<後編>
がくり、と傾いだシカマルの体がゆっくりと起き上がる。 「・・・・・・・・」 「うーん・・・初めての人の体に入ってみたけど・・・馴染みにくいね」 声はシカマルでも口調は全く違う。 「・・・・・お前・・・」 シカマルはナルトの目の前で手を開いたり閉じたり、肩をまわしてみたりとサイズの違う服を 無理やり着た後のような仕草を続ける。 「―――どうかな?」 「・・・・・・。・・・・・どうかな、じゃねぇーっ!!!」 ナルトは叫んだ。 そして、ナルトは何故か里の中心街をシカマル(※中身は注連縄)と共に歩いていた。 「ああ、久しぶりだね。全然変わってない」 きょろきょろと、挙動不審なまでに落ち着きなく周囲を見回すシカマル。何度も言うが中身は注連縄。 「幽体だとなかなか触れたりできなかったし・・・そうだ!」 ナルトはがしぃっ!とシカマルに腕を捕まれた。 「甘味屋さんに行こう!この近くにあったよね〜」 「いや。ちょっと待て・・・俺は」 「ナルト君は何が好き?僕はね〜」 ―――人の話を聞きやがれ・・・ 押しの強さに負け、ずるずると引きずられながらナルトは甘味屋の暖簾をくぐった。 「あら。シカマルにナルトじゃない」 いきなり知り合いに出くわしてしまった。 「あ!いのだってば!」 「珍しいコンビじゃない。・・・シカマルって甘いもの嫌いじゃなかったっけ?」 不審な表情を浮かべるいのに、ナルトは焦る。 放っておいていい気もするが、シカマルが元に戻ったときのことを考えるとフォローしておいたほうが いいだろう。 「俺が無理やり連れて来たんだってば!」 「――― にしては」 いのの手がシカマルを指差す。 「お姉さんっ!スペシャル木の葉パフェを二つ!生クリームと白玉は大目にね!」 「・・・・・・・・」 シカマルは嬉々として当店おすすめの品を叫んでいた。 「あ・・ははは・・・シカマルもやるってばよ!」 「・・・・・ま、いいけど」 何でこんなことで俺が冷や汗をかかなくちゃいけないんだよ、と情けなく思いつつも深く追求され なかったことに胸を撫で下ろす。 「ところで、シカマル。あんたアスマ先生が出した宿題もうやった?」 「・・・・?」 「明日まででしょ、もう〜あんな暗号なんて解けるわけないじゃない」 ぶちぶちといのは文句を重ねる。 「持ち歩いてんの?見せてってば!」 「ナルトに〜、わかんのぉ、あんたが」 「まかせとけってばよ!」 下忍に出す程度の暗号などたかが知れている。 いのから暗号の書かれた紙を受け取ったナルトの脇からシカマルも覗き込む。 「何だ、これなら大丈夫」 「「何が?」」 「ほら、ところどころによくわからない点があるでしょ」 「・・・・シカマル、何か今日、しゃべり方が変じゃない・・・?」 「き・・・気のせいだってばよ!ほら!」 「この点を目印にして、こことここ。それから、こことここ」 シカマルは紙を折り曲げていく。 「ほら、出来上がり!」 折鶴が出来上がっていた。 「・・・あんた、あたしをおちょくってんの?」 「あはは。ここ見て」 シカマルが折った鶴の背中と翼を指差す。 「ご・・・く、ろ・・・・う・・・・さ・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・?」 「「ごくろうさん!」」 「その通り。なかなか面白い暗号だってね〜」 「まさか鶴を折るなんて・・・」 いのが出来上がった鶴を受け取り、まじまじと眺めている。 「発想の転換だよ。パターンの一つだから、慣れれば大丈夫」 「・・・・・・シカマル、本当にあんたどうかしたの?」 いつも無口で、口を開けば『めんどくせ〜』ばかり。 そんなシカマルが懇切丁寧にいのにアドバイスしている・・・・確かにおかしい。 ナルトだって中身が注連縄だと知らなければ誰かの変化だと思ったに違いない。 「はい、お待ちどうさま〜」 嫌な沈黙が落ちるテーブルに、注文していたスペシャル木の葉パフェが置かれた。 「待ってました!・・・それでは、いただきま〜す!」 「・・・・・。・・・・・」 (・・・・すまん、シカマル・・・・フォローのしようが無い・・・) 物問いたげないのの視線を必死で気づかないふりでナルトは運ばれたパフェを食べ続けた。 『あんた・・・頭でも打ったか悪いもの食べたんじゃない?』と気の毒そうないのの視線に見送られ ナルトとシカマルは温泉にやって来ていた。 何故温泉、と訪ねたナルトに中身注連縄なシカマルは『温泉で背中を流しっこして交流を深める! これぞ王道でしょ!』と。 いったい今さら幽霊とどんな交流を深めろというのか、しかも王道って・・・? 数々の疑問符を浮べながらナルトは、意気揚々と入っていくシカマルに続く。 その背中に・・・・ 「あ!ナルト〜〜〜っ!」 嫌な奴に見つかった。 駆けて来るカカシの姿に、ナルトはそう思った。 「なになに!今から温泉?」 「・・・・ああ」 「じゃ、俺も!」 「いや、いい」 「丁度俺も汗流したいって思ってたんだ〜!」 「家帰って、シャワーでも浴びろ」 「温泉で背中の流しっこ!これぞ王道だよね〜!」 「・・・・お前もか・・・・」 あの親にして、この弟子あり。 カカシの変人っぷりは、やはり注連縄のせいだったのか・・・。 「ナルトくーん、どうしたの・・・て、おや、カカシ君」 「カカシ・・・・『君』?」 カカシがシカマルを見て、眉を寄せ首を傾げた。 「お墓で会って以来だね。元気してたかい?」 「・・・・・・・墓?」 ますます首を傾げる。 「カカシ君も温泉かい?・・・・まさか、僕のナルト君と背中の流しっこしようと思っているんじゃない よね?そんなことは許さないよ」 「僕の・・・・?」 バチバチっ、とシカマルとカカシの間で火花が散った。 「お前、確かアスマのところの子だよねぇ。ナルトが自分のだって?ちょっとずうずうしいんじゃない? ナルトは俺のだよ」 「誰がお前のだ。寝言は寝て言え」 ナルトは突っ込むがカカシは無視。 「そうだよ。しばらく会わないうちに随分偉そうになっちゃって。僕はナルト君のことで、結構君には 腹立ててるんだよ」 「おい・・・」 「「・・・・お仕置きが必要だね♪」」 二人は見事に相手に対して同じセリフを吐き捨てた。 戦場に・・・いや温泉場に嵐が吹き荒れる。 シカマル(※中身は注連縄)とカカシは睨みあったのち、印を組んだ。 「こうなったら実力行使で、ナルトが誰のものか教えてあげちゃおう」 「いいね、わかりやすくて。でもナルト君は僕のものだよ♪」 「いや、俺は俺のものであって・・」 「「問答無用!」」 ―――聞いちゃいねー・・・ 「雷切!」 「螺旋丸!」 互いの必殺技で、まさしく相手の必殺を狙う。 カカシも大人げないが、注連縄もさっさと事情を話せばいいものを、恐らく弟子で遊んでいる。 「・・・・付き合いきれねー」 ナルトは頭を振ると、さっさと一人で浴場へ続く暖簾をくぐった。 「ナルトくーん!」 「ナルトーっ!」 「・・・来やがった・・・」 温泉で温まり、朝からの精神的疲労を癒したナルトに悪夢が追いついてきた。 シカマルは最後に見たときのままの姿だったが、カカシは銀髪の端が焦げて黒くなっていたり服の 裾がぼろぼろになっている。 ―――やっぱまだまだだな・・・ 注連縄といえど、シカマルの体という制約を受けて全力を発揮することは出来ない。 それに負けたのだから、カカシの実力もまだまだ。 普通なら進歩するものが、ナルトに付き纏うようになって退化しているような気さえする。 「酷いよ!僕を置いていくなんて!」 「いや、お前らが俺を無視したんだろ」 「ナルトと背中の流しっこしたかったのに!」 「一人で勝手にしてろ」 せっかくの休日をどうして、静かに過ごせないのか・・・いつも何か妨害されている気がして仕方ない。 「先生!いえ・・・四代目!」 「何かな、カカシ君」 どうやらシカマルにとりついているものの正体をカカシは知ったらしい。 「ナルトを俺に下さい!」 「ダメ」 二人の会話はナルトの頭の上のほうで交わされている。 「どうしてですか!?」 「ナルト君はお嫁さんを貰うの」 「それじゃ、俺がお嫁さんになりますから!」 「ダメ。カカシ君って全然家事できないでしょ?」 「・・・・しゅ、修行しますっ!」 「それじゃ、続きは君が免許皆伝してからね」 「く・・・先生、さすが厳しい」 酷く打ちひしがれたらしいカカシが道端に膝をついてうなだれる。 ―――どうしてやろうか、このアホ師弟・・・・ 「それまで、僕と一緒に一家団欒を楽しもうね、ナルト君v」 「・・・・ちょっと待て」 注連縄の言葉に、ナルトは歩みを止めた。 「ん?」 「それまで、て・・・・いつまで居るつもりだ!」 「えー・・・ナルト君が仲間になるまで?」 「誰が幽霊の仲間に・・・て、俺が死ぬまでってことか!?」 「ピンポーン!」 「・・・・・・・・・」 ナルトは足を止め、体を震わせている。 「っと・・・さっさと、あの世に還れーっ!!」 空に向けて叫んだ。 ――その頃の奈良家――― 「あら、シカマルは?」 「さーな、朝方出て行ったまんまだ」 「晩御飯どうするのかしら」 「放っとけ放っとけ。男が一晩抜いたくらいでどうにかなるか」 「それもそうね」 あっさりとシカマルは見捨てられていた。 |