【ルカ編】
≫12 Quiet
坊ちゃん=ダナ 2主=ローラント
「ははははっその程度かっ!同盟軍のブタ共がっ!!そんなことではこのルカ=ブライトは倒せ ぬぞっ!!お前たちのなどこの俺の剣の錆にしてやるわっ!!」 戦場に立つルカは鬼神の名にふさわしく、馬上で剣を縦横無尽にふるい、かかる敵を払っていく。 血しぶきと悲鳴があがり、戦意を喪失して逃げ惑う兵たちも少なくはなかった。 しかし、そのルカの傍にダナの姿は無い。 「お前は来ないのか?」 ダナは強い。戦力としてはルカと同等・・いやそれ以上だ。 しかし・・ 「僕はルカの死神だけど、戦力じゃないからね。だいたい戦場に立つのって好きじゃないし」 明るく言うダナにルカはそれ以上何も言わなかった。 冗談のように言った”戦場に立つのは好きじゃない”というダナの言葉は本当のことだろうと ルカにはわかったから・・・。 「まぁほどほどに暴れて帰っておいでよ。またお茶を用意しておいてあげるから」 「・・お前な・・・・」 これから戦場に出ようというのに、まるで子供の喧嘩を見送るようなダナにルカは肩を落とした のだった。 そして、今、ルカはダナが言ったように大暴れしているのだ。 一方のダナは・・・ 「・・・・・どうしてここに居るのかな?」 ルカの天幕に現れた人物に、ダナは心底嫌そうな顔を浮かべていた。 「私は陛下の手助けをするためにハルモニアから派遣された身ですから、ここに居ることは何の 問題も無いと思いますが」 にこにこと笑うのは、ハルモニアの神官将ササライだった。 「手助けっていうなら、とっとと戦場に行ったら?」 「まだ私の出番ではありませんから」 「・・・・・」 この人物に会いたくないからルカにくっついて戦場に来たというのに本末転倒である。 「・・・本気でルカに手を貸すつもりはあるんだ?」 「もちろんですよ。ハイランドは友好国ですからね」 「ハルモニアの神官将は二枚、舌を持っているんだってね。便利なことだ」 「トランの英雄ほどではありませんけれどね」 笑顔で向かいあう二人は傍目には、楽しそうに歓談しているように見える。 だが漂う空気は冷たかった。 「神官将、そろそろ・・・っ」 その空気を打ち破って入ってきた男は、ササライの向かいに座るダナに気がつき目を見開き・・・ 暗い笑みを浮かべた。 「・・・噂には聞いていたが、久しぶりだな」 「お前まで来ていたのか・・・・ユーバー」 ダナが眉をしかめた。 「また会えて嬉しいぞ」 「物好きなことだ。僕は君になんて会えても不吉に感じることはあっても嬉しくも何とも無いよ。 さっさと戦場でもどこへでも行けば?」 「どうやらご機嫌を損ねたようだ」 ユーバーがおどけたようにササライに視線を向け、ササライも苦笑した。 「では、行きますが・・・・軽挙は謹んで下さい」 「僕の行動は僕が決める」 今度の戦いで、同盟軍は全ての力を導入してハイランドに挑んできていた。 標的はルカ=ブライト。その命。 迎え撃つハイランドもルカ自らが兵を率いて、戦場を駆け回っている。 同盟軍の主要な将たちと打ち合い、いずれにも強さで圧倒させてみせたルカだったが、戦は 一人で行うものでは無い。 ルカが暴れまわり、戦場をかき回したぶん、部隊も乱れていた。 周囲を同盟軍に囲まれ、撤退を余儀なくされたルカはユーバーの魔法で危機を脱した後、態勢を 整えて、再び同盟軍へ襲い掛かろうとしていた。 (・・・あいつは前線の報告を聞いただろうか) ルカは森に身をひそめながら、基地でルカの帰りを待っていると言っていたダナのことを思っていた。 同盟軍はルカの予想以上に抵抗してきた。 だが、ルカは自分が負けるとは微塵も思っていなかった。 (ただ・・・帰るのが少し遅くなるかもしれないが・・・) 『ルカ遅いよ。いつまで待たせるつもり?』 基地に帰った自分に、ダナが言うだろうセリフを思い浮かべて、ルカは知らず口元に微笑を浮かべた。 「敵襲だーっ!」 声と共に無数の矢が頭上から落ちてきた。 夜陰にまじって、同盟軍に再度攻撃をしかけようとしていたハイランド軍は予想外の攻撃に浮き足 だち、兵たちは動揺しててんでばらばらに駆け出した。 「静まれっ!落ち着けっ!」 将の言葉もわーわーと煩く鬨の声が響く中では、すぐに紛れて彼等の耳に届くことは無い。 ルカは盾で頭を守りながら、ちっと舌打ちした。 誰かが、同盟軍と通じていたらしい。 四方を囲まれた中で、ルカは馬に鞭を入れる。 どんな状況であろうとルカがすることは同じだ。 目の前に立ちはだかる者は全て切り捨て、道を切り開く。 「ルカ=ブライトっ!!」 「・・貴様、ローラント。裏切り者か」 「うるさいっ!ルカ、終わりだ!お前は完全に囲まれている!」 「ブタの囲みなど、大したものでは無い!貴様を殺して壊してやるわっ!!」 ルカとローラントは互いに打ち合った。 