の輪
                      炎の英雄編

  0、Killer −2







 ダナとエンジュはグレミオに出かける用意をしてもらうと夕食までには帰る約束をして町へと飛び出した。
 トランの都であるグレッグミンスターは活気があり、美しい都である。
 ここに住む人間は皆、この都が自慢であり、地方から観光に来る人間もその美しさに賛美を惜しまない。

「こっちがミルイヒ将軍のお屋敷。いつもはなやかな格好をしている方で流行の”さいせんたん”をいってるのだと、僕におしえてくれるの」
「流行の最先端ねぇ・・・」
 エンジュは家のまわりを囲むように植えられた毒々しい模様のバラを見、とてもそうは思えないと頭を振った。
 帝国貴族の趣味はエンジュの理解を超える。
「ところで・・・それはダナの獲物か?」
 家を出るときから気になっていたことをエンジュは尋ねた。
「・・えもの??」
「あー、だから武器かってこと」
 エンジュは小さなダナの体に不釣合いな長い棍を指差した。
「うん、僕の武器」
「何も町中で持って歩かなくてもいいんじゃないのか?ここはそんなに治安が悪そうには見えないが・・・」
「うん、わるくない、けど・・・でもねんにはねんをいれないと。グレミオとかクレオにも言われてるし・・・」
 ダナはぎゅっと棍を握り締める。
「何かあったときエンをこまらせたらダメだから」
「俺は・・」
「エンはお客様だから。何かあったら僕のせきにんだもん」
「・・・・・・・」
 エンジュは呆気にとられた。
 何というか・・・ダナはあまりにしっかりしすぎていた。
「・・・ダナ、お前いったいいくつだ?」
「6さいだよ」

(6歳!?・・・6歳っていやぁ・・俺なんか何も考えずに生きてたような気がするぞ・・・)

「エンは?クレオより年上に見えるけど・・・」
「何歳だと思う?」
 エンジュが悪戯っぽく笑う。
「ん〜・・・28、くらい?」
「はずれ。これでも俺は40になるんだぜ」
 今度はダナが驚きに目を丸くした。
「うそ・・・父上より年上なんだ。ぜんぜんそんなふうに見えないのに・・」
「よく言われる。こればっかりは体質だからな。でも腕には自信があるんだぜ。だてに一人で旅してたわけじゃないからな。だから俺のことは気にしなくていい。自分の身は自分で守れるよ」
「いき倒れてたのに?」
 すかさずダナから突っ込みが入る。綺麗な顔をしてなかなかきつい。
「・・・それを言われるとつらい」
 ダナは噴出した。
「笑うことは無いだろ・・」
「だ・・だって・・・エン・・・っぷぷ・・っ」
 ツボに入ったらしいダナはお腹を抱えて笑い出した。
「ったく・・・ほら、他にも案内してくれよ。笑ってないで」
「うんっ」
 軽く背を押されて、ダナは元気よく頷く。


 その後も、ダナは隠れた名所を実に手際よく、わかりやすい説明をまじえてエンジュを案内した。
 擦れ違う人々は、ダナの姿に足を止め、振り返る者や、邪念を持って近づく者さえも居たが、ダナはそのどれも
そ知らぬ風にかわし、騒動になりそうな種を事前に刈り取っていく。
 容姿にばかりに目がいくが、一日一緒に居ただけで、ダナがどれほどの聡明さを秘めているのか、エンジュはいっそ呆れるほどに思い知ったのだった。


「はぁ、しっかし一日歩き続けっつーのはさすがに・・・・」
「疲れた?」
 悪戯っぽくダナに見上げられて、エンジュはむぅと口を閉じる。
 まるで自分が年寄りだと言われている気分になったのだ・・・・まぁ、確かにダナに比べるまでもなく、見ため以上に年齢だけは年老いているのだが・・・。
「大丈夫、もうすぐ家だから・・・・・・・・・・・あ」
「どうした?」
 見覚えのある角をまがったところで、漏れたダナの声にエンジュは思わず拳に力をこめた。
 だが、それはすぐにほどかれる。



        父上っ!」



 嬉しそうなダナの声によって。




















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坊ちゃんが、うちの坊ちゃんとは思えないほどに
初々しくて、書いてる自分も何だか寒いです(おい/笑)