<前編>
那古野城。 その城内で最も広い部屋に集められた一同は、いったい何事か・・・とざわざわと 不安と心配と・・・一部、楽しみと・・・・に顔色をさまざまに移り変えながら、信長が 現れるのを待っていた。 そこには当然、犬千代も万千代も、勝三郎も一益も・・・そして日吉も居た。 何故か五右衛門さえも居る。 「あの殿、今度はいったい何をやらかすつもりなのやら」 「五右衛門まで呼んで何をなさるつもりなんだろう??」 隣同士に座る五右衛門と日吉が一番後ろに居るのを幸いに耳打ちしあう。 「お前は何も聞いてないのかよ?」 「・・・・うん」 何かとんでも無いことを思いついたことだけは確かなのだが・・・・。 何しろ、昨日・・・「暇だ・・・暇だ・・・」と不機嫌にくされていた信長は今朝になって 昨日の様子が信じられないほどに上機嫌になっていた。 そして、あの・・・悪戯を思いついた子供のような顔・・・・・。 (・・・うう、嫌な予感がする・・) 日吉は一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたいのを膝の上の拳を握りしめて 我慢していた。 「・・・・何だ、厠か?」 「違うっ!」 ・・・・そのため、五右衛門に勘違いされたりしたのだが・・・。 さて、そんなやりとりからしばらくして、信長がいつものラフな姿で現れた。 ・・・とりあえず、安心する一同。 「おう、待たせたな」 そう言って、信長は部屋を見渡す。 日吉は自分の下げている頭のあたりに視線を感じた。 「・・・どうやら、皆集まったようだな」 「はい、どうしても警備等で集まれない者意外は揃いました」 一益が几帳面に受け答えする。 「おしっ」 信長の一声に場に緊張が走った。 「仮装大会をするぞっ!」 「・・・・・マジですか・・・?」 呆れる一同に対してとことん信長は本気だった。 何しろ『一番皆を驚かせた奴には欲しいものを何でもやるっ!!』とまで言ったのだ。 一刻の後、おのおの衣装をあらためて城にあがることを約束させると一同を解散した。 「仮装大会・・・て仮装て・・・仮装て・・・」 日吉は足軽長屋に帰りながらどうしたものかと頭を悩ませる。 相談しようにも五右衛門はさっさと「じゃっ!」と挨拶一つ、どこぞへ姿を消した。 だいたい、普段着る服と仕事着以外に日吉は服など持っていない。 ・・・・仮装しようにも・・・・・・考えられるのは乞食あたりしか・・・・・ (・・・・それもいいかもしれないけど) 信長に受けることは受けるだろうが・・・その前に城にいれてもらえない可能性もある。 「うーん・・・・・・・・ぐぁっ!」 顎に手をあて、考えこんでいた日吉の襟首を誰かが後ろから引いた。 「な・・・何を・・っ・・・て!?」 そこには、笑顔を・・・かなり怖い・・・を浮かべた濃姫の侍女、女華が立っていた。 「姫様がお呼びです」 「え!?いや・・俺、今はちょっと・・・・っ!」 濃姫の呼び出しに良かったことの試しがない。 慌てて逃げ出す日吉。 けれど女華はがっちり日吉を掴んで離さない。 (ひーーーっ!!!) 「仮装大会のことで姫様が協力されたいとのことです、おいでなさい」 「・・・・・え?」 思いがけない救世主の出現に日吉は・・・・一瞬、喜んだ。 ・・・・一瞬だけ。 「あの・・・・協力というのは・・・・」 はっと思い直して、恐る恐る伺う日吉。 ・・・・・女華は笑っていた。 それは、もう楽しげに。 「い〜や〜だ〜〜〜っっ!!!」 何か企んでいるに違いないその様子に日吉は必死で抵抗する。 ・・・・しかし、勝てるわけがないのだ。 この「姫様!命!!」・・・の侍女には。 かくして・・・・・・・・・・ 「よく来ましたね、日吉・・・じゃなくて今は籐吉朗さんでしたね」 「あ、はい・・・」 「ああ、挨拶はいいからさっ、こちらへ♪」 ・・・楽しげだ。 ・・・・ひどく楽しげだった。 だらだらと冷や汗をかきながら、日吉はひきつった笑いを浮かべていた。 ある意味、主君の信長よりも恐ろしい濃姫である。 (あああぁぁぁっっいったい何がぁぁぁっっっ!!!) ・・・・日吉は混乱していた。 そんな日吉を後目に濃姫は手をぽんぽんと鳴らす。 現れる侍女の集団。 (な・・・・何事っ!?) 腰がひける日吉。 「ふふ、ぜひぜひ頑張ってちょうだいね、籐吉朗さんv」 「な・・・・・・・っ」 言葉を紡ぐ間もなく、日吉は侍女集団に攫われた。 そして、信長との約束の一刻がそろそろ経とうとするころ。 次々と門をくぐる異様な風体の者たちが居た。 ・・・・・そう、仮装した男たちである。 ある者は獣の皮を被り。 ある者は農民姿になり。 ある者は忍装束を纏い・・・。 ・・・・・結構、楽しんでいたりするのかもしれない。 「おうおう、皆けっこうやるじゃねぇか」 その様子を楽しげに天守閣から望遠鏡で眺めて悦にいる信長。 その信長がふと手を止めた。 ・・・何かを見つけたらしい。 「・・・スッパめ、いい度胸じゃねぇか・・・」 物騒な笑顔を浮かべた信長は、自分が眺めている望遠鏡に見事に焦点をあわせて いる五右衛門に毒づいた。 その五右衛門は・・・誰もが先に思いつき、誰もが恐ろしさに即却下した仮装を していた。 つまり・・・・・・・・・・・・・「織田信長」の格好を。 「・・・・・それにしてもあいつはどうしたんだ?」 先ほどからずっと探している人物。 それが全く身当たらない。 「・・・逃げやがったか?」 と一瞬思い、すぐに否定する。 あいつが逃げるはずが無い・・・という自信が信長にはあった。 「・・おっ」 そうこうしている間に一刻を鳴らす鐘の音が響はじめた。 「そろそろ行かねぇとな」 信長はマントを翻して天守閣をあとにした。 そのころの日吉。 『完璧ですっ!!』と侍女たちに太鼓判を押してもらい(・・そんなものは欲しくも 無かったのだが・・)盛大に『頑張って下さいねっ!』と(・・『負けたら承知しなわよ!』 の間違いでは無いだろうか・・・)送り出されたものの・・・あまりに恥ずかしすぎて 城の隅でえんえんと悩みこんでいた。 部屋へ行くべきか・・・それとも引き返すか・・・・ まさに究極の選択・・・と言いたいところだが、悩んだところで部屋に行く選択しか 日吉には残されていないのはわかりきっていた。 行かなければ・・・・・信長と濃姫、二人の怒りを受けることになるのだ。 思うだに、恐ろしい事態だった。 (あうぅぅっ〜〜何で俺ばっかぁぁっっ!!!!) 心で号泣する日吉だった。 |
<後編>
*****************************
++ あとがき ++
すみません、分けました(涙)
どうも御華門の頭の切り替えのため場面を変えたくて・・・