Never Ending Story 3.Ring


 シャイアを訪れたガンダルフをまず迎え入れてくれのは、旧友の養子であるフロドだった。

「よく来ましたねっ、ガンダルフ!」
 馬車を止めた魔法使いをフロドは輝く蒼い瞳で迎え入れる。
「フロド……しばらくであったな」
 ホビットにしては珍しくも、繊細な容姿に聡明そうな瞳のフロドにガンダルフは目を細める。
「はいっ、元気そうで良かった」
「おまえもな」
「ガンダルフっ!」
「おっと……」
 飛んできた小さな体を受け止め、ガンダルフは笑み崩れた。
 不安に満ち溢れた世の中で、ホビットたちの陽気な無邪気さには、救われる思いがした。
「外の世界で起こったことを話して下さい。全部!」
「ほっほっほ……全部とは、また欲張りなホビットじゃて」
 どうやらこの若いホビットにもバギンズ家の血が脈々と受け継がれているらしい。
 蒼い瞳をきらきらと輝かせてねだられると、何でも話してやりたくなる。
「そうじゃ、フロド。儂としたことが言い忘れておった」
「何ですか?」

「誕生日おめでとう」

 目を零れ落ちそうに見開いて驚いたフロドは、すぐさま輝くような笑顔を浮かべ礼を口にした。
 その笑顔は純朴なホビットにしては至極魅力的で、美しいものだった。



 ガンダルフの旧友ホビットのビルボは百十一歳を迎えるというのに、驚くほど出会った頃と変わりが無かった。
 それは嬉しいことではあったが、気にもかかった。
 普通のホビットはこの年齢になれば老いるもの。個人差はあっても全く変わりが無いというのは不思議な ことだった。

「フロドに会ったよ。良い青年になった」
「当然だ。ボンクラとは出来が違う」
 ビルボは誇らしげに言い、嬉しそうにガンダルフのカップへと茶を注ぐ。
「旅に出るつもりか?」
「……ああ、そうだ。準備はもう整った」
「フロドは気づいている。連れてはいかないのかね?」
「言えばついてくるだろう。だが、フロドはまだシャイアに心を残している、私の我侭でそれを手放させる わけにはいかない」
 ビルボもそのことについては色々と考えたのだろう。
 ガンダルフは友の決意に無言で肩を叩いた。
 友の旅を静かに見送ろうと思ったのだ。
 だが。
 ビルボがかつての冒険の際に持ち帰った一つの指輪。
 その指輪に無性に執着する姿に、ガンダルフは危惧を抱いた。何か呪いがかけられているのか、それとも、 もっと他の何かなのか。何れにしても良いものではない。
 ガンダルフは微かな記憶を頼りに、調査に向かった。
 指輪を継ぐことになったフロドに決して人目に触れさせず、話さないことを約束させて。

 

 そして、ガンダルフは一刻の猶予もならぬことを知る。
 本当にあの指輪が、かつて冥王サウロンの指にあったものならば……シャイアに、フロドの元に恐るべき 災厄を招く。
 ガンダルフは後悔していた。
 あの指輪をビルボが手に入れた時、不穏なものを感じつつも忠言するだけで何もしなかった。
 あの時に処分させていれば……。
 己の愚かさが、今、何よりも尊く守ってきたはずのホビットたちを危機にさらしている。

「フロド、どうか無事でいてくれ……っ」
 馬を疾風のごとく駆けながら、ガンダルフは祈った。











 ガンダルフはシャイアにつくや、袋小路屋敷に向かい、フロドに会った。
 そしてすぐさま指輪を確認し、それが恐れていたものであることを知る。
「旅立つのじゃ」
「今、すぐにですか?」
「すぐに、早ければ早いほうが良い。敵の手はすぐそこまで迫っておる」
「ガンダルフ……あなたは?」
 聡明なホビットは荷造りをしながら、ガンダルフへと気遣わしげな視線を向ける。
 小さなホビット。戦になど到底むかないもの。
 ホビットたちだけで旅立たせるのは非常に不安だったが仕方が無い。ガンダルフにはやるべきことがある。
「踊る子馬亭で待ち合わせよう」
「はい」
「無事で、必ずまた会おう」
「はい、ガンダルフ……あなたも気をつけて」
 つらい運命を背負わせる。だが、ホビット以外の誰にも出来ないことなのだ。
 ガンダルフはフロドと庭師のサムを途中まで見送り、自身は賢者サルマンの要る塔へと急いだ。
 だが、その途中で寄らねばならぬところもある。
 さすらい人を捕まえることは難しいが、会って頼まなければならない。彼らのことを……。
 万一の時のために。





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