Never Ending Story 12.書簡



 親愛なるエレスサール王

  こんにちは、アラゴルン。お元気ですか?
  ホビットの里は、春らしく色とりどりの花で埋め尽くされ、サムなど大忙しの様子です。
  僕もその手伝いをしようと手を出しては、邪魔になってばかりいるようで、最近のサムは
 「旦那様はそこで大人しくしていて下さい!」が口癖です。
  
  先日は、せっかくの新年のお祝いに出向くことが出来なくてごめんなさい。
  里の会議があってどうしても抜けることが出来ませんでした。
  お祝いの席がどんな様子であったかは、メリーとピピンに聞きました。
  ガンダルフやレゴラス、ギムリとも顔を合わせることができて、楽しかったと。
  特にアラゴルンが王様らしくなっいて驚いたとのことです。
  僕は思わず笑ってしまいました。だから二人にこう言っておきました。
  『アラゴルンは前から王様らしかった』と。
  本当に、今でも僕は戴冠式のときのあなたの立派な様子がはっきり思い出せます。
  多くの民があなたの上に、中つ国の輝ける未来を夢見たことでしょう。
  僕もあなたの御世が末永く栄えられんことを、北の果てから祈ってます。

  この手紙はレゴラスに預かっていただきます。
  誰よりも早くあなたの元に届けてくれますから。あなたからもお礼を言っておいて下さい。

  では、お元気で。


  フロド・バギンズ









 フロドからの手紙を読み終わったアラゴルンは、机の上に静かに手紙を置き窓の外へ視線を向けた。
 あの遠い北の空の下、彼は生きている。

「フロドは何と?」
「祝宴に出向けなかった謝罪と……相変わらず私が一番知りたいことは書いてくれないな」
「フロドの様子?私に手紙を預けたときは元気そうだったよ」
 レゴラスの含みある笑いに、アラゴルンが胡散臭そうな視線を向けた。
 このエルフと浅くない付き合いであるアラゴルンには、彼が一筋縄でいく性格でないことは重々承知している。
「サムがフロドに、大人しくしていろと言うのは何も邪魔だからというだけでは無いのだろう」
「何が言いたい?」
「ゴンドールまでの旅が無理なほど、フロドの体は弱っているのか?」
「さぁ」
「レゴラス」
 はぐらかそうとする相手をアラゴルンが睨みつける。
「エレスサール。どうか私を困らせないで欲しいな。私はフロドと『余計なことはしゃべらない』と約束しているのだから」
「……なるほど」
 笑う姿は、アラゴルンの問いを肯定しているも同然である。
 フロドは『余計なことはしゃべらないし、ばらさない』と約束するべきであった。
「ガンダルフは知っているのだろうな。メリーとピピンには話してないのか」
 アラゴルンはしばらく顎に手を当て、考え込む。
 フロドが外見に反して、恐ろしく頑固者だということは彼を知る者の間では周知の事実である。
 知らないふりをしたいところだが、ことフロドの体に関わることだけにそうも出来ない。
「アラゴルン、執政殿を困らせる行動はしないように。フロドが悲しむよ」
「……」
 レゴラスに先制攻撃を受けたアラゴルンはむっつりと黙り込む。
 今すぐにでも飛んでいきたいのが正直なところだ。
 だが、アラゴルンが飛んで行ったからといって、フロドの傷を癒せるわけではない。
 あの傷はフロドが一生背負っていかねばならない傷なのだから。

「手紙を書く。届けてくれるか?」
 そのくらいにしかアラゴルンの出来ることは無い。王とは言ってもそれは何の役にも立たないものだ。
「伝書鳩ならぬ、伝書エルフか私は。まぁ、他ならぬフロドのためだから――― 喜んでその役目お引き受けいたしましょう」
「他の種族は立ち入り禁止している場所へ、出入りしているのを大目に見ているんだ。それくらいして貰わねば割にあわん」
 憮然と言い返したアラゴルンは、ペンを取りフロドへの手紙を書き始めた。











 親愛なるフロド――――

  こちらは元気にしている。君はどうだろうか?
  祝いの席に君の姿が無かったことは非常に寂しく思っていたが、会議とあっては仕方ない。
  君が庄長に選ばれたことはレゴラスから聞き知っていたからね。
  私もシャイアへ遊びに行きたいところなのだが、怖い執政殿がなかなか許してくれない。
  レゴラスなど気ままに世界中を旅しているのに不公平だと思わないか?
  それが王の役目なのだからと言われればそれまでだが、王にだって休みが欲しいと最近強く思う。
  もし休みが、少しでもいい与えられるならば、すぐにでも君に会いに行き、日々の徒然ごとを語りたい。
  君の近況、私の近況をサムの手料理に舌鼓を打ちながら、夜はビールを片手に。
  きっと君ならば、私を「王」としてではなく、旅の仲間アラゴルンとして迎えいれてくれるだろう。

  フロド。
  君は覚えているだろうか、あの誓いを。
  私はいつまでもそれを信じ、その日が一刻も早く来たらんことを祈っている。
  いつまでも、ひたすらに。

  では、フロド。
  この手紙はレゴラスに渡し、届けてもらうことにする。
  このエルフはいつも暇を持て余している、これからもどんどん使ってやるといい。
  元気で。


  アラゴルン



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