血盟 2
うずまきナルトには、一部の人間だけが知っている中忍とは別のもう一つの顔がある。
五歳の頃から従事している”暗部”としての顔である。
その仕事の激しさから、もって三年といわれる暗部において、ナルトは十年以上在籍している。
その間に任務の失敗は一度も無い。全て完璧に遂行している。
任務成功率100%とは、忍の世界では冗談か嘘のような話だが、残された報告書がその真実を証明していた。
”うずまきナルト”という忍の存在は、木の葉の里だけによらず他の里においても、ほとんど伝説と
化していた。だが、その正体がナルトであることは火影と一部の忍だけしから知らない。
ナルトは自身の正体がバレないように最大限の注意を払い、任務時には常に変化で姿を偽っていた。
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「ツナデ、任務外で何の用だ?」
ナルト専用の鷹で呼び出しを受け、火影の執務室に現れたナルトは妙齢の麗しい女性の姿だった。
「あたしより美人に変化して来るな」
若返りの術で実際より云十年、年を誤魔化している火影は不機嫌にナルトを睨んでそういった。
ナルトはそれを鼻で笑い飛ばし、用事を促した。
「じじぃどもが煩いのよ」
お前も十分ばばぁだろ、とは言わない。
「棺桶に片足を突っ込んだ奴らなど、あんたには何の問題にもならないはずだ」
「全く、誰のせいで厄介なことになっていると思ってるんだか」
「俺が元凶であることは確かだな」
「わかってんのなら、何とかしなさいよ」
こっちだって、いちいち愚痴に付き合うのも嫌になってきているんだ、と火影は訴える。
「ああ、近々何とかするつもりでいる」
火影の肩がぴくりと動いた。
「そう、近々・・・ね。随分長くかかったものね」
「全ての不確定要素を排除して、計画の成功率を限りなく100にする必要があった」
「なるほど、それであたしはいつ頃楽隠居させてもらえるのかしら?」
「1月・・・いや、半月以内に」
「それはそれは・・・楽しみにしているわ」
火影は・・ツナデは、含みある笑みを美しい顔に浮かべる。
「用事はそれだけか?」
「ああ、はい。これ」
ツナデはひらひらと薄い紙を無造作にナルトへ渡す。
「石頭どもが何も言わなかったのか?」
「言わせないようにお膳立てしてたくせに、よく言う」
ツナデが言い、ナルトは含みある笑いを浮かべた。
ナルトの手にある1枚の紙。
それはナルトの上忍昇格を伝えるものだった。
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「ナルト~vv」
抱きつこうとした男を紙一重で避けたナルトは、冷たい視線を男=カカシにではなく、火影に向けた。
「まさかこいつとペアの任務か?」
いかにも不服そうにナルトはカカシを指差す。
「そう。あんたは嫌がるけど二人ペアの任務の効率が一番いいからね。そいつもナルトと一緒ならマジメに仕事してくるし」
「俺は疲れるから嫌だ」
「ナルト~~」
薄情なナルトの言葉に、カカシが涙を拭くマネをする。
「もう決めたの。はい、頑張ってきてね」
依頼書を手渡され、素早く目を通すとナルトは手の上で灰にした。
極秘性の高い、暗部の任務は里内といえど油断はできない・・・もっともカカシにそれを診せなかったのはただの嫌がらせだろうが・・・。
「ツナデ、わかってるだろうが・・・」
「はいはい、わかってるわよ。これが済んだらこっちは当分お休みね」
「ナルトっ!?」
カカシがどういうことだと、詰め寄るのを鬱陶しげに避けながら、ナルトは姿を消した。
カカシが慌ててその後を追う。
まるで妻に見捨てられた夫のようなカカシの姿に、見送る火影は”あれのいったどこがエリート忍者?”
と今さらながらに嘆息した。
「ナルトっお休みって・・・っ」
「うるさい。お前には関係ない」
「ある!ナルトが何かするつもりなら、俺は何だって協力する、させて!」
「いらん。お前がいると手助けどころか邪魔になるだけだ」
「~~~~っ!!」
あまりといえば、あまりの言葉。けれど二人の間ではよくある遣り取りにカカシは悲しくおもいつつも、
それでもナルトから離れられない自分が不思議でならない。
(あ~俺ってホント愛しちゃってるんだよねぇ・・・)
たとえ報われなくても、いや、報われたいのは山々だが・・・ナルトの傍に居ることを許されているだけで
幸せだと感じるのだ・・・この人を人とも思わぬ最低との評判高い自分が。
「おい、さっさと済ませるぞ」
「はいはい~vv」
はたけカカシ。まるで従順な飼い犬のごとくである。
* * *
「ナルト、おめでとう!ついにあんたも上忍ねっ!」
「漸く来たか、火影になると大口を叩いていたわりに遅かったな」
「まったく、同期ん中じゃお前が最期だぜ?」
「ナ・・ナルト君、お、おめでとう」
上忍詰所『人生色々』に姿を現したナルトに、スリーマンセルを組んでいた頃の仲間たちが一斉に
集まり、口々に祝いの言葉やら嫌味やらを贈った。
いずれにしろ、仲間の誰もが待ちかねていたナルト”上忍”の誕生だった。
ナルトもきっと『オレってば火影になる男だってば!』と喜んで、いつものセリフを吐くと・・・
そう思っていた仲間たちは、ふと憂いを帯びたナルトの薄い笑みに意表をつかれた。
それは、自分たちがよく知っていたナルトが決して持ちうる表情ではなく、まるで”上忍昇任”など
大したことでは無いと言うかのように。
そして、その態度を裏付けるようにナルトは新人上忍とは思えぬほどに、この場所に馴染んでいた。
「ナルト?」
サクラの眉が不審げにしかめられる。
「うずまき?」
「ナルト君?」
ネジ、ヒナタ、キバも揃って動きを止める。
そんな四人に向かい、ナルトは妖しささえ感じる笑みを浮かべた。
恐ろしく整った美貌に浮ぶその笑みに呆然とする。
こんなナルトは知らない。
『うずまきナルト』はこんな笑い方はしない。
デハ・・・コノ目の前ノ・・・モノは美シイ、生キモノは・・・ナニ?
