ダナ=坊ちゃん

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      というわけで、竜の肝です

「は?」
「・・・・はっ!?」
「はぁぁっ??」
 順番に、ヨシュア、ミリア、フッチである。
 ・・・そろそろ同行メンバーは慣れてきて『またか・・・』という空気を醸し出している。
 人の意表を突くことでダナに追随する者は無い。

「・・・待ってくれ、確か貴方は、竜の肝は用意が出来ないと・・」
「言いましたね。『僕にも用意できない』と。僕はご覧の通りただの人ですから・・・」
「どこが・・・っ」
 突っ込みを入れようとしたテッドは足を強かに踏まれて口を閉じた。
「竜に知り合いが居るわけでもありません。でも伝手は色々持っていますから、少々知り合いに無理を言って頼み込んだら二つ返事で快く分けてくれたんですよ」
 どんな無理を押し通したのか、その『知り合い』が気の毒になってくる。
「「「・・・・・・・。・・・・・・」」」
 笑顔で言うダナ。竜の肝を手に入れることが出来るような知り合いとはどんな相手だろうか。
 恐らく皆そこが気にかかるのだろうが、返ってくる返事が心臓に悪そうなことも確実で誰もが口を噤んでいる。
「少々金額は嵩みましたが・・・出世払いで構いません」
「なっ・・金を取るのかよっ!」
 ダナの言葉に一番に反応したのは、フッチという少年だった。
「フッチ。無償で与えられるものほど高いものは無いのだよ。対価が必要だと言ったほうが、安心するでしょう?」
 ダナの言葉の意味がよくわからなかったフッチは首を傾げているがその背後に居たミリアは難しい表情を崩さず、ヨシュアは苦笑を浮かべていた。
「・・・マクドール殿の心遣いに感謝する。どれほどかかろうとその対価、我ら竜洞騎士団が責任を持って贖う」
「団長!」
「フッチ。竜の力が他者にどれほどの脅威がわかるか?我らに他者につけこまれるような『借り』は不要なのだ。しかし、貴方には『借り』が出来た。どれほどの対価を用意しても返しきれないほどの・・・」
 ヨシュアは微笑んでいるダナに近寄ると、膝を付き、頭を下げた。
 ミリアとフッチが息を呑む。
「我らが友である竜をお救いいただいたこと何にも代えがたく、その恩に報いるべく我が忠誠を貴方に捧げることをお許しいただきたい」

「いらない」

「っ!?」
 あっさり切り捨てたダナに怒気と困惑の気配が満ちる。
 竜洞騎士の忠誠など願って得られるものでは無い。それなのに。
「僕は何かの『主』になる気は無い。君が身を捧げるべきはこの竜洞騎士団。それ以外何者も無い」
 すっと膝を折ったダナはヨシュアの耳元で何事か囁いた。
 ヨシュアはそれを聞いて弾かれたように顔を上げ、その顔をまじまじと見つめた。
「うん。それじゃ竜の肝はリュウカン先生に渡しておくから、一刻も早く竜たちが回復することを祈っているよ。リュウカン先生、お願いします」
「うむ、任せていただこう」
「それじゃ、戻ろうか」
 テッドたちをダナは促し、竜洞を出て行こうとする。
「・・・ダナ様っ!!」
 ヨシュアの声にダナは足を止め振り返る。
 ヨシュアは深々と頭を下げていた。
「必ずや、竜洞を復活させます」
 ダナは小さく満足そうに頷いた。
「おいっ」
 今度はフッチという少年だった。
「お前・・・どうして竜を助けたんだ?」
「どうしてだと思う?」
「・・・・竜が好き、なのか?」
 いったいどこをどうやった出てくる解答なのか・・・しかしダナは楽しそうに笑んだ。
「そう。僕は竜が好きなんだよ」
「そ、そうかっやっぱりな!いいぜっ今度来たら竜に乗せてやるよ。お前は特別だ!」
「ふふ、それは楽しみだね」
 そう言ったダナの表情は背後に居るテッドたちには見えなかったが、赤く染まったフッチの顔を見れば想像できるというものだ。
 (これでまた一人信者を増やしたな・・・)
 胸中そう思っていたテッドは振り返ったダナの『いい』笑顔に固まった。












 そして一行はルックの紋章によりグレッグミンスターに漸く戻ってきた。
「・・・・僕は帰るよ」
「お疲れ様、ルック。また呼ぶね」
「・・・・っ」
 何か言おうと口を開きかけたルックだったが、諦めたように無言で背を向けた。
 きっと彼もダナには何を言っても無駄ということを理解したのだろう・・・ご愁傷様。
「テッドは僕と一緒に来るとして、シーナはどうする?」
「そうだな〜せっかくグレッグミンスターまで来たことだし・・・可愛い子探して来る!」
「うん、身包み剥がされないように気をつけて」
「どんな忠告だよっ!こう見えても俺が声かければ3人に1人は・・・」
 自慢げにシーナが言うのに、ダナは首を傾げる。
「・・・・女の子って声を掛けるもの?」
「へ?」
「僕は女の子から声を掛けて貰ったことしか無いけど」
「「・・・・・、・・・・・」」
 ダナは己の容姿を十分に理解してその影響を知っている・・・それを本人が特別何の感慨も抱いていなくても。
「くそっ・・・これだから顔のいい奴はっ!!見てろよっ!そのうち俺のほうがいい男になってやるからなっ!」
 捨て台詞を吐いてシーナは出陣した。
「シーナって知恵はまわるけど、馬鹿なんだよね。『そのうち』て、今は適わないって認めてることになるけど」
「・・・・言ってやれば良かったんだ。お前に声を掛けてくるのは女ばかりじゃなくて、おと・・・」
「何、テッド?」
「・・・・・・・・・ナンデモゴザイマセン」
 命だいじに・・・どこかで聞いたフレーズを心の中で唱えた。

















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竜洞終了!
そろそろあの人も登場させるか・・・ふふ