再ビ見エル 1
『故郷にはやはり未練がありますか?』
『いいや・・・まるで無いよ』
眼下には、大蛇丸によって無残な傷跡を残す木の葉の里があった。
至るところから煙が立ち昇り、建物は崩れ、人々は復旧作業に追われている。
栄華を極めた木の葉の里。その面影はどこにも無い。
だが、イタチにとってはそこが焦土であろうと極楽であろうと大した違いは無い。
木の葉の里といえど、数ある忍里の一つとしての認識しかなく、重要なのはその部分では無い。
そう、イタチに里への未練など無い。抱きようも無い。
十数年生まれ育った場所ではあっても、イタチとはまるで馴染むことの無かった世界。
未練があるというのならば・・・・
それは。
「久しぶりの帰郷でしょう・・・どうです?捜しものをする前に茶でも」
「ああ、いいだろう・・・・」
鬼鮫の言葉に、静かに頷いたイタチの頭には、鮮やかな黄金が広がっていた。
六年ぶりの再会。
あの子はどれほどに成長しただろうか?
時節、裏に聞こえてくる仕事ぶりからは、その実力はとうにイタチを凌駕しているように思える。
「機嫌が、いいですね」
「・・・そうか」
イタチには、物心ついてから何ものにも心動かされたということが無い。感情の起伏がほとんど無く、表情筋の動きだけで心を作っていた。人は見た目に惑わされる。口を弧に歪め、『笑み』を
作っていれば、それで安心した。
イタチが心動かされたのは、後にも先にもただ一つ。あの子に関わることだけ。
「九尾を封印している以外は普通の子供だと聞きましたが・・・」
鬼鮫の言葉に、イタチは大声で笑い出しそうになった。
本当に見事だ。いまだにあの子は本性をごく一部を除いて秘密にしているらしい。秘密というのはちょっとしたことで、外部に漏れていくものだ。それなのに、暁の情報網にさえ引っかからない。
「違う、みたいですね」
「会って、その目で判断するんだな」
背後の気配に、イタチと鬼鮫は席を立った。
木の葉崩しから、一時入院していたナルトは脅威の回復力を見せて一週間で退院した。
もっとも、はじめから怪我をしたと見せかけていただけなのだから、退屈で仕方なかった。
どうやら、忍たちは色々と忙しいらしいが、三代目直属の命令しか聞いていなかったナルトを動かせる者は無く、暢気に食事でも楽しむかと一楽に腰を下ろす。
「おっちゃんっ、味噌ラーメン!」
「あいよっ」
威勢のいい返事に、ここは無事でよかったなぁと柄にもなくしみじみしてしまう。しかしかなりの被害中心部に店を置いているというのに、店は以前のままで主人も逃げ出した様子は無い。前々からタダものではないと思っていたが・・・
「へい、お待ち!」
「サンキューっ!」
割り箸を手に、麺を口の中に誘い込む。
里の至るところで、金槌や鋸、何かを修理する音が響いている。
平和だな
口の端に笑みがのぼった。
「おう、ここにおったのか」
「んあー、エロ仙人」
「お前、いい加減わざとそう呼んでるだろ・・・・」
「え、今ごろわかったのかってば?」
「・・・・・・このクソガキめ」
低く恨めしい自来也の言葉に笑って、ナルトは器を抱えてスープまで飲むと代金を置いて席を立った。今、この里で『五代目』候補として一番に拘束を受けて居そうな自来也がナルトに会いに来るというのは、何かしらあったのだろう。
「・・で、何?」
人気の無い場所に来ると、ナルトの表情から笑顔が消え鋭い眼が自来也に突き刺さった。
「相変わらず、ギャップの激しいやつめ」
「今さらだろ。じっちゃんが死んで、せっかく何年ぶりかの休みを人が満喫してるって時に」
「イタチが帰ってきた」
ナルトの足が止まる。
自来也から『暁』についての話は聞いていた。はじめ聞いたとき、大蛇丸はともかくイタチまでそんな組織の一員になるとは、ついにヤキがまわったかと呆れたものだが・・・。
「で、それがどうしたって?オレが、奴らの手にそう簡単に落ちるとでも?」
「いや。お前みたいなんを相手にせんといかんとは、奴らも気の毒じゃのぅ~」
「あ、そう」
用件はそれだけか、と促すと自来也はあっさりと『旅に出るぞ』を告げた。
「勝手にすれば?」
「お前も一緒に、だ」
「・・・オレを疑ってるわけか?」
「いや、お前が暁なんぞに利用されてやるほど人がいいとは思っとらん。だが、お前はイタチを知っているだろう?」
「あの”うちはイタチ”を知らない奴のほうが珍しいと思うがな」
「はぐらかすな。『個人的に』知っているはずだ」
「だから?オレが情に絆されるとでも?」
「わからん。だが、三代目が『イタチには気を付けろ』と儂に言い遺したもんじゃからのぅ~」
ちっ、とナルトは心の中で舌打ちした。
「どこに行くんだ?」
「五代目捜しじゃ!」
「・・・・・・・・」
やはり、自来也は『五代目』をやらされそうになったところを逃げ出してきたらしい。
往生際の悪いことだ。
まぁ、五代目(予定)がどんな人間かは知らないが・・・このジジィがナルトに命令することを考えれば、誰でもマシな気がしないでも無い。
「付き合ってやるってばよ!」
不承不承、同意した。
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