■ 景王と愉快な仲間たち ■
−拾肆−
息を呑んだ人々の前で、何と氾王は・・・・・ 「場外、ですっ!!!」 不顎が力いっぱいに叫んだ。 「・・・・・・・・・・・・・・」 しばらく、観衆も舞台裏の陽子たちもぽかん、と場外に落ちた・・・というより下りた氾王を見ていた。 「私が怪我をすると姫が悲しむからねぇ」 今さらのことを朗らかに笑いながら氾王はさっさと貴賓席へと戻っていく。 「えー…では、とりあえず奏国代表利広殿の勝利ということで!」 ぱらぱらと拍手が沸き起こる。 客席の反応もかなり鈍い。 利広も苦笑しながら舞台裏に引っ込んだ。 「盛り上がりに欠ける…面白くない!」 戻るなり陽子に言われる。 「いや、でも僕のせい?」 「利広の責任だ。氾王を本気にさせられなかった、な」 「…なるほど」 利広は苦笑した。 「厳しいな、陽、朱嬰は…」 「まぁ、氾王をその気にさせるのは難しそうだが…済んでしまったものは仕方ない。…二回戦は風漢と利広の対戦だな」 楽しみだ、と陽子は目を輝かせる。 「その前にお前も試合があるだろう」 「もちろん。忘れたわけではありません。相手が誰であろうと精一杯に戦います」 陽子はやる気一杯であるらしい。 「それに私の前にもう二試合ありますからね。好戦的というにほど遠い才の代表選手も気になりますし、巧も楽俊からの情報では鳴り物入りで禁軍に入った剣士が出てくるそうですし。泰の李斎は油断できませんし個人的には応援したいところですが、芳が相手ですからね…祥瓊が」 金波宮で着々とその地位を確実に昇っている祥瓊に陽子は昔から頭が上がらないのだ。 祥瓊を敵にまわすぐらいなら妖魔と素手で戦うほうがずっとマシだ、などと冗談(本気かもしれないが)交じりに言うほどだ。…桓魋と共に。 「敵はお二人だけでは無いということですよ」 「それでも負ける気は無いのだろうが」 「もちろん。打倒!風漢!…ですから」 「ほぅ…」 ここ数年、真正面から陽子と延王は立ち会ったことは無いが戦績は全戦全敗である。…もちろん陽子のほうが。 だからこそ陽子の気合も入る。今度こそ、というやつだ。 「それなら僕は負けたほうがいいのかな」 利広が苦笑する。 「それは無い。風漢に勝った利広に勝てば風漢に勝ったのと同じことだろう?」 「そうか、だったら頑張って勝たないとね〜」 「おい、俺もそう簡単に負けるつもりは無…」 抗議する延王の言葉に被さるように会場から歓声が沸いた。 「まずいっ!試合がもう始まってる!」 陽子は男二人を放置して急いで会場が見える位置まで駆け戻る。…が一足遅かったらしい。 舞台の上では黒髪を後ろに結んだ男が項垂れ膝を付き、…その相手であろう…… 「あれ?どこに居るんだ?」 「ここだ!ここ!」 首を傾げた陽子の膝元から怒りまじりの声が掛かる。 「え…」 見下ろせば六太ほどの背の子供が… 「えぇ…?」 「何か文句が?」 短く刈り込んだ灰色がかった髪の下で、細められた黒い目が剣呑に陽子を睨み上げてくる。 この世界、仙になると年をとらないため見た目だけで実際の年齢はわからないとはいえ…どう考えても若すぎる。六太よりも若い外見の麒麟など存在しないから麒麟では無いだろうし…では太子なのだろうか? それならばあり得ない話では無いが、あいにく対戦中だった才にも巧にも太子という位を頂いている人間は存在しない。 「……いや、えーと才の代表?」 「そうだ」 陽子が子供(?)の上から下までじろじろ見るのに、相手も陽子を上から下まで…精一杯に見ている。 そして両者の視線がかち合った。 陽子が笑顔を浮かべると相手は怯んだように半歩下がる。 「凄いな!」 「…何が」 「その身長で力負けしないとは余程技量が優れているのか、どちらにしろ凄いと思う」 「そ、そうか…」 相手はますますたじたじと一歩下がるのに、陽子は反対に近づいていく。 「良ければ名を教えてくれないか?私は朱嬰という」 「は…」 「駄目だろうか?」 「え、いや…」 先ほど陽子を睨みつけてきた負けん気はどこにいったのか。 「…その、大響(だいきょう)という」 「大響か。私は慶国代表だ。先の試合で見えることあれば宜しく頼む」 「う、うむ」 すっかり陽子のペースに巻き込まれた大響は狐に摘まれたような表情で舞台裏に去っていく。 やりとりを見ていた延王と利広は、奇妙に口を歪めて笑うのを我慢していた。 「さて、次の試合こそ見逃さないようにしないとな!」 |
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刀剣部門は話が進まないな・・・(遠い目)