匂い立つ高雅なる










「ナーガ、だと?」

 中忍の一人が、嘲笑うように吐き出した。
「霧忍のくせに神頼みか?」
 ナーガ、という言葉は一般的な知識では蛇の姿をした神ということになっている。
 それを揶揄したのだ。
 ぎりりっと霧忍が睨みつけてくる。


      なるほど」


『は?』
 ナルトの合点がいった、という頷きに忍たちは疑問を抱く。
 何が『なるほど』だというのか。
 その形の良い唇に笑みさえのぼらせて・・・

「成分というのは、つまり・・『それ』か」
 笑んでいても、ぞくりと背筋があわ立つようなアイスブルーの瞳に見下ろされて霧忍の顔色が蒼白となる。彼はナルトが『ドベ』と呼ばれる落ち零れであったことなど知らない。
 ただ目の前に在る圧倒的な力に畏怖を抱くのみだ。
「隊長、いったいどういうことですか?」
 理解しかねると下忍に一人が、ナルトを伺う。
「水そのものに、特別なものは無い。こいつらが『ナーガ』と呼ぶ存在が水の中で作り出すもの、又はその存在そのものが、成分なんだ。だからこそ、こいつらは極秘扱いにしていたんだ。いくらなんでもそんなものが成分だとバレては、効用が高くても誰も買いはしないからな」
 現実に、蛇の神など居はしない。
 大蛇丸が操るような肥大化した蛇か、又は妖獣の類に違いない。

「そんなものを持ち帰るのは不可能です」
「だが、成分が溶け出しているという水を持ち帰るのは可能では?」
「いや、そんな得たいの知れないものを持ち帰っては・・・」
 口々にしゃべりだした忍たちを、ナルトは軽く腕を上げることで制した。
 任務当初は、ナルトに半信半疑でついてきた忍たちがいつの間にかナルトの命令を受け入れることに違和感を感じなくなっている。
「そのナーガとやらを持ち帰るにも水を持ち帰るにも、どちらにしろこの結界を解かなければどうしようも無い。この結界を解くのは容易い。先ほどオレが言ったように同等がそれ以上の力をぶつけて相殺してやればいい。問題はその後だ。霧忍が封印を施してまで外界へ出さないようにしていたものが大人しくオレたちが水を汲むのを見守るとは到底思えない。・・・さて、お前たちはいったいどうやって『ナーガ』とやらに襲われることなく、水を汲んでいる?」
 半眼で視線を投げかけられた霧忍が小刻みに首を振った。
「し・・知らないっ、オレは知らない!オレたちはただ、見張りを命令されただけで・・っ水を汲むのはいつも違う人間が来て・・っ」
 脅してもいないのに、霧忍は滑らかに口をすべらせる。
 何もされていなくとも、目の前に在る存在が寒気に襲われるほどに恐ろしいのだ。
 見目は、『ナーガ』という化け物に比ぶべくなく美しい。アイスブルーの瞳は冷たく冴え渡り、木の葉の額当てで抑えられた金色の髪は濁りなく、時節光を反射して輝いている。

        魅入られる。

 だが、恐ろしい。
 否。

 だからこそ、恐ろしい。
 自然と震えだす体を押さえきれず、霧忍はナルトから視線を逸らすことも出来ない。
 にっと口角を上げた形ばかりの笑みに、眩暈を感じた。

「だとすれば、残る方法は一つ」

 ナルトは形のいい指を一本立てた。



「大人しくさせる」


 力づくで、な。