ダナ=坊ちゃん
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「ぼぼぼぼぼ坊ちゃんっ!!!!!」 玄関では涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたグレミオが出迎えていた。 「いったいどちらにいらっしゃったのですか!?私は心配で心配で・・っ」 そう言ってダナに縋り付いてくる。 普通にしていれば色男の部類に入るだろうに全てが台無しだ。 「ちょっとテッドと散歩に行っていただけだよ。心配かけてごめん」 今までの全てを『ちょっと散歩』で片付けた。 「それよりグレミオ。お腹すいたから、グレミオのご飯が食べたいな」 にっこり笑顔で言えば、もちろんダナ命の従者グレミオはころりと騙される。 「ええ、ええもちろんっすぐにご用意いたしますよっ!」 エプロンを纏う様は、従者というより最早家政婦と言うべきだ。 「テッドには”大好きな”ニンジンをたくさん入れてあげてね」 「わかりました!テッド君、楽しみにしていてね!」 「・・・・う、うん」 こいつ・・・テッドは『いい』笑顔を浮かべるダナを睨みつつ、グレミオにへらりと笑った。 もちろんテッドにとってニンジンは天敵である。 お子様味覚と言う無かれ。嫌いなものは嫌いなのだ。 「ダナ・・・」 「好き嫌いは駄目だよ、テッド」 首絞めてやろうかと思った。 大量の人参で皿がオレンジに染まるという拷問の時間を過ぎ、テッドは屍を晒していた。 「テッド君、どうされたんでしょうねえ・・・」 「心配いらないよ、グレミオ。散歩で張り切っただけだから」 「そうですか」 「うん。今日はもう遅いしテッドもこんなになってるから、今日は泊めるよ」 「はい。わかりました」 マクドール家に客室はたくさんあるが、テッドが泊まる時にはダナの部屋に泊まる。 「行こう、テッド」 「・・・へいへい」 体を引きずるようにテッドはダナに続いた。 「人参そんなに嫌い?」 「・・・・ふざけんな」 ベッドの中に二人で潜り込んで話に興じる。 くすくす笑うダナの頭をテッドはどついてやった。 「いいなあ」 「・・・打ち所が悪かった?」 「違うよ。こうしてテッドと一緒に居られること」 「・・・っ」 不意打ちのように言われ、テッドは絶句し・・・顔を真っ赤にした。 「テッド、顔赤いよ」 「そこは見て見ぬふりをしろっ!」 ますますダナはおかしそうに笑い転げる。 そうしている様は本当に年相応だ。 テッドはダナが成人したら姿を消すつもりだった。年を取らないテッドは成長するダナについていけない。 いずれは紋章のことがバレる。そうでなくても勘のよいダナのことだ。わかっていて知らないふりをしているという可能性もある。深く追求されれば嘘を突き通す自信は無い。 だがそんなテッドの決意も呆気なく打ち砕かれた。無茶苦茶に粉々に。 赤月帝国を滅ぼして、自分も真の紋章を宿して・・・。 「どうしたの?」 「これからお前どうするんだ?」 「明日の予定はもう決まってるよ」 にっこり笑った笑顔は明らかに何かを企んでいる時の笑顔だ。 テッドが聞いた『これから』の意味をわかっていながら答えないのは・・・ 「・・・ま、いいけどな」 テッドが生きていた目的は、いつの間にか知らない間に果たされていた。 なら、当分はこいつの思惑に乗ってやっても良い。時間だけは幾らでもあるのだから。 朝食をとった二人は再び『散歩』という名目でグレミオに弁当を持たされて送り出された。 本当に従者ではなく家政婦だろ。 「・・・で、どこに行くつもりなんだ?」 「ちょっと鄙びた辺境の村まで」 「何しに?」 「厄介な爺を脅しに」 「おい」 不穏な言葉につい突っ込みが入る。 「僕、基本的に年長者は敬っているんだけれど・・何、その疑わしい目、いいけど・・・どうしても始末しとかないと後々厄介なことになる元気な爺が居てね。懲りないんだよねえ・・」 「・・・・・・・」 いった何を仕出かしたのか、それとも仕出かすのか。 ダナにここまで言われる相手というのも珍しい。 「でもお前嫌いじゃないんだな」 「へ?」 「その爺のこと」 「・・・うーん、好きでは無いけれど嫌いでも無いかな。頭良い癖に馬鹿だし」 「・・・・そうか」 本当にダナが嫌いだ、邪魔だと思った相手ならば脅すなんて面倒な手はとらない。 用意周到に準備して、一切気取られることもなく抹殺するだろう。 (・・・こいつも厄介な性格してるよな〜・・) 「というわけで、歩いていくと面倒なので飛びまーす」 「・・・はーい」 いい加減この突然さにも慣れてきたテッドだった。 そこは本当に寂れた村だった。 廃墟と言っても良い。 こんなところに本当に誰かが住んでいるのだろうか。 ダナは村の入口を潜り、迷う様子も無く真っ直ぐに村の奥へ進んでいく。 「このようなところに子供が何の用だ?」 畑に入ろうとしたところで年配の漢から声が掛かった。 「こんにちは、レオン」 ダナは容赦なく畑に足を踏み入れる。 「・・・貴様は誰だ?」 「誰でしょう?」 「・・・・・」 レオンと呼ばれた男が不機嫌そうに顔を歪める。 自分の子供ほどの年齢の相手に馬鹿にされたように言われれば普通の人間は不機嫌になる。 だがそこで怒り出さないところが普通では無い証か。 「隠居のつもりなら、そのまま大人しく隠居していることを勧める。間違っても表に出てくるな」 背後に居るテッドにはダナの表情はわからないが・・・・きっと笑っているのだろう。 「貴様がどこの子供か知らぬが、弁えろ」 「目的のために手段を選ばぬ者。お前の行動は余計な騒動を巻き起こすだけ。弁えろ」 「・・・・・・・・・」 「とは言ってもお前は聞き入れはしないだろう。だからこれを渡しておく」 ダナは懐から手紙を取り出し、相手に渡した。 レオンはそれを受け取りながらそっと裏返し・・・・・何故か顔色を真っ青に変えた。それは驚くほどの変化でいったいそこに何を見たのか非常に気になるところだ。 「こ、れは・・・」 「きちんと読まないと、三行半」 「・・・っ!?」 「と言ってたよ」 にっこり笑っているダナはさぞかし禍々しいいことだろう。 「それじゃあ」 「待て、貴様はいったい・・」 去ろうとした背中をくるりと返した。 「知っていることを何度も聞くな。レオン・シルバーバーグ」 「・・・・・・」 名を呼ばれた男は押し黙り、手紙に視線を落とす。 「トランで起こっていることはすでに耳に入っているだろう。同盟の動き、その遥か先に起こるだろう事も。もう一度言う。手出しは無用。心得ておけ」 「・・・・・・御意」 膝をついた相手は、ダナに向かって頭を垂れた。 「ところで何渡したんだ?」 「奥さんからの手紙」 「・・・・・・」 |
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レオン。ここは登場させておかないと!