【ルック編】

≫1 Immediately









「坊ちゃん・・」
「うん」
 城が歓喜の宴に包まれる中、闇夜に紛れるようにそこから出て行こうとする二つの
 人影があった。
 小さな人影は一瞬立ち止まり、城を振り返ると大きな人影をうながすように踵を返す。
 そのまま二つの影は闇に溶けた。



「・・・・・・・・」
 その二つの人影を独りだけ見送る者が居た。
 だが、彼も又その数瞬後、風と共に姿を消した。





 赤月帝国が崩壊した、太陽暦にして457年。
 トラン共和国歴元年のことである。


































 二人の旅人はハルモニアへ向かい、街道を歩いていた。
 ハルモニアは歴史が深く、それでいて謎に満ちた国である。
 だが、近隣諸国において今なお最強の国力を誇り、歴史にその名を刻んできた。
 そのハルモニアを治めるのは神官長ヒクサクという人物であるが、その人柄について
 詳しく語られることは無い。

「坊ちゃん、お疲れではありませんか?」
「大丈夫だよ」
 旅人・・・ダナとグレミオは荷物というほどのものも無く、トランから野宿をしながら
 ここまでやってきた。
 トランの北、同盟諸国を過ぎ、明日にはハルモニアの領土へ足を踏み入れる。
 
「明日にはハルモニアへ入ることが出来るでしょうから、どこか近くの街で宿を
 とりましょうね」
「うん」
 グレミオもダナもハルモニアへやって来るのは初めてである。
 それがどうしてここまで来たのかと言えば、ダナがそれを強く望んだからだ。
 グレミオの本心としてはあまり印象の良くないハルモニアへは行かせたく無いのだが
 ダナの希望では仕方が無い。
 昔も今もグレミオにとって一番大事なのはダナなのだから。

「グレミオ、ハルモニアはどんな国だろうね?」
「えーと、私もよく知らないんですが豊かで美しいところだとは聞きます、ですけど・・」
「けど?」
 グレミオは言うべきかどうか逡巡する。
「・・・謎に満ちた国でもあり、他民族には厳しい国でもあるという噂です」
「・・・そう」
 グレミオはそれ以上は何も言わなかった。
 本当に知らないのか、果たしてダナには言いたくないのかはわからない。
 ダナにとってハルモニアは歴史に少しばかり出てくる程度の印象しかない。
 本当はどんな国なのか自身の目で確かめるべきだろう。
 そのためにハルモニアへ向かっているのだから。

「あ、坊ちゃん。国境ですよ」
 グレミオがはためく城壁の旗を指し示す。
「とりあえずは宿ですね」
「そうだな」

 グレミオに頷きながら、ダナは右手に妙なうずきを感じた。
 はしばみ色の手袋の下には27の真の紋章の一つであるソウルイーターが隠れている。
 果たしてそれが何を意味しているのか。

 ダナにはまだわからなかった。











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