-美しきもの-

・・・・ 3








 戦場では嫌というほどの存在感で相手を威圧するというのに、平時のセフィロスには気配が全く無い。すぐ傍に近寄り声を掛けられるまで気がつかないことも多々ある。

「サー。会議は終わりですか?」
「くだらん報告だ」
 もう用は無いとばかりにさっさと踵を返すセフィロスにクラウドも続く。
「こらこらこらっ!無視するんじゃないぞっと!」
「何か用か?」
 まさに今その存在に気づいたように問いかける。意地が悪い。
 しかし誰もが遠巻きにして話しかけられないで居るセフィロスに普通に・・・というよりはかなり粗雑に声を掛けてくるなど、ただの人間には在り得ない。これが将官や佐官ならまだしも、クラウドより階級は高いとはいえ軍曹だ。しかも、セフィロスはどうやらその男を知っているらしい。
「英雄さんは相変わらずだぞ、と。俺は今、美人さんと話をしていたんだぞ、と」
「他をあたれ」
「おいおい。・・・ふーん、あの噂は本当なのかな、と」
 オドケた物言いとは反して、男の瞳が不穏な色を孕んで細められる。
 クラウドはその瞳を、半歩前進して受け止め・・・睨み返した。予想外の反応だったのか、男の瞳が驚いたように見開かれ・・・不穏な空気を一掃して、楽しそうに笑った。
「ひゅー気が強そうだぞっと。ザックスの好みにドンピシャ」
「・・・あんた、ザックスの知り合いか?」
「同期だぞ、と。俺はレノ。お見知りおきを、姫君」
 クラウドは不快そうに眉間に皺を寄せた。同僚に揶揄されたときのようにすぐに飛び掛っていきはしないが、レノと名乗った男はクラウドに最悪の印象を刻み込んだ。
「貴様がここで何をしているかなど聞かんが、面倒ごとを運びこむな」
 たいていの人間に無関心なセフィロスが珍しくも、相手を鬱陶しそうに追い払おうとしている。どうもただの『軍曹』というわけでは無いらしい。何者なのだろうか。
 ミッドガルに戻ったらザックスに尋ねてみようとクラウドは密かに思った。
「どんな噂か知りたくないのかな、と」
「「・・・・・・。・・・・・」」
 クラウドもセフィロスも揃って冷たい視線をレノに注いだ。その様子があまりにそっくりだったので、レノは思わず苦笑を浮かべた。

 『セフィロスが新しく出来た小姓に骨抜きにされている』

 その噂は知る人ぞ知る、というものだ。
 しかし、実際に二人にあってみれば・・・その噂の真偽は明らかだ。幾ら隠しても付き合っているならばそれなりの空気というものがある。だが、クラウドとセフィロスの間にはそういうものが全く感じ取れない。見た目先行で噂が先走った結果なのか。
 だが待てよ、とレノは思う。
 クラウドのほうはともかく、セフィロスのクラウドへの態度はやはり今までつけたことのある下士官に対するものとは違うように感じられる。そこにあるのが下世話なものなんか、ただの興味か、それ以外の何かなのか・・・セフィロスから感じ取ることは出来ない。

「クラウド、戻るぞ」
「アイ・アイ・サー」
 二人はレノを無視して、踵を返す。
「まーまー、ちょっと待って欲しいんだぞっと」
 部下の間でひそかに『殺人光線』と呼ばれるセフィロスの視線がレノに向けられる。
 それをへらりとした笑顔で受け流す。・・・ザックスと通じるところがある。さすがに同期だと、クラウドは変なところで納得した。
「英雄さんにも手伝って欲しいんだぞっと」
「・・・ルーファウスか」
 今度こそセフィロスは明らかに不快そうに名前をつむいだ。
 クラウドはどこかで聞いたことのあるその名前を、何とか思い出そうとする。
「ちょっと厄介なことになってるんだぞっと」
「幹部ども何も問題は無いと言っていたが?」
「逃亡ってことで処理されてるんだぞっと。英雄さんも昔の二の舞にはさせたくないだろう?」
 セフィロスが発した鬼気にクラウドの全身の毛が逆立った。触らぬ神に何とやらで・・・見てみぬふりで遠巻きにしていた基地の兵士たちの足が止まり、顔色を悪くしている。
 レノの言葉の何かがセフィロスの癇に障ったらしい。セフィロスに出会って、ここまで感情を表に出すのを初めて見るクラウドは、セフィロスの顔を思わず見上げた。
 その視線に気づいたセフィロスが、一つゆるりと瞬きし・・・魔晄に煌き始めていた瞳を隠した。

「どうするんだぞっと」
「・・・詳しい話を聞こう」
「そっちのお姫さんは?」
「クラウドならば問題は無い」
 どうやらクラウドも付き合わされるらしい。
「ミッドガルへの帰還は?」
「遅れるな」
 クラウドの問いにセフィロスは平然と返す。
「ザックスが頭が爆発しますよ」
 セフィロスの帰りが遅くなればそれだけ決済待ちの書類は増えることになる。今頃留守番させられているザックスは、二人が帰ってくるのを今か今かと待ち構えていることだろう。
「元よりあいつの頭は爆発している」
「そうそう中身もだぞっと」
「・・・・・・・・」
 残念ながらこの場でそれらを否定する者は一人も居なかった。











  



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レノって軽そうに見えて色々と考えてそうです。
そして自分はここまで、という引き際を知ってる人だと思う。