ダナ=坊ちゃん

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 マッシュのところを辞した一行は、ルックに頼んでコウアンに舞い戻っていた。
 突然の移動にもすでに慣れてきた一行である。

「あのー、俺、そろそろお暇を」
「シーナ。せっかくなんだし、実家に挨拶していこうよ。レパントはともかくとして、アイリーンは心配していると思うよ?」
「ぐ」
 父親だけなら無視しても良心が痛まないが、母親は別らしい。
「次はちょっと遠出になるし、今晩は泊めていただくことにしよう」
「・・・・僕は帰りたいんだけど」
 ルックが小声で主張する。
「レックナートは何も言ってきて無いんでしょ?それなら僕と一緒に居たほうが良いんじゃないかな」
「・・・・・」
 そう深く知り合ったわけでもないのに、相手の弱点を違わずダナはついてくる。
「テオ様のほうは大丈夫なのか?」
 テッドがダナに同行するのは最早自明の理、特に行きたいところも無いのでついて歩くしかない。
「大丈夫。五将軍でうまく進めてくれるようにお願いしているから」
「・・・・・・」
 やはりどんな「お願い」の仕方をしたのか非常に気になるところだった。




 レパントの屋敷に顔を出した一行は、大歓迎された。・・・・一人を除いて。
「この放蕩息子めがっ!!!!」
「うわって、痛いって!親父!!」
「ダナ殿。しばし失礼を致しますっ!!・・・今日と言う今日は・・・っ!!」
 ダナに歓迎の言葉を述べるや、その背後にこっそり隠れていた息子を目ざとく見つけたレパントは、男らしく拳を見舞った後、首ねっこを掴んでどこかに消えていった。
「お騒がせいたしまして、本日はお泊りいただけますでしょうか?」
 当主のかわりに卒なく対応する優秀な執事が居るというのは良いことだ。
「まだ落ち着かないなかお邪魔してすみません」
「とんでもございません。レパント様からは『我に仕える以上にお仕えせよ』との指示をいただいておりますれば、どうぞご遠慮なくお寛ぎ下さい」
「うわー、お前ベタ惚れされてんな」
「ははは、テッドも冗談上手いなぁ!レパントさんは恩を忘れない律儀な方なだけだよ。僕はたいしたことしてないのにねぇ、どうぞ気にしないで下さいとお伝え下さい」
 レパントを初代大統領にしようと画策しているダナにとって、レパントが自分を「主」と慕われることは非常によろしくない事態だ。
 執事さんは、それぞれを部屋に案内すると食事に呼びにくると言い、去っていった。
 ルックも諦めてきたのか、文句も言わず自分に与えられた部屋に入っていく。
「ダナ」
「ん?」
「ちょっと来い」
 テッドの招きに従ってダナは大人しくついていく。
「そこ座れ」
「はーい」
 テッドに言われるがまま、ベッドに腰掛ける様子は見た目通りの少年そのものだ。
「お前、どこまでするつもりだ?」
「そう、だね・・・どこまでしようかな。これまでだけでもだいぶ変わったし、でもまだ完全とは言えないし…」
「ダナ」
 誤魔化しは許さないぞ、とテッドが睨みつけると憎たらしいほどに綺麗な笑みを浮かべてみせる。
「ありがとう、テッド」
「・・・誰が礼を言えって言ったよ」
「うん。僕の我侭に振り回してしまってご免。付き合ってくれてありがとう。・・・もし、テッドがこれからしたいことがあるなら・・・」