「お前たちにとっては”初めまして”だな。俺が、『うずまきナルト』だ」
「え・・・」
サクラとヒナタ、キバが言葉を失う中、いちはやく何かを察したらしいネジが白眼でナルトを睨んだ。
「なるほど、噂は本当だったというわけか」
「え・・?え?え?」
「あの・・ネジ兄、さん?」
「その美貌と技で、中忍どもを骨抜きにしている忍びが居る、と聞いていた」
「骨抜き?・・・ふ、勘違いするな。あいつらは自分たちで俺に従うことを選んだまでだ」
あのクセのあるしゃべり方ではない。威圧感さえ感じさせるその口調。
ネジの言葉は否定、されなかった。
「うそ・・・」
「何がだ?サクラ・・・ちゃん」
今までのナルト像が崩れ去っていく。
あの、元気で、何事も前向きな、馬鹿なほどひたむきな・・・不器用だけど、どこか憎めない。
『ナルト』という存在が。
「俺たちは、まんまと騙されていたというわけか?」
「気づかないほうが間抜けなんだろう?シノもシカマルも気づいたぜ?」
ネジに対して、言下にあの二人よりも下だと馬鹿にする。
「くっ」
「ナ~ルト~、そこまでにしてあげなよv」
突然に割り込んだ声に、視線が向いた。
「カカシせん・・上忍」
「何の用だ、カカシ。お前には任務が与えられていただろうが」
「だってナルトがここに顔出すって聞いたから、もう速攻で終わらせてきちゃったよ♪」
「いつもそうだといいんだがな」
カカシ相手に対等・・・いや、それ以上の口を叩くナルトに、目を丸くする。
「ッカカシ先生っ!!いったいどういうことっ!?ちゃんと説明して下さいっ!!」
予想外の事態に、サクラがカカシへ詰め寄る。
「いや~ん、サクラって美人だからそんなに迫られたらイケナイ気分になるじゃないかv」
「先生っ!!」
怒髪天を衝くとはこのことだろう。
「どういうことも何も、ナルトはナルト、でしょ?」
「それはっそう、だけど・・・」
ちらり、とナルトに視線をやると、二人のやりとりを気にした風もなく飄々と立っている。
「でも!どうしてそんな・・・っ」
そんなことをする必要が・・。
「九尾さ」
ナルトの一言にはっと息を呑む音がした。
「お前たちも上忍だ、俺の身に九尾が封印されていることはすでに知っているだろう。九尾に対する
畏れは、俺自身への畏れに転化していた。畏れは容易く排除の感情へ傾く」
「それを防ぐために道化を装っていたと・・?」
「余計な面倒を抱えるのは嫌だったからな。表面化での迫害などたかが知れている・・・」
「それで、こうして正体を明かしているというのは、その必要が無くなったから、というわけか?」
ネジの言葉にナルトはにやりと笑ってみせる。
「俺は察しのいい奴は嫌いじゃない。・・・ネジ。長じればこいつのように」
カカシを顎で示す。
「ヘタれる奴も居るが、お前は実務面だけでなく事務面でも優秀なようだ」
「何で知っている」
噂で、というには確信した口調だった。
「暗部の関係で、上忍の報告書にも目を通す」
「暗部!?」
再び目をむく一同。
「ナルト、そこまで言っちゃっていいの?」
ヘタレ、と言われいじけていたカカシが復活した。
「ああ。俺に敵対するというのなら、さっさと潰しておきたいからな」
「敵対、だと・・・?」
「ナ、ナルト君・・・・??」
「日向ネジ、ヒナタ。お前たちは里の有力な名家にして、実力においても問題ない。犬塚キバ、忍犬の養成
扱いのおいて比類ない。春野サクラ、里でも五本の指に入ろうかという頭脳と情報解析力を持つ。いずれ
里の未来を背負うにふさわしいと言えるだろう」
「何が言いたいの?」
「俺は六代目、火影となる」
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