【ルック編】


7、 Dominater



君は、知っていたのか?
















「ああ、コレも髪の色がいささか歪だ」
 カチ、と音がした。
 ヒクサクが示した二つの円筒の中の水が、ドス黒く染まっていく。

「・・・っ!!」

 円筒の中の、モノが苦しそうにのたうち、すがるようにガラスに手をのばす。
 苦しそうに見開かれた目が・・・緑色の目が、ダナに助けを請うように見つめた、と思った。
 ぐっと、右手を握り締める。
 棍が・・武器さえあれば、迷わずに粉々にしてやったのに。
 戦で、無数の命を奪ってきたダナだったが、目の前のヒクサスの行為には焼け付くような憤りを覚えず
にはいられない。

「完璧なものを作るのは難しい、少しのミスでこうして出来損ないとなる」
「・・・・・・」
「そう思わぬか?」
「・・・ヒクサク、愚かなる支配者」
 くつくつと笑い声が響く。
「愚かなるは人よ。自由を叫びながら、何より拘束されることを欲している」
「・・・・・・・・」
「国を作り、王を作ったのも、貴族を作ったのも、全ては人だ」
 かつんかつん、と足音と共に気配がダナに近づいてくる。
 
「ダナ・マクドール」

 右手の紋章が、ちりちりと熱を持っているように気配に反応している。
 未だ、完全に制御しているとは言い切れないソウルイーターは、円の紋章という同じ真の紋章の一つ
に反応しているのだろう・・・。

「私は、君のことをとても気に入っているのだよ。聡明で、何より美しい」
 目の前に立ったヒクサクは、ダナより幾分か高い。
 その顔は・・・
「私は、美しく完璧なものが好きなのだ・・・・そう、円のように」
 ダナの顎にヒクサスの手がかかり上向かせる。
 生きているものとは思えない、冷たい手の感触に心の奥の闇が刺激される。


(コレは・・・・         同じ、イキモノ・・・)


「フフ・・・ソウルイーターは余程君のことが気に入ったらしい、これほど大人しくしているのを初めて見た。
真の紋章の中でも最も扱いにくく、気難しい・・・真の紋章は不死をもたらすが、媒介があればそれに移す
ことも可能だ・・・だが、ソウルイーターは君の魂と結びついている。外せば、両者ともに徒ではすまぬだ
ろうな。ついに主を定めたか、ソウルイーター・・・似合いの闇の王を見つけたのだな」

「・・・私に、触れるな。ヒクサク」

 顎を掴んでいた手を払い、ダナはヒクサクを睨みつける。
 漆黒の瞳の中に、朱色がよぎった。
 ソウルイーターを発動しようと意識を右手に移すが、いつもは煩いほどに感じる気配が無い。
「無駄だよ、ダナ・マクドール。この部屋は私の結界で囲まれている・・・使えぬことも無いが、結果は
自身にかえることになる。余計な怪我をすることも無かろう」
「・・・ササライに命じて、私をここに留めさせているのはあなたか?」
「私は欲しいものは全て手に入れる・・・求めていた美しい小鳥が自分から我が庭に迷い込んできたのだ。
捕まえぬ手は無かろう?」
「鳥は空を自由に羽ばたくものだ」
「外界と違い、籠の中は嵐もなく、餓えることもなく、飼い主に愛情を注がれる。鳥は空をはばたくだけが
仕事ではない。その声で詠い、耳を楽しませるものよ」
「どうあっても手放さぬ、と?」
「それこそが鳥のためだ」
 余裕の表情でダナを見下ろす。
 自分の絶対的優位を信じて、疑いもしない目。
 だが・・・・





 ドンッ





「!?」
 地が、揺れた。

「ヒクサク様っ!」
 真の紋章の持ち主でなければ開くことの無い扉が、叩きつけるように開け放たれる。
 ササライは誰かに突き飛ばされて、床に転がった。



「よぉ、久しぶりv」


「・・・・エン・・・・・」



















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