ダナ=坊ちゃん

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 問答無用でシーナをメンバーに加えたダナたち一行はセイカの村の小高い丘の上に建てられた家へと向かった。平均レベル以上の顔ぶれが並んで歩いているさまは、鄙びた村では大層目立つらしく、農作業中の村人までが顔を上げて何事かと見てくる。

「どこに行くの?用事はコレじゃ無かったの?」
 帰りたいモードのルックがシーナを指差した。
「まさか。シーナごときでわざわざこんなところまで来ないよ」
「俺ごときって・・・」
 初対面の相手に遠慮も何も無い。黙って居れば美姫と呼んでも支障の無い容貌をしていながらもその口から出る言葉は辛らつそのものだ。
「どうしても会っておきたい人が居るんだよ。どうしても、ね」
 冗談のように笑いながらも、ダナの瞳には強い決意が浮かんでいた。
「なになに可愛い彼女?それともコレ?」
 懲りずに親指をたてるシーナは、再び攻撃されている。なかなかボロボロにならないのは魔法防御力が優れているのか・・・それが逆に仇になっている気がしてならない。
「失わなくても良かった人。僕の唯一の軍師だった人」
「・・軍師?・・だった?」
 過去形に首を傾げる。
「そう。だから二度と軍師なんてものにはならないように忠告するんだよ」
「そいつの名前は?」
「マッシュ。マッシュ・シルバーバーグ」
「…シルバーバーグ…」
「聞いたことがある?軍師として名高い一族だからね。ほらそこに住んでるはずだよ」
 ダナは小高い丘に建つ家を指し示した。






「こんにちは〜」
 丘の上に続くなだらかな坂を上ると、幼い子供たちが駆け回っていた。
 少しばかり警戒した様子を示すが、自分たちとそう変わらない少年たちの姿に興味を抑えきれないらしい。
 好奇心旺盛な子供がとことこと駆け寄ってきてダナを見上げた。
「おねえちゃん、だぁれ?」
 ぶっと噴出しそうになったテッドは足先に踵落としを喰らった。
「ぐっ」
お兄ちゃんは、マッシュ先生に会いたくて来たんだよ。いらっしゃるかな?」
「せんせいにごよう?」
「そう、お話があるんだよ」
 優しげな微笑は年齢を問わず効果があるらしい。
「ぼくがあんないしてあげるっ!」
 美人にいいところを見せようとするのは、古今東西変わらない悲しい男の習性だ。
「こっちだよ!」
 手をとられるがままにダナは幼い子供に歩幅を合わせてついていく。
「ほら、テッドたちもついておいでよ」

「テリー!」

「あっおねえちゃんだっ!」
 買出しにでも出かけていたのだろうか、ダナたちより2,3歳年上の少女が険しい表情を浮かべていた。
「…貴方たちは?」
「はじめまして、俺。シーナ。可愛い君の名前を教えてもらって良いかな?」
 すかさず名乗り出る軽薄男に少女はあからさまに冷え切った視線を向けた。そして無視する。
「こんにちは、アップル。僕はダナ。マッシュ・シルバーバーグに話があって来ました」
 不審そうな表情を固い表情に変える。
「…先生に話は無いわ」
「聞いてもいないのに?」
「それはっ」
「マッシュにこのまま、ここに居て平和に過ごして欲しい。そう思わない?」
「・・・・っ」
 畳み掛けるダナの言葉に何も言えなくなった少女をテリーと呼ばれた少年が心配そうに見上げる。
「僕ならば、その未来をマッシュに君たちにあげられるよ」
「あなたみたいな子供に何が出来るって言うの」
「ただの子供だなんて思っていないから君は僕を通そうとしないんでしょう?」
 同年代の人間がダナに口で勝てるわけが無い。
「おいおい、女の子を苛めんのもそのあたりにしとけよ」
「うるさいね、シーナ。無視されたくせに」
 シーナは討ち死にした。
「・・どうでも良いけど会うんならさっさと会いなよ」
 しびれを切らしたらしいルックはイライラしながら背を向けている。
「とにかく先生はっ・・・!」