「ばぁ〜〜〜〜〜〜ぁっかがっ!!」

 テッドの拳が軽くダナに頭に入った。いつもならば避けられるそれをダナは甘受した。
「誰がそんなこと言ってんだよっ!確かに俺はお前に振り回されてるよっ!だけどなっ!本気で嫌だと思ったことに付き合うほどお人好しじゃねぇよっ!!」
 鼻息も荒く言い放ったテッドは、文句あるかっと腕を組んでそっぽを向く。かなり恥ずかしい台詞を吐いたと自覚しているのだろう。
「・・・最後まで、付き合ってくれるの?」
「言っただろ!」
 滴り落ちるような喜び・・・そんな笑顔を浮かべたダナを、残念ながらテッドは見ることが出来なかった。
「ありがとう、テッド」
「・・・おう」
「それじゃ、これからもどんどん我侭言って振り回すね」
「は・・・?」
よろしく、テッド
「・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・(汗)」
 テッドは己が相当な墓穴を掘ったのでは無いかと、今更ながら気が付いた。
 だが、もう発言を無かったことには出来ない。
「・・・・・・・・・で、どうなんだよ」
 にこにこ笑っているダナに、酷い疲労感を覚えながらテッドは誤魔化されないぞと問い直した。
「とりあえず、帝国を共和制に移行して軌道に乗せるところまで。そこからはレパントたちに任せるから」
「お前はどうすんだ?」
「適当に旅に出る」
「いや、適当ってお前・・・」
「世界と、真の紋章について見てまわりたいんだ。テッドも色々な国を見てきたんでしょ?僕によく話してくれたもんね」
「・・・・ちょっと待て、まさかお前・・・俺の話を聞いてそんなことを・・・」
「テッドの話だけってわけじゃないけど、聞いてますますってところかな。帝国しか知らないなんてもったいないでしょ。僕より強い人も居るかもしれないし」
「・・・・・・・・・・・・」
 いや、それは無い・・・と速攻で否定したくなったテッドは無言で口を噤む。
「テオ様が悲しむぜ・・・」
「大丈夫。父上にはソニアさんが居るから」
「・・・ソニアさん?」
 ソニアはテオと同じ帝国五将軍の一人だったが、そこで出てくる理由がわからない。
「ソニアさんは父上のことが好きなんだよ」
「は!?」
「年が離れ過ぎてる気もするけど、父上のようなおじさんでもよければソニアさんにもらって欲しいな」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・そうでうすか」
「うん。そうすれば僕が居なくても寂しく無いだろうし。マクドール家の跡継ぎも出来るかもしれないし」
「おい」
「僕はもうマクドール家を継ぐことは出来ない」
「・・・・・・・。・・・・・・・」
 断言するダナに、それを覆させることは出来ないだろう。そしてテッドも・・ダナは「しない」では無く、「出来ない」と言っているのだ。この秘密主義で何重にも人を欺く術を持つ親友は、まだまだ隠していることがたくさんあるのだろ。それを全て話せなんてテッドは言わない。
 話さなくとも親友にはなれる。
「付き合う」
「え?」
「世間知らずの坊ちゃんなんか、すぐに足元見られて身包み剥がされるのが落ちだ!付き合ってやるよ!」
 仕方ないな、と言わんばかりの態度のテッドに・・・僅かに呆気に取られたダナがくすくすと笑い出す。
「な、何だよっ」
「・・・ううん、ありがとう。テッド」
「お、おう」
「ソウルもよろしく」
「こいつにはよろしくしなくていーんだよっ!!」
 テッドの右手に触れたダナに慌てて取り戻す。
 ソウルイーターが不満そうに蠢いていた。






 翌日、ぐったりしたシーナと変わらず元気そうなレパントが見送りに現れた。
「ダナ殿。こんなどうしようもない愚息でもお役に立つようであればお連れ下さい!」
「ありがとう、レパント。レパントもグレッグミンスターで待ってるから」
「はっ!必ずや、すぐに参ります」
「・・・・・俺の意思って無視・・・・・・?」
「シーナ。ダナ殿のご迷惑にならぬよう粉骨砕身してお仕えせよっ!」
「へーへー」
「シーナっ!!!」
「レパント。僕は仕えて貰えるような人間じゃないよ。シーナには仲間として協力してもらうから」
「・・・・っダナ殿っ!!」
 ダナの言葉に感極まったらしいレパントが目を潤ませている。
 ・・・・・・・本気で大丈夫なのか、未来の大統領がこれで。



「それじゃルルノイエに向けてしゅっぱーつっ!!」



「は!?ちょ・・っ!!??」
「ルルノイエ・・っえぇ!?」
「・・・めんどくさい・・・」


 「ルルノイエ」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・てハイランド王国かっ!?















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坊ちゃんとテッドの会話が少なくて寂しかったので
ちょっと機会を設けてみましたvv