ダナ=坊ちゃん

<20>








 ルックの魔法で一瞬で竜洞に戻ってきた一同は入り口付近を、行ったりきたりとぐるぐるしていたフッチに出迎えられた。

「あっお前ら!」
 フッチのなつかしい年相応な言葉遣いにダナは微笑ましくなる。再会した時にはすっかり敬語になっていて寂しく思ったものだ。
「ただいま。団長はどこに居るのかな?」
「だ、団長は奥だっ!俺はお前らが逃げ出さないか見張ってたんだ!」
 だから一緒に行くのだと主張したいのだろうが、ダナの笑顔を受けて顔を真っ赤にしておろおろしているようでは迫力は欠片も無い。
「そう。・・・・それは良かった。不幸中の幸いだったね」
「ダナ?」
「うん。テッドとルックは大丈夫。でもシーナとフッチはここに居たほうが良いだろうね。リュウカン先生を守っていてくれる?」
「敵か?」
「最悪のね」
 テッドの問いにダナは至極嫌そうに答えた。
「出来ればテッドもここで待っていて欲しいけど」
「ふざけんなよ」
「・・・そう言うだろうから」
 油断せずに、いざとなったら紋章を使うことを躊躇うなと告げられ驚いた。
 これまで常識外れな『最強』ぷりを目にしてきたダナがこれほど警戒する相手は誰なんだ。
「おいっ勝手に!団長に何かあるなら俺だって・・っ」
「フッチ。勇気と無謀を計り間違えてはいけないよ。君はまだ竜騎士としても一人前とは認められていない」
「なっ・・・」
 怒りでフッチの顔が紅潮する。見た目ではそう年も変わらないダナに言われて尚更に。
「お前だってただの貴族の坊ちゃんのくせに!」
「そうだね。でも少なくともフッチよりは出きることは多いよ」
「っ!!」
 強行突破して竜洞の中に突入しようとしてフッチを、ダナは強制的に眠らせた。
「はい。じゃぁ、シーナよろしく」
 意識を失ったフッチを抱えてシーナに手渡す。
「子守かよ」
「嫌なら一緒に来る?」
 命の保証はしないけど、と笑顔で告げられてシーナは謹んでフッチを受け取った。
「ルックはどうする?」
「・・・行くよ」
「珍しい。ここに残ってくれてもいいんだよ」
「僕は『子守』をする気は無い」
「おいおいっ何気に俺もその中に入ってないか!?」
「まぁ、シーナも子供と言えば子供だし」
「へーへーっどうせっお前らに比べたらお子様ですよぉー!お子様同士仲良くやってるさっ!」
 それでもシーナは己が子供だといわれたことに必要以上には反発していない。
 ぴらぴらと手を振ってさっさと行け、と三人を追い払った。








「ダナ」
「何?」
 何故か一人の竜騎士に出会うこともなく、静かな回廊を奥へと歩きながらテッドが声を掛ける。
「一人で勝手をするなよ」
「どういうこと?」
「わかってるくせに聞くな。・・・俺を庇うな。一人で抱え込むな。そんなことしたら絶交だ」
「・・・・・・」
 ダナは一瞬沈黙した後、くすりと笑った。
「もう・・・本当、敵わないなぁ」
「ダナ」
 誤魔化されないと、テッドはダナを睨む。
「絶交なんて言われたら、約束するしか無いでしょう?        でもテッドも約束して欲しい。まず自分を第一に考えること。・・・ルックもね。自分を守ること。それを最優先して欲しい。それが出来ないなら、僕は絶交されても二人をここに置いていく」
 さぁどうする?と決断を迫るダナの脇をルックが歩いていく。
「馬鹿じゃないの。何で僕が君たちのことを考えないといけないの?言われなくても自分を優先するよ」
「うん。ルックは素直じゃない上に、優しいから」
「はっ!?」
「確かに。ここまで付き合ってる時点で相当なお人好しではあるよな」
「っ・・・うるさいよっ!」
 風の攻撃がテッドを直撃する。
「っぶねぇなっ!」
「バカじゃないの」
 その光景はいつかあった風景に似て、ダナの口元に微笑を刻んだ。
「いいコンビだね」

「     するな!
 一緒に
     しないでよ! 」


 異口同音に言い合い、にらみ合う。
 いいコンビだ。



「なるほど。紋章の気配がやけに強いと思ったら・・・姫が居るのならば仕方ない」



 気配も何も無く、響いた声にルックもテッドも同時に振り向いた。
 そこに居たのはフードを深く被った正体不明の小柄な人物。着ているのはハルモニアの神官服だ。

「『初めまして』と挨拶しておこうかな」
「親しくする気は欠片も無いから必要無い」
 返すダナの声も突き刺すような鋭さを持っていた。
 普通の相手ならばそれだけで心臓を痛くする声だったが、相手はくすりと笑い声さえ漏らす。
「何とつれない。姫にご挨拶をと遠い地より馳せ参じたと言うのに」
「頼んでいない」
「ふふふ、ああ・・・漸く巡り会えた。長い永い時の中で           ずっと捜していた
「ダナっ!」
 ダナとの間に居るルックやテッドに構うことなく近づいていく相手にテッドは遮るように身を投げ出した。
「私と姫との逢瀬を邪魔するな」
「テッド!」
 腕を引かれて出来た空間に鋭い亀裂が走った。
 この頑丈な洞穴にどんな攻撃を加えればそうなるのか、武器は無い。ならば紋章の力なのだろうが・・・
「油断しないで、テッド」
「お、おう」
 体性をたてなおしたテッドは、油断なく相手を睨みつける。
 その相手は、すっと腕をあげ・・・ルックからの風の攻撃をいとも容易く無効とした。
「その程度か?」
「・・・っ」
「やはり、出来損ないよな」
 その言葉にルックの顔色がすっと白くなった。
 信じられないものを見たように、相手から距離をとる。
「あんた・・・」

「人であることを止めたお前に、他人をとやかく言う資格など無い」

 距離を詰めたダナは棍を打ち下ろした。
 相手は身を反らしてそれを避けるが、尋常で無い風圧が顔を隠していたフードを飛ばす。

「な・・・っ」

 息を呑んだのは誰だったろうか。












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概ね、予想通りですが