、信長が声をかけた。

 しーーーん・・・・・・。


「おいこらっっ!サルっ!!てめぇっさっさと出て来いっ!!!」
 ドガバキィィッッ!!
 キレた信長の蹴りがきまる。
 水屋の板戸が悲しい最後を迎えた。


 そして、扉の向こうには半泣きで立ち尽くす日吉の・・・・・姿。

「お・・・お前・・・・っ!?」
「な・・・っ!?」
「それは・・・っ!?」
「おいおい・・・っ!?」
 そんな声しか出せない一同。
 まるで日吉のその姿は・・・・・・・・・・・・・・





















 

 セー○ームーン。













 太ももから下、二の腕も剥き出しに、細い手足がのぞき・・・・地毛で頑張って作った
 お団子は少々長さが足りずにぴぴんっと元気よく跳ねている。
 もちろん、スカートはブルーでプリーツが入っている。
 胸元には大きなリボン。
 
 これで『○に代わってお仕置きよ★』・・なんて言われたひには、反対にお仕置きして
 やりたくなること請け合いである。


「ほほほほっ、改心の出来でしてよv」
 濃姫はただ一人、満足げだった。
 呆然とした殿以下、男たちの視線は日吉の足元から上にながれ・・・再び下にもどる。

「な・・な・・・ど、どこ見てんですかっ!!!」
 ぎゅっぎゅっと前かがみになり、必死に顔を真っ赤にしてスカートを引っ張る日吉。
 後ろががら空きである。
 ・・・・かなり凶悪な眺めだ・・・あらゆる意味で。

 その姿に、退場者続出。
 犬千代も顔を上にあげ、首筋を叩きながら厠へ駆け込んだ。


「この勝負、籐吉朗さんの勝ちですわよね?」
 濃姫は未だに呆然と眺めるだけの夫君ににこりと笑い、
「とうわけで、賭けの賞品は私がいただきますわね♪」
 と爆弾発言をかました。

「・・・・・・・・・は?」
「だって、籐吉朗さんが勝負に勝ったのは私の侍女が優秀なゆえ。ひいては命じた
 私の手柄でございましょう?」
 ふふふ・・・と笑う濃姫に誰が逆らうことができるだろう(・・いや、できはしない/反語)

「ですから、籐吉朗さんは私がいただいていきますね♪」
「・・・はぁっ!?」
「えぇっ!?な、何で俺が賞品なんですかっ!?」
「だって・・・」



「「「『だって』・・???」」」



「色々、楽しめるでしょう・・・色々」
 その『色々』とはいったい・・・・・・?
 
「色々ってなんですかぁっ!!!いやぁぁっ!!誰か助けて下さいいぃぃっっ!!!」
 泣き喚く日吉の肩を信長がぽんと叩いた。
 日吉は『ああ、やはり信長さまっ!助けてくれるんですねっ!!』と希望を抱く。

「・・・・頑張ってこい」
 すぐに打ち砕かれたが。

「うわぁぁっっっっっ!!ひどいですぅぅぅっっっっ!!!!」

 じたばたする日吉の姿は非常に目の保・・いやいや、目の毒で、濃姫の気がすんだら
 自分の元に呼ぶか・・・なんて考える信長さま。
 ・・・・似たモノ夫婦なのかもしれない。

「五右衛門も見てないで助けてよぉぉぉぉっっ!!!」
「俺は姫さんを敵にするほど馬鹿じゃないんでな。ま、きばれよ、日吉♪」

「馬鹿ぁぁぁっっっっ!!!!」


 ずるずると女華に引かれつつ広間を後にする日吉。
 そんな日吉の哀れな姿を見ながら一同は誓ったという。





 『女だけは敵に回さない』




 賢明である。







<前編>

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++ あとがき ++

ちょっと間が置いてしまいましたが無事(?)後編終了!
最後まで日吉にどんな変装をさせるか悩み・・
突然浮かんだのが、セー○ームーン・・・
御華門の頭っていったい・・・(+_+)




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