+日出る国にて 4
セシリアとの買い物を終えて・・・途中で知り合いから意味深な笑顔と物問いたげな視線を
そそがれつつ・・・自宅に帰ってきた二人の耳に電話の呼び出し音が届いた。
「あたしが出るわけにはいかなわよね」
「父さんかな・・?」
買い物袋を置き、受話器を取ると案の定相手は父親だった。
『秋生か。迎えにはいけなかったが時間どおり着いたようだな』
「うん、大丈夫。それよりちょっと話したいことが・・・」
『何だ?』
「実はセシリア・・・覚えてる?従兄弟の」
『ああ、セシリア嬢か・・・それがどうした?』
「一緒に来てるんだ・・・観光がしたいって」
『秋生、まさかお前・・・・』
「違うっ違うっ!ただの観光だって!」
頭を振って必死に否定する秋生の向こうで不審げなセシリアが伺っていた。
『まぁ、そういうことにしておいてやるが・・・・』
「うちに泊まってもらってもいいかな?」
『ああ、もちろん。さんざんお前が向こうでお世話になっているからな。いくらの恩返しにも
ならんとは思うが、好きなだけ泊まってもらうといい』
「ありがと。で、父さんの用事は?」
『ああ、今日の夕食なんだが・・・』
「うん?家に帰ってくるんじゃないの?」
『それが・・・断りきれない相手から夕食の誘いを頂いてな』
「あ、それなら大丈夫。適当に何か作って食べるから」
『いやいや、私も一応お前が帰国したから先方に断りを入れたんだが、そうしたらご子息も
ご一緒にどうぞと言われてな』
「僕も?」
父親の取引相手と食事するなど今まで一度も無かったことだけに秋生も首をかしげる。
『ああ、是非にと仰っていてな。男ばかりじゃなんだし、セシリア嬢も一緒に連れてくるといい』
「うーん、わかった」
『時間と場所は・・・帝国ホテルに7時で』
「うん、わかった」
『では、ロビーで』
「うん」
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「う~ん・・・」
かちゃり、と受話器を置いた秋生はまだ首を傾げていた。
「どうしたの?お父様は何だって?」
「何だか、今日取引相手に食事に誘われたんだって。で僕らも一緒にどうかって」
「どこで?」
「帝国ホテル」
「へぇ、いいじゃない。行きましょ行きましょ♪」
セシリアは乗り気だ・・・もしかして、夕食作る手間が省けたからかもしれない。
だが、秋生は腑に落ちないものを感じ続けていていた。
・・・しかし、それはすぐにすっきりすることになるのだが。
「こんにちわ、秋生さん」
「「・・・・・・。・・・・・・」」
待ち合わせの時間に秋生たちをロビーで待っていたのは父と・・・ビンセントだった。
脱力感が秋生を襲う。
「ビ・・・ミスター・青。こんばんは。今日は僕までお誘いいただいて・・・すみません」
ひきつりつつも秋生は何とかそれだけ言葉にした。
背後でセシリアがふん、と鼻を鳴らすような気配があったが・・・。
「ミスター・青。秋生の後ろのお嬢さんは従兄妹のお嬢さんなんですが、香港から日本へ観光に
いらしていまして、一緒にと思いましてね。よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。これほど美しいお嬢さんがご一緒ならさぞ楽しい席になるでしょう」
「「・・・・・。・・・・・・」」
秋生は呆れて言葉にならない。
セシリアはいつものことながらの特大ネコを被ったビンセントに呆れを通り越して悪寒がした。
そんな二人の反応も知らず、秋生の父親はビンセントと笑いあっている。
「何だか、あたし・・・一気に疲れたわ」
「同じく」
そして納得したのだった。
ビンセントがあまり詳しく秋生のことを聞かなかった理由を。
取引相手が父親なら秋生に聞くまでもなく、父親から簡単に探りだせるだろう。
本当にどこまでも抜かりのない男である。
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