ダナ=坊ちゃん

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「テッド、お祝いが欲しいんだけど?」
「はぁ?」
 王との謁見を済ませて戻ってきたダナは待っていたテッドに唐突に切り出した。
「だって今日から僕は一人前として認められたわけでしょ。だから」
「何が『だから』なんだか知らねーけど。そういう風にお前が強請るってのも珍しいな。どっちかというと問答無用で奪いとっていくタイプだろうに」
「あはは、嫌だなぁテッド。人をそんな強盗みたいに」
「・・・強盗より性質が悪ーよ」
「何、テッド」
「・・・・・・。・・・・・」
 テッドは、はぁと溜息をつくと左手をひらひらと振った。
「ほら、何が欲しいんだ。言ってみろよ。言っとくけど金なんて期待・・・」





「ソウルイーター、頂戴」





「!?」
 ダナの言葉に、テッドは雷に打たれたかのように硬直し、言葉を失った。
「その極悪な紋章を自分で強請るのもどうかと思うんだけど、テッドが持っているよりは僕が持っているほうが良いと思うんだよね。きっとそれをソウルイーターも望むと思うし、ね?」
 ダナは未だ言葉の無いテッドに近づき、右手を握ると包帯で覆われたその手の甲に口づけた。
「ば・・・っ!!」
 テッドが反射的に振り払う。
「馬鹿野郎!!」
「確かに。自分でもそう思う。わざわざ災難を背負いこむことなんて無いのにね」
「・・・・お前、何でこれのことを・・・・」
 さすがに人生300年。動揺したものの、何とか押さえ込んで喘ぐように問いただす。
「うーん、説明すると長くなるんだけど。敢て言わせてもらえるなら不可抗力?」
「・・・・・・・王宮で何か言われてきたのか?」
「全然。あのね、僕が他人に言われたからって、その通りに動くとでも?」
「・・・・・・有り得ないな」
 テッドが生きてきた中で考えれば短い付き合いながら、ダナが外見に反比例するように腹黒いことは身に沁みてよくわかっている。本当に。
「うん」
「・・・だったら長くなっても良いから説明しろ」
「説明したらソウルイーターくれる?」
「やらん」
「えー」
 酷いや、期待持たせておいて・・・と呟くダナを思いっきりどついてやりたいが、やれば何十倍にも仕返しが戻ってくるのでテッドは我慢した。
「ま、いいか。信じる信じないは別にして、テッドには説明しておいたほうがいいかな。実は僕ね」
「ああ」
「十年後の世界の『僕』なんだ」
 何故かすがすがしく宣言したダナに、テッドの首は90度傾いた。
「今朝目が覚めたら、中身だけ過去に戻っててさ。すぐに元に戻りそうにも無いし、それならこの過去の時代で僕の思うがままに生きてやろうと決意したんだ」
「・・・お前はいつも思うがままに生きてるだろうが」
 テッドのツッコミをダナは無視した。
「手始めにソウルイーターを飼いならして躾ようと思って」
「だから何故そこで、『手始めに』そんなことになるのか俺にはわからねーよ!」
 普通、避けるべきところだろう。テッドは右手を少しでもダナから遠ざけるように背中に隠す。
「災いをもたらすものだってわかってるんだろ?そんなものをわざわざ欲しがるな」
 ふふ、とダナは微笑んだ。嬉しそうに。
「テッド、僕の戯言を信じるんだ?」
「・・・そうでもなけりゃ、お前の言動の説明がつかない。しかも本気で欲しいと思ってるだろ?」
「うん」
「つまり、お前はこの紋章の力について、知ってるってことだな?」
「そうだね」
「・・・俺はお前の時代に生きてるか?」
「死んでるよ」
「・・・そこはせめてオブラートに包んでおけよ」
 気が抜けたようにテッドは椅子に座り込み、頭を抱えた。
「信じられねー・・・、俺はお前に紋章を渡したのか。それだけ切羽詰った事態になったってことは、奴らが俺のことを嗅ぎつけたんだな。何でよりにもよってお前なんか俺は選んだんだ?」
「酷いこと言うね」
「お前にソウルイーターなんて、悪魔に死神つけるようなもんだろ!」
「テーッド」
 至近距離に、秀麗なダナの顔が迫っていた。美人は三日で飽きるというが、この顔はいつ見ても心臓に悪い。
「最強でしょ。あ、心配しなくてもソウルイーターを貰ったら代わりに覇王の紋章か門の紋章を、ボケ防止につけてあげるから心配しないで」
「余計心配するわ!!」
 テッドの叫び声に、グレミオが何事かと飛び込んできて一時中断とあいなった。