「アップル。話を聞かせていただこう」

 背後から掛かった声にアップルという名の少女が弾かれたように振り返り、ダナは目的の人物の登場に動揺の欠片も無く微笑んだ。






 応接室に通されたダナ一行・・・何故かシーナもルックも一緒に通された。
 アップルもマッシュの後ろに立てり、仇敵を迎えるように睨み付けている。

「まずは、初めまして。僕はダナ。ダナ・マクドールと申します」
 マッシュが僅かにその名に反応し、背後のアップルが『マクドール』と繰り返す。この赤月帝国に生きていて『マクドール』の名を知らぬ者はいない。
「ご想像の通り、僕はテオ・マクドールの息子です。しかしここに来たのは父とは関係無く僕だけの意思であることは申し上げておきます」
「さて、私に貴方のような方が興味をひかれるような何かがあったでしょうか?」
成人して間もない子供相手だというのにマッシュは目上の者に対するような口調で話す。それはダナの明かした身分ゆえか・・・
「貴方の頭脳には大いに興味をひかれます。言葉は悪いですがこんな小さな村のみで活用されるにはもったいない。出来ればこの国の将来のためにもっと多くの子供たち知識を与えて欲しいです・・・が二度と国に利用されたくないという貴方の気持ちもわかるので無理強いはしません」
 つまり本当にダナは会いに来ただけなのだ。
「オデッサ・シルバーバーグ。貴方の妹さんですがご存知ですよね?」
「オデッサは確かに私の妹です」
「現在、絶賛反政府活動の真っ最中です」
 にこやかに言われた内容とのギャップに場が静まった。
「勢力としてはまだまだ小さいですし、反抗するべき政府自体が無くなってしまいましたけど」
「・・・は?」
 さすがにその頭脳を謳われた男をしてもダナの言葉は理解し難かったらしい。
「あ、言うのが遅れましたが赤月帝国は数日前に滅んで、現在は新政権に移行中です」
 今度こそマッシュもアップルも絶句した。
「な・・・何を言ってるの!そんなことがっ帝国が滅びるなんて…っ」
 黙って話を聞いていられなくなったらしい。
「あったんですよ。陛下には退位していただきましたし、幸い後継ぎもいなかったですから。移行は速やかに行われるでしょう。帝政も廃止、共和政となりますから金食い虫だった貴族も居なくなって国庫も潤うでしょうね」
 マッシュはダナの言葉を静かに聞いていた。
「では、誰がこの国を支えるのですか?」
「決まってるではありませんか。この国に生きる人間の義務でしょう、それが」
 お膳立てはする。だが甘えることは許さない。
「・・・厳しい方だ。しかしそれならばせめて導き手が必要でしょう」
「先生っ!こんな子供の言うことを信じるんですかっ!?」
「うーん、こんなことで嘘をついてもね」
 ダナは自分より年上のアップルを聞き分けの無い子供を見るように眺め、可愛らしく首を傾げた。
 もちろん可愛らしいのは外見だけで中身は違う。
       別に僕は信じてもらえなくても構わないし」
「なっ!」
「では、何故わざわざこんな田舎までいらしたのか?」
「貴方は僕が生涯唯一、僕の軍師として認めた人だから。平和に生きて欲しいと思ってね」
「・・・私と貴方が顔を会わせるのはこれが初めてだと記憶しておりますが」
「そうだね。初めまして、て挨拶したし。・・・だからね、気にしなくて良いんだよ。僕のことも、国のことも。何も気にせず、子供たちに囲まれて生涯を全うしてくれたら良い      私が生きている限り、二度とこの国の領内で争いを許しはしない、誰であろうと、どこの国であろうと」
 幼さを拭い去ったダナの様子は自然と頭を垂れさせる覇気に満ちていた。
 その言葉は必ず実行されるだろう、と誰もが信じずにはいられない。











「貴方にお会いしようとするならば、グレッグミンスターに伺えばよろしいですか?」
 辞去しようとする一行を見送りに出てきたマッシュはダナにそう聞いてきた。
「何故?」
「子供たちの未来のために教育を。私ではお役に立てませんか?」
 少し目を瞠ったダナは、花が綻ぶように微笑んだ。
「願っても無いことだよ。まだ色々とあっちこっちしてると思うけれど、家のほうに来てもらえたら僕に伝わるようにしておくよ」
「わかりました」
 マッシュは頷くとすっと膝を落とし、ダナの外套の裾に口づけた。
 騎士が主君に忠誠を誓うように。



 (崇拝者がまた一人追加・・・と)
 テッドは心の中でカウントしていた。














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幻水2で多少挽回しましたが
1の頃はアップルが嫌いだったのです。うん。