ダナ=坊ちゃん

<17>








 ネクロードを始末した一行は、そろそろ話も纏まっているだろうとアジトへと向かった。
 ビクトールが何か言いたそうにしているが綺麗に無視。
 話かけようとしたものなら、何故かモンスターが襲ってくる始末。
 こいつはモンスターまで手中に治めているのかと誰もビクトールを助けようとはしなかった。
 誰だって巻き込まれるのは嫌だ。

「ただいま〜」

 宿屋に戻ってきたダナたちは、地下から出てきたオデッサたちに迎えられた。
 話が終わったら辛気臭い地下なんかでは無く、宿で待っていてくれるように言っていたのだ。
「お帰りなさい。・・・無事に倒せたようで良かったわ」
「ありがとう」
 オデッサは微笑を浮かべて出迎えてくれたが、周囲の面々は微妙な表情を浮かべている。
 フリックは予想通り渋面だ。こちらの期待を裏切らない。
「ここに居るっていうことは、結論は出たのかな?」
「ええ、そうね」
 それはフリックにとっては受け入れがたく、他の面々には不承不承でも受け入れずにはいられない内容だったのだろう。まぁ、ダナの話が嘘では無いと確認が取れれば決断は一つしか無い。
「赤月帝国で何が起こったかその詳細まではわからないわ。ただ、確かに赤月帝国であったものはすでに存在しない。そうであれば、この解放軍は新たな世界に現われた害虫でしかない」
「オデッサ!」
 オデッサの言葉に、フリックが声をあげる。
 しかしオデッサは僅かに視線を流し、フリックをなだめるように微笑んだ。
「ありがとう、フリック」
 そこでフリックを疎むでもなく、微笑を浮かべることができるところがオデッサの人格の高さだろう。
 ダナなら問答無用で口封じだ。
「でも解放軍は今日をもって事実上解散するわ。それがこの未来ある国にとって最も必要なことよ」
 ダナを真っ直ぐ見つめて言い切ったオデッサに、ダナは心からの微笑を浮かべた。
「聡明にして賢明なる貴女に感謝を。もしここで貴女が否と答えていたならば、私は貴女を殺していた」
「なっ」
 ダナの言葉にフリックが目を剥いた。
「当然でしょうね。私は災いの目にしからならない」
「腐敗した貴族は未だ一掃されてはいないからね。余計な御輿となりうるものは排除するのが一番」
 成人を迎えたばかりの少年が口にする台詞では無い。
 それでも内心を明らかにしないダナにしては、正直に話しているところを見るとオデッサという人物はこれからのこの国に必要な人材なのだろう。
(・・・色々先のことまで考えてそうだからなぁ、こいつ・・・)
 傍観者に徹しているテッドは心の中で溜息をついた。
「ところで、解放軍を解散してその後はどうするの?」
「民の中に混じって、変わって行くこの国のために共に働くわ。ここは私の国だから」
「良かった。それじゃ、マッシュのこと手伝ってくれないかな」
「・・・私はもうシルバーバーグを出た身。兄さんと共に在ることは出来ないわ」
「オデッサさんがそう思っているだけでしょ。シルバーバーグの家系にオデッサさんの名は残っているよ」
「・・・そんな」
「マッシュは僕が認めた唯一人の軍師。状況次第で身元が知れないように消すつもりだったかもしれないけれど、まだ残していたよ。・・・マッシュの兄としての気持ちが、オデッサさんならわかるんじゃない?」
「兄さん・・・」
 オデッサは口元に手を当て、僅かに涙を滲ませた。
「それじゃ、お邪魔しました」
「おいっ」
 余りにあっさりと去っていこうとしたダナに我慢ならなくなったフリックがついに前に出た。
「何?」
「こっちを散々混乱させておいて謝罪の一つも無しか!」
「謝罪?何のために?むしろ、御礼の一つでも貰っておくべきだと僕は思うけど」
「何だとこのガキ・・・っ」
「対等な立場にある相手をガキ扱いしか出来ない未熟者は早々に戦士の村に帰ると良い。周囲の状況を判断出来ないなんてこれからオデッサさんの足手まといでしか無いからね」
 ダナの言葉はきついが正論だ。
 外見はともかくダナに比べてフリックはあまりに考えが幼すぎる。
「ごめんなさい。フリックも本当はわかっているのだ。ただ余りに事が事だから・・・熱い人なの」
「ここまで女性に言わせるなんて男冥利に尽きるね。フリック、オデッサさんを失望させないようにね」
 本当にフリックにはもったいない、としみじみ呟くダナに、フリックは顔を真っ赤にしている。
 果たして照れているのか、怒っているのか。
「これからどこに行くつもりなの?」
「そうだね          竜洞かな」
 赤月帝国にありながらも、半ば独立していると言ってもいい場所。皇帝さえ自由に出入り出来ないという。
「・・・いったいいつまで付き合えばいいのさ」
「取りあえずそれが終わったらグレッグミンスターに戻ろうとは思ってるから、ルックの大好きなお師匠様にもすぐに会えるよ」
「誰が・・・っ」
 天才的に、ダナは基本的に無表情なルックを煽るのが上手い。そして楽しんでいる。
「竜洞って可愛い子居る?」
「ミリアさんっていう美人は居るかな」
 シーナは口笛を吹いた。ついて来る気満々だ。
 そしてテッドに同行を拒否する選択しは端から与えられていない。離れるつもりも無い。
 ダナは未練の欠片もなく、一行を引き連れて踵を返す。

「一つだけ、聞かせて」
 その背中にオデッサの声が投げかけられる。
「何?」


「貴方は何を求めているの?」


 ダナは答えず、儚げな微笑を浮かべた。



















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フリックの扱いの悪さったらない(苦笑)
次は竜洞!キリが良いのでここで。