 テッドを誘って町に出たダナは、ミルイヒ邸に無断侵入した上に、洋服ダンスを漁ってアイテムを自分のものにしていた。普通、それを世間では窃盗というのだが、未だどこからも苦情が出たことは無い。

「ねぇ、そろそろくれる気になった?」
 グレッグミンスターが見える丘の上で再びダナはテッドに強請った。
「なるかよ」
「えー、ソウルがあると便利なのに」
「・・・お前にかかるとこいつも便利な道具その1扱いか」
 疲れたようにテッドが呟く。
 ダナの話を全面的に信じた訳では無い。そのぐらい平気で捏造しそうに腹黒い上に頭が良いからだ。しかし、本気でダナはソウルイーターを欲しがっている。
 ダナ自身のためでは無く、恐らくテッドのために。
「・・・不器用な奴」
 目の前で愛用の棍を舞うように振るっているダナは、幻のように美しい。10年前とはリーチが違うから、慣れないとね、と始めたのだが。テッドの目にはまるで遜色なく見える。
 しばらくして気が済んだのか、くるりと棍をまわして体の脇に立てるとテッドを見てにっこり笑った。
 ぎくり、とテッドは硬直した。
「ま、くれないって言うなら約束してくれないと」
「約束?」
「その紋章をくれないなら、代わりにテッドがずっと傍に居て」
「・・・・・・・」
「はい」
 ダナが右手の小指を差し出したので、しぶしぶテッドも小指を差し出した。この年齢で(齢300歳)この行為をするにはかなり羞恥が襲う。
「指きりげんまん。嘘ついたら針千本のーます!・・・もう準備したし」
「おいっ」
「指きった!」
 さー・・・とテッドの顔が蒼白に変わった。ダナはやると言ったらやる奴だ。
「しょうがない。僕は覇王の紋章で我慢するかな・・・」
「だからそれが物騒なんだよ!!」
 前々から坊ちゃん育ちのくせに腹黒で曲者で一筋縄では到底いかないダナだったが、それに更に磨きがかかっていないか。


「坊ちゃ〜んっ!!夕ご飯の用意ができましたよーっ!」


「あ、グレミオだ」
「ああ。…グレミオさんには言ったのか?」
「言ってないよ」
 丘の下から駆けてくるグレミオの姿を見つめるダナの姿に、テッドは溜息をつかずにはいられない。
(何だよ、その懐かしそうな上に泣き出しそうな顔は)
 自分にはそんな表情を見せなかったくせに、と。
「グレミオさんは、生きてるのか?」
「んー、死んだけど生き返った」
「はぁ?」
「話せば話すほど長くなる複雑な事情というものがあるんだよ。おいおい話してあげるけど、まずはテッドにも手伝って貰わないとね」
「…強制参加か」
「嫌なの?」
「…はいはい。喜んで手伝わせていただきます」
「よろしい」
 朗らかに笑うダナに毒気を抜かれて、テッドは苦笑した。
 いずれにしろ、出会った瞬間からダナに勝てた試しは無いのだ。




 昨夜から熱を帯びたように疼くソウルイーターを握り締めた。









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テッドをあまり書いたことが無かったので手探りです。