■ 景王と愉快な仲間たち ■



−壱−








 慶東国赤王朝は、今年目出度く治世百年を迎えた。
 達王以来、慶国にこれほど長く治世が続いたことは無く、去年から国を上げてのお祭り騒ぎは、留まるところ
 無く、国中を賑わせていた。

 そんな国中がお祭り騒ぎの中、ただ一人それを面白く思わない人間がここに一人。
 否。
 彼女は人では無い。王なのだから。
 そう、目出度い年に不服そうな顔をして、執務机で書類と睨めっこをしているのは治世百年を称えられる景王
 その人であった。

「――― 浩瀚、私は大変に遺憾だ」
「左様でございますか」
 外見は17歳の少女のものではあるが、男装しはっきりした口調で話す女王になよやかな処は一つも無い。
 武芸にも秀でる女王は、百年という治世がそうさせるのか最近頓に貫禄が増してきたと評判で、不機嫌そうな
 表情で呼び出しを受けた官吏は、何か不備があったのか、と痛くも無い腹を探り、戦々恐々とするらしい。
 しかしながら、この冢宰だけは別だった。
 不機嫌そうな女王の顔もどこふく風。
 次はこちらに、と容赦なく書類を渡していく。
 女王に恐れおののき小さくなっている官吏がこの様子を見れば、拍手喝采して冢宰を崇め奉ったことだろう。
「何故、下では皆あんなに楽しそうにしているのに、私だけ仕事なんだ」
「それは主上が、お姿をお隠し遊ばされたため期日までに執務が終わらなかったからでしょう」
「・・・・・・・・」
 全く反論の余地も無い回答に、陽子はぐっと詰まった。
「それは・・・だから、延王が・・・」
「主上」
「・・・・わかった、確かについていった私が悪い。だが、納得いかない」
「構いません」
「は?」
「主上が納得なされずとも、仕事をこなしていただければそれで十分ですから」
「・・・・・・・・・・・」
 ――――― 勝てない。

 ・・・と今までなら白旗を揚げるところだが、今日の陽子は少しばかり違った。

「浩瀚。お前は、そんなに私を過労死させたいのか?」
「ご安心下さい。神籍に入られた御身は過労ごときではびくとも致しません」
「失道するかもしれないぞ」
「・・・主上、麒麟では無いのですから」
「とにかく、私は限界がきている。これ以上王宮に閉じ込めるなら・・・交換条件を出させてもらう」
「―――はて、交換条件とは」
「私の意見を呑むか、それとも姿をくらますか・・・・どちらかだ」
「・・・主上、それは些か卑怯というものではございませんか?」
 この百年の間、磨きぬかれた陽子の脱走の技はまさに匠の域だ。やると言ったらやるだろう。
「―――― わかりました。その条件とは?」
 しぶしぶと言ったふうに、聞き返した浩瀚に、陽子は大きく頷き、傍においてあった和紙にさらさらと筆を
 走らせた。
 そして――――。

「これだ!」
 浩瀚の目の前に差し示されたのは。







「・・・・・・・・・・・・・・・・『 天下一武道会 』・・・・・・・・・・・・・?」







 女王は、とても勇ましい微笑を口元に浮かべたのだった。








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