シンデレラ・カプリッチオ 1



「新年のパーティ?」
 
 ヘンリーの店(セシリアが眉をしかめる方)に誘われて、何人かの女の子に囲まれて上機嫌で飲んでいた秋生は、隣に座る白いチャイナを纏った女の子の言葉に首を傾げた。
 香港の新年の祝いが、恐ろしく派手で賑やかであることは知っていたが。
「ここで?」
「はい」
 秋生の脳裏に強面のお兄さんたちが群れている光景が広がった。
(んー……)
 ヘンリーに慣れてしまっているので、怖いとは思わないが……微妙だ。
「今年は仮装パーティで、何に仮装するか皆で相談してるんです」
「へぇ」
 女の子たちも参加するのか……それは華やいでいていいなぁとぼんやり思う。
「秋生さんもいらっしゃいませんか?」
「え?僕?」
 聞くと贔屓筋の客たちも呼んでいるらしい。秋生もヘンリーの知り合いということで、そのおこぼれに預かれるといったところか。
「でも、仮装なんてしたこと無いんだけど」
「それは大丈夫です。秋生さんがいらっしゃるなら、私たち用意しますから」
 女の子たちが嬉しそうに頷いている。
 秋生とて、男だ。女の子たちにかまってもらって嬉しくないわけがない。
「それじゃ、僕も参加させてもらおうかな……」

「おう、何に参加するって?」

「ヘンリー」
 ちょっと野暮用だと席をはずしていたヘンリーが帰ってきた。
 近くに居た女の子が、手際よくヘンリーの気に入りの酒を用意して手渡している。
「仮装パーティに誘われたんだ」
「ん、ああ……新年のか」
 秋生とヘンリーの会話はまるで友人同士のやりとりで、どちらかが下というわけでもない。
 気のあった親密な間柄だということはわかるのだが、片や黒社会の大物、片や普通の 特に目立ったところの無い少々気弱にさえ見える青年……この二人の接点がいったいどの あたりにあるのか、誰にもわからなかったが、それは尋ねてはならないことはこの店では 暗黙の了解のようになっている。ただ、ヘンリーが友人のように付き合いながらも青年のこと…… をとても大切に扱っているらしいことは、青年に対する常に無い細やかな気遣いなどから察 することができる。色々な意味で、店の者にとって秋生は『特別』な客だった。
「だが、予定はいいのか?」
「予定?」
「まぁ……あいつらが、何か計画してるんじゃねぇのか?」
「え?そうなの?」
 とても不思議そうな顔で問い返されて、ヘンリーが困惑した表情を浮かべた。
 この黄龍の転生体である青年と筆頭聖獣の青龍は、世間のイベント事に疎いというか淡白 というか……主従よく似ている。そういえば、クリスマスだとてセシリアが言い出すまで、彼等 は何事もなく普段通りに過ごして終りにするつもりだったらしい。

 『信じられない!クリスマスよ?!クリスマスっていったらパーティじゃない!』
 『えぇ……?』
 『そうなの!ちゃんとプレゼント用意しておくのよ!』
 『セシリア、ミスター・工藤にもご予定というものがある。お前の勝手で……』
 『うるさいわよ!今頃こんなところでボケボケしてる秋生に予定なんてあるわけ無いでしょ!』
 『酷いよセシリア……』
 『何よ。何か予定があるっていうの?』
 『いや、別に無いけど……』
 『ほらご覧なさい!このあたしが付き合ってあげるっていうんだから、ちゃんと予定空けておく こと!場所はビンセントの家で!』
 『え?ビンセントこそ、予定が入ってるんじゃ……』
 『特に何もございません。私も参加させていただいてもよろしいですか?』
 『ん、それは……まぁ、ビンセントの家でやるんだし』


 その後、ヘンリーや玄冥にも招集がかかったわけだが。


「でも、新年っていったらビンセントも仕事の付き合いで忙しいんじゃないかな?」
「……まぁ」
 確かに忙しいだろうが、秋生のためならばそんなもの1つや2つ……あるだけ踏み潰すだろう。
「でもさ、何で仮装パーティなわけ?」
「さぁな……誰かが面白がって言い出したんだろ」
「ふーん、でも何か楽しそうだよね」
 淡白ではあるが、面白そうなことは好きで好奇心旺盛な秋生はすっかり参加するつもりだ。
「……」

 どうも嫌な予感がしてならないヘンリーだった。





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