ルカはローラントと打ち合いながら、目の前の相手はここで殺しておかなければならないと強く思う。 合う度に強くなるこの忌々しい相手は早々に葬り去るに限る・・・ 「やぁぁっっっ!!!!」 だが、ローラントの成長はルカが思う以上に早く、気合の入った打ち込みに度重なる戦で磨耗した 剣が折れて、くるくると宙を舞った。 「ぐあぁっ!」 ローラントの武器、トンファーがその隙を逃さずルカに攻撃をかけた。 「ルカっっっ!!覚悟ぉっっ!!」 トンファーが振り下ろされる。 「ルカ様っ!!!!」 危機一髪、ルカを追ってきた精鋭部隊がトンファーをはじきとばした。 「ルカ様っ!ここは我らにおまかせ下さいっ!」 「先に味方の部隊が居るはずですっ!」 ルカは顔に流れ落ちる血をそのままに、馬に鞭をあてた。 今までのルカならば、誰の救援も受け入れはしなかっただろう。 だが、今のルカはどんな手段をもってしてでも、帰らなければならない。 ―――― ダナのもとに。 夜の森、馬を走らせるルカの目の前に草原が広がった。 森を抜けたのだ。 そこでルカは馬から下りた。 身を隠すものが何もない場所で馬に乗っているのは目立つ。矢の標的となってやる気はルカには無い。 そこでルカはがくり、と膝をついた。 ひたすらに戦い続けたルカの体は限界に近づいている。 怪我はさほど、酷く無いが疲労が激しく全身が鉛のようで、間接がぎしぎしとなるようだった。 留まってはならない。 歩き続けなければ。走り続けなければ・・・。 だが、体はいっこうに意志のまま動こうとはしなかった。 そんなルカの目にふと入ってきたものがあった。 夜の闇の中、ほのかな光を放つ何かが、風に揺れている。 手に取ると、木彫りのお守りだった。 いったい誰がこんなものを置いていたのか・・・裏蓋を開けるとほのかな光・・・閉じ込められていた蛍が 自由を得て、夜の闇の中に飛び立った。 「・・・・蛍」 ルカの脳裏に幼い日の記憶が蘇る。 ――― この手で初めて奪った無数の命の記憶・・・ あの日も、蛍が飛んでいた。 瞬間、ルカの胸に鋭い痛みが走った。 「・・・・・・・ぐっ!!」 反射的に胸をおさえたルカの手ぬぬるりとした感触が滑る。 ・・・矢が突き刺さっていた。 そして、足に、腕に・・・・・痛みが突き刺さる。 ルカは木を背に、ずるずると崩れ落ちた。 『ルカっ!』 遠く、自分を呼ぶ声がする。 懐かしくもあり、胸があつくなる・・・耳によい声が・・・ 「ルカっ!このまま死ぬなんて僕は許さないよっ!」 今度こそはっきり聞こえたその声は・・・・・ 「・・・・ダナ」 そう声に出そうとしたが、ごぼりと口から吐き出された血に打ち消される。 ダナの白いハイランドの服が朱に染まった。 (ああ・・・・・・お前には”赤”がよく似合う・・・・) 「こんなときに笑うだなんて・・・ルカ」 「・・・・ダナ」 大量の出血と、神経をやられたのだろうすでに痛みさえ感じない腕をあげ、頬に手を当てた。 「・・・死神も涙を流すらしい」 「ルカっ!」 くっくっと笑おうとして、果たせず咳き込んだ。 (・・・・・死ぬな) 「俺の死神・・・・・時は来た。俺の命を奪うがいい」 「・・・・・出来ないよ」 「ダナ」 「・・・どうして、僕の大切な人は同じセリフばかり言うんだろうね・・・こっちの気持ちなんてお構いなしだ」 言いながらも、ダナは右手にかぶせてある手袋を取り払った。 その下ではソウルイーターが、鮮やかな朱色となって浮かび上がっている。 「ダナ・・・・俺の死神・・・」 ルカは嬉しそうに笑う。 ダナは一切の感情のうせた顔で右手を掲げ、命じた。 「ソウルイーターよ、我が命じるままに、命を奪え。その糧とするがいい」 夜の闇よりも、更に深い真の闇がルカとダナの間に現れる。 空間さえも飲み込むその闇は、だんだんと大きさを増し、ルカを包み込んだ。 「ダナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛していた」 満足げに呟いた男は、目を閉じ・・・・・・・・・・・・・・安らかに眠りについた。 |
+++++++ あとがき ++++++
ひとまず『運命の環』ルカ編の終了です。
最後で間があいてしまってすみません。
最後までルカを殺すか、生かしておくか悩んでました。
心情的に死にものが大嫌いなんですが、ここでルカを殺して
おかないと後々の話の流れで困ることになる。
ここは心を鬼にしてルカを殺すんだっ!!
・・・うー、でも。ルカ殺すと・・・でもでも!!
・・・と悩んでました(笑)
次はルック編。話的時間軸としては1と2の間ぐらいです。
ルカ編より前になるわけですね。
ただ・・・最後のほうはルカ編を追い越すかなと思うので
ルカ編の後においておきました。
では、ルック編にて、またお会いいたしましょうvv