ダナ=坊ちゃん

<15>








 ユーバーを追い払ったダナとテッドが村人たちの集まっている場所に行くと、殺気立つビクトールと面倒そうに結界を張るルックの姿があった。
「あー、珍しく頑張ってるね」
 戦闘真っ最中という様子をくすくすと笑いながら見物していたダナはすっと手を上げ、雷鳴を呼んだ。
(いったい幾つ紋章つけてんだ・・・?)
 改めて聞いたことは無かったが、ダナはオールマイティに紋章を操る。
 普通ならばそんなことをすれば魔力の付加に体が耐えられなくなるものだが…付き合いの中でテッドはそんな様子のダナを見たことが無い。

 村人との間に落ちた落雷に、さすがにウィンディが退いた。
 睨み付けてくる視線は何故かテッドに向いている・・・ダナが、いつの間にか背後に隠れたからだ。
 お゛い。
「・・・遅いよ」
「ごめんごめん」
 結界を維持しながらルックが小声で文句を言うのを忘れない。

「お前たちは…何者?」

「お前に教える必要は無い。気にしないで、ただの正義の味方だから」
 ダナがテッドの背後に隠れながら隠れる。
 ・・・だから何故隠れる!?
「無礼な!」
「怒るのはこっちのほうだよ。村を滅茶苦茶にされてね」
 村の至るところから火が燃え上がり、煙が立ち上っている。
「全く・・・愚かなことを考える」
 1トーン低くなったダナの声に背筋が寒くなった。その声には紛れも無く殺気が篭っている。
 そのくせ・・・
「な・・・何だっその仮面は!」
 やっとテッドの背後から出てきたと思ったら、どこから調達したのか半顔が隠れる仮面を装着していた。
 本気なのかふざけているのか・・・・テッドは脱力しそうになるのを必死で耐えた。
「ウィンディ。門の紋章の継承者よ。速やかに退くが良い。これ以上この村への災禍は許さぬ」
「・・・何者か知らないけれど偉そうな口を叩くもの・・・っ」
 見るからに子供なダナに言われたとしても大人しく退くような女では無い。
「忠告は一度」
 雷鳴が地響きをさせてウィンディに向かった。
「きゃぁっ!!!」
 立っていた場所が隕石でも落ちたように抉れている。凄まじい破壊力。
 ウィンディの傍に居た不気味な男…これがネクロードだろう…も驚いたように飛びのく。
「求めていた紋章はすでに我が手の中。お前たちの手に渡ることはない。・・・永劫の闇に囚われたくなければさっさと、消えろ」
 ダナの言葉と共にテッドの手にあるソウルイーターの気配が動く。
 二人の敵の前に闇が、口を開く。
「く・・っ」
 ウィンディは悔しそうに睨みつけると、ネクロードを置いて消えた。
「ウ…ウィンディ様っ!?」
 ネクロードも慌ててそれを追いかけるように消え去った。
「おいっ!くそっ!!」
 その消えた場所に駆け寄るのは、ネクロードと対峙していたビクトールだった。
「どこに消えやがった!・・・ダナ!」
「どーどー、落ち着いて。ネクロードは後でゆっくり袋にさせてあげるから。ところでシーナは?」
 そういえば一人足りない。
「あっち」
 ルックが指差した先には村の少女らしい相手に鼻を伸ばしているシーナが居た。
 この状況でナンパに精を出しているとは、ある意味恐れ入る。
「・・・置いて帰ろうか?」
 にっこり笑って同意を求めるダナは恐らく本気だ。

「お兄ちゃんっ!」

 小さなテッドがダナの服の裾を引っ張っている。
「ありがとうっお兄ちゃん!」
「どういたしまして。・・・・素直なテッドって感動する」
「うるせ」
 小さいテッドの向こうに村人も並んでいる。
「テッド」
 テッドの祖父がチビテッドの肩に手を置いた。
「・・・あなた方が何者かはわからんが、この村を救ってくれたことを感謝する」
「それには及びません。僕は僕がしたいことをしたまで。ただ忠告させていただくならば、貴方たちが守っているものを持って早く移動したほうが良い。それがウィンディの望みだからね・・・それはこの場所に縛られているものでは無い。どこに在ろうが同じだから・・・手を」
 ダナは村長の手を促した。そこにテッドに委ねられるはずだったソウルイーターがある。
「何を」
「ソウルイーターよ。巫女王の名において命じる。来るべきその時まで、眠れ」
 ダナの言葉によって、禍々しい色を宿していたソウルイーターの色が薄くなり・・・気配が消える。
「何と・・・」
「これで当分は持つはず。・・・ウィンディが諦めるぐらいにはね。さてとそろそろ行かないと・・・」
 促すダナに振り返ると出てきた場所が発光している。
「シーナ。いい加減にしないと置いていくよ」
「ちょっ・・・ま・・っ」
「ふん」
 さすがに過去に取り残されるのは嫌だったシーナが慌てて走ってくる。
 ルックは我関せずとばかり。ビクトールは何やら消化不良を起こしたような表情を浮かべつつも洞窟に向かって歩き出した。
「お兄ちゃんっ!・・・また会える?」
「そう・・・テッドが会いたいと願ってくれるなら」
「うんっ!お願いする!」
 ダナはチビテッドの頭を撫でると、踵を返した。

「さぁ、僕とテッドは再会できるのかな。どう思う?」
 過去が変わった。村も村人も滅びなかった。
 テッドにソウルイーターは委ねられなかった。
「会うさ」
 だが、テッドは断言した。
「お前がそう願ってくれるなら。ダナ」
 テッドの言葉に僅かに目を瞠ったダナは・・・嬉しそうに破顔した。


「ありがとう。テッド」



 










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二人は出会うと信じてます。