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 膝をついた忍たちの額当ては、霧・岩・雲・草―――― 忍五大国の三つと草隠れのもの。
 現れ方からして、中忍以上・・・おそらくは上忍でもかなりのレベル。それぞれの里の中枢に居る
だろう者たちに違いない。それが、どうして・・・確かに火影とはいえ、ナルトに膝を折るのか・・・・
シカマルの脳裏には瞬時にいくらかの推論が浮んだが・・・良くも悪くもこちらの予想を裏切ってくれ
るナルトである。すぐには結論を出すことは出来ない。
 シカマルにできるのは、ただナルトと忍たちの遣り取りを黙って見守るだけった。


「皆、元気か?」
 穏やかな笑いを少しばかり企み顔に変えながらナルトが忍たちに話しかけた。
 そこには、行きがけに出会った忍に対するような緊張感は無い。
「お気遣いいただき光栄に存じます」
「変わりなく・・・お声が掛かるのを今か今かと」
「一日千秋の思いにてお待ち申し上げておりました」
 かわるがわる応える忍たちに、ナルトがおかしそうに笑い声をたてた。
 ナルトが声をたてて笑うなど、シカマルたちの前でもあまり無い。少しばかり驚いた。
「本当に、変わり無いようだ。・・・・覚悟は変わらない、か」
「もとより」
「お疑いならばいかようにも」
「長の首とて・・・」
 口々にしゃべり出した忍を、手を軽く上げる動作だけでナルトは止めた。
「わかっている。ここに現れたことが何よりの証だ」
「では・・・我らは動いてもよろしいのですね?」
「さぁて、どうするかな」
「ナルト様っ!」
 非難まじりの叫びに、ナルトの喉がくつくつと鳴く。
           揶揄って楽しんでいるようにしか見えない。

(本当になぁ・・・どんな奴でもナルトにかかると掌の上で遊ばれるよな・・・・・・・)
 己をかえりみながら、シカマルは胸中でしみじみと呟いた。

「まぁ、もう少し待て。・・・遠くないうちに動き出すつもりだから」
「我らいつでも、用意できております」
「ああ、期待している」
「ナルト様・・・」
 思いがけぬ光栄に浴したかのように、忍たちは感動に震えている。
 恐ろしいばかりの忠誠心。
 それとも・・・・心酔。
 木の葉だけでなく、他里にまでナルトの影響は及んでいるのか・・・。
 シカマルはらしくもない『穏やかな』微笑を浮かべているナルトの顔をちらりと見やった。


『他人が寄せる思いなど鬱陶しいだけだ。所詮は自己満足だろ』


 何の感情も含むことなく淡々とそのセリフを言ってのけたのは、このナルトである。
 それなのに、今こうしてナルトは他人の思いを懐へ受け入れようとしている。
 三つ子の魂百まで、では無いが人の性格がそう簡単に変わるものでは無いことを思えば、この
ナルトの行動も何らかの意味があるのだろう。

 面白くない、と感じるのは・・・・・・何も告げられていないから。
 ナルトからそんな言葉は何一つ貰っていない。
 
 疎外感。

            思いっきり溜息がつきたくなった。



「では、御前を失礼致します」
「ああ」

 忍たちは現れたときと同様に、音なく忽ち姿を消した。


「―――― ナルト」
「何?」
「・・・・・・いー加減にしろよ」
「くっくっ・・・そんなにすねるな」
「っ誰が!」
「シカマル」
「大丈夫。お前に・・・お前たちに話してないのは、信用していないからじゃない」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・・」
 シカマルを振り返ったナルトの顔には、微笑が浮んでいた。
 ・・・・今にも雨が降りそうな空のような。






「どんな道を選ぼうと、お前たちはついてきてくれるだろ?」




 


 まぁな、と小さく落としたシカマルの顔は赤く染まっていた。










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とりあえず、完。(え)