匂い立つ高雅なる華
三
泳いで島に渡り、役割ごとに解散した後……ナルトは天候の異変を感じ取った。 異常事態だ。 何が、と言えば。ナルトが天候が変化することを読めなかったことが。 つまり、自然現象ではなく…何かが介在しての天候異変ということになる。 「隊長?」 ナルトと共に待機していた下忍が不審げに声を掛けてきた。 「・・・雨が降るな」 下忍がぽかんと空を仰いだ。そこには青空が広がっている。雨など降りそうにも無い。 「わからないってば?・・・風が変わった」 「・・・しかし、それが何か?」 雨が降れば、足音も気配も殺してくれてむしろ幸いだ。・・・視界は悪くなったとしても、狭い島の中で迷うことも無い。 「雨が降れば水が出る。今回の任務は、この島にある水源の水を持ち帰ることだが・・・もし雨水や泥水が混ざって濁るとマズイってばよ」 あ、と下忍が今更ながら気づいたという顔を晒す。 ・・・・・・だからこそナルトより遥かに年上でも未だに下忍に甘んじているのだろうが。 ( 可もなく不可もなく、という評価が下されるようなところで動くつもりだったが、ナルトの勘が面倒ごとの到来を告げている。 「皆に合図を」 「・・・・はっ!」 空を見上げて命令を下したナルトは、反論を許されない威圧感を持っていた。 一瞬息を呑んだ下忍に出来たのは、短く答えを返すのみ。 合図を受け取った忍たちが、戻ってきた頃・・・空には雲が立ち篭めはじめていた。 「ちょっと変更が必要みたいだってばよ」 ナルトの言葉を中忍二人は理解しているようで、無言で頷く。 5人の下忍たちは顔を見合わせる。 「雨が降り出す前に、水を確保しなければ不純物が混じって依頼遂行が難しくなる。・・・水源がある場所はわかったってば?」 「島のほぼ中央。かなり大きな滝壷があるようです」 「見張りの人員、配置は?」 「滝付近の見張りは15人。交替で見張っているようです」 「なるほど・・・」 常に滝には誰かが張り付いている。・・・どうにかして引き剥がさなければならない。 ナルト単独ならば、一網打尽にしてさっさと任務を遂行するのだが、彼等の目の前でそんなことをすれば、九尾の力に畏怖を抱き、ナルトを忌避するようになるだろう。 「すみません。気になったことがあるんですが・・・」 「何?」 下忍の一人がおずおずと手を挙げ発言した。 「滝に注連縄が張ってあり、何か札のようなものが・・・」 「・・・どんな札だったかわかるか?」 下忍は、完璧に覚えているわけではありませんが・・・と、たどたどしく、こんなものだったと懐紙に書いて見せた。それを見て、ナルトは舌打ちする。 「起爆符か?」 「違う。封印符だ」 視線がナルトに集中した。 中忍である彼等にもそれが何の札であるかわからなかったらしい。 まぁ、普通の忍にはあまり用があるものでは無い。 「あの滝には、”何か”が封印されているらしい。・・・誰か、そこから水を運んでいるのを見た者は?」 誰もが首を振る。 (・・・ったく、水の国の奴らめ・・・どんな”水質”を商売にしてやがる・・・?) 「下手に手を出すとマズイかもしれないってばよ・・・」 「しかし、水を持ち帰らないことには・・・」 任務は遂行できない。 そんなことはわかっている。ナルトだって一人ならばさっさとそうしている。問題は何かが起きたときに彼等という足手まといが居るということだ。 「・・・・・・・」 ナルトは目を閉じ・・・数秒置いて、彼等を碧眼で真っ直ぐに見据えた。 「これより、任務をBランクよりAランク扱いに変更する」 「「「!?」」」 彼等が息を呑む。 任務にあたるにあたって、隊長資格を持つ者は、遂行任務が予定よりも遂行が困難となると判断した場合にはランクを変更する権限が与えられている。 だが、その権限が使用されるのは僅か1%に過ぎない。滅多に起きることでは無いのだ。 しかも、ナルトを除くこの場の誰もが、この任務についてそれほどに困難を要するとは思ってもいない。中忍に至っては、ナルトがこの程度で臆したのかとさえ思っている。 説明する時間さえ惜しいが、しなければ彼等は動かないだろう。 「・・・この封印符は、通常5枚一組で用いられる。サガン、貴方が見たのはその一枚だろう。他に四箇所似たようなものが貼られているはずだ。改めて説明するのも馬鹿らしいが、封印符に限らずどんな札も、一枚でもその効力は十分なものを持っている。それを5枚も使用するということは、封印されているものがかなり厄介なものであると推定できる」 滔々と説明し始めたナルトを、呆けたような顔で彼等は見ている。 この類のものが出たときには、木の葉では暗部一部隊を出動させていると話してやったならば、彼等はどうするだろうか。 (・・・ツナデめ・・・厄介なものを押し付けやがって・・・) 恐らくツナデは何も知らないか、まさかそこまで厄介な代物とも思って居なかったのだろう。 もし知っていたならば、何かしらナルトに忠告していたはずだ。 完全に調査部門の怠慢だ。 さて、どうするか・・・ ナルトが言ったことに、彼等は半信半疑で・・・ここで退却すると言っても素直に従うことは無いだろう。下手をすれば、ナルト以外の二人の中忍のどちらかに権限委譲が行われる。 いっそのこと見捨ててもいいが、任務最初からケチがつくというのは、今後のことを考えれば良いことでは無い。 「本来ならば、一度退却して部隊を編成しなおすところだが・・・このまま続行する」 ナルトの判断に、彼等はとまどいつつも頷いた。